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市立探偵・稲生双六 「黒字館殺人事件」 第一回

稲生双六(いなおすごろく)は市立探偵である。私立探偵ではない、神奈川県の地方都市である明田市によって設立された探偵だから市立探偵なのである。

そもそも明田市に「探偵部門を作ろう」と言い出したのは、市長を5期つとめている稲生花札(いなおはなふだ)である。名前からお察しであろうが何を隠そう包み隠さず申し上げれば双六の父親である。

双六が裏口入学で入った大学を中退して仕事にも就かずブラブラしていたのを稲生家の恥と考えて、市の探偵として雇用したいと市議会を通さずに勝手に探偵部門を作ってしまったのだった。断っておくが市立であるから明田市民の血税をバカ息子に使うということである。稲生家は明田市に寄生する蟯虫のような存在なのである。

その寄生虫の幼虫である双六は子供の頃から読んだこともないくせにテレビドラマを観ただけで明智小五郎や金田一耕助や神津恭介に憧れて探偵ごっこに明け暮れ、それが中学、高校、大学時代も同じことをしていた。幼児のままに大人になったような奴だ。社会に出て働きたくないと親の脛を噛って生きてきた。30歳を越えた今でも幼稚な探偵ごっこの延長をしたいと花札にせがんだらしい。バカは遺伝するらしい。

しかし、バカでも、甘やかされて育った寄生虫の幼虫でも何かしらの取り柄があるもので、これまで続けてきた探偵ごっこが功を奏し、推理力だけには優れているのだった。

明田市は、湘南の海岸からは20キロ、丹沢山塊からも同じくらいの距離の位置にある。観光地でもない、都心への通勤時間も相当かかってしまう。

半導体部品時の企業がひとつあるだけの特徴のない町なのだ。そんな明田市で連続殺人事件が発生するのだった。

つづく

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