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名古屋に因縁がある人のための、名古屋を通らずに東京から大阪へ行く方法

名古屋、それは東京から陸路で京都・大阪へ向かう人々にとって避けては通れない土地、のように思われた。

が、実は局所的に航路を経由することで、ほぼ陸路と言って差し支えないながら名古屋の土を踏まずに行くルートというものが存在するのである。

関西への変な行き方として鉄道マニアが真っ先に思いつくのは中央本線経由であるが、終点まで乗っても名古屋の手前である金山から東海道線に合流してしまうから意味がない。名古屋を目前とした多治見から太多線に乗り換えれば岐阜方面に迂回でき、名古屋という街そのものは通らずに済むが、多治見は既に名古屋「圏」であると言われてしまえばそれまでである。

ではどうすればいいのか。端的に図示すると、以下のような経路が存在する。

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豊橋までは一般的なルート(東海道)を経由しつつも、見事なまでに名古屋圏を回避している。これならば、名古屋という街に何らかの恨み、あるいは忌まわしい記憶を抱いている方でも、心中の平穏を保ちながら関西へと移動することが可能である(名古屋の方ごめんなさい。名古屋はいいところです)

冗談はこれくらいにしつつ、この経路、新幹線や空路、東海道線の鈍行といった主要な手段に食傷気味な人にはおすすめできるルートである。もしこの潜行に強く惹かれた方がいれば、いますぐブラウザバックしてお手元の時刻表をめくっていただきたい。旅行を前にネタバレしてしまっては興が削がれるからである。そうでない方については、自分が3年前の夏に旅したときの模様をご一読いただければと思う。

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東京から豊橋までの交通手段は枚挙に暇がないが、新宿からずばり豊橋までの夜行バスが存在するから、時間を有効に活用したい諸兄姉はこれを利用するのがいい。

「ほの国号」は、関東バスと豊鉄バスが共同運行する夜行高速バスである。練馬駅を始発とし、バスタ新宿を23:55に出て豊橋駅前には明朝5:40に着く。時間的には申し分ないが、4列シート車である割に運賃は5,000円とさして安くはない。同様の設備であればはるかに安く、豊橋のさらに先である名古屋まで行くことができるであろう。あくまで翌朝豊橋に着きたい人のための最善手というわけである。

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明朝豊橋駅前に着く。

ここから渥美半島を辿るのがこのルートの肝なのであるが、実はこのバス、この先半島のさらに先に位置する三河田原まで直通してくれる。ではなぜ自分がバスを豊橋で乗り捨てたのかといえば、豊橋から田原までは豊橋鉄道の電車でも行くことができ、かつ自分が一応の鉄道マニアだからである。

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豊橋での接続は申し分なく、5:56発の三河田原行きに乗ればよい。東急電鉄のお古が余生を送っている。

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豊橋ではこのようなきっぷを購入した。豊橋からの鉄道線、田原から伊良湖岬までのバス、そして伊良湖から伊良湖水道の対岸・鳥羽までのフェリーがすべて含まれた企画乗車券である。伊勢への短絡ルートとして、公共交通を乗り継いでいくことも想定されているらしい。

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30分ほど平凡な車窓を眺めつつ着いた終点は、存外に立派な駅であった。

ここから豊鉄の路線バス・伊良湖本線に乗り継ぐ。接続はよく、17分後の発車である。

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半島らしい、山に縁取られた繊細な景色を眺めながら突端へと向かう。フォークソング「岬めぐり」の牧歌的な旋律が似合う車窓である。

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終点に近づくにつれ客は数えるほどになり、50分ほどの乗車の末に伊良湖岬バス停着。フェリーターミナルの目の前であった。

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道の駅が併設された小ぶりな港で30分ほど時間を潰す。東海道から半島1本分外れただけでこの静けさであるから、王道を外れてみるのも悪くはない。

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乗船が始まる。フェリーらしく自動車の乗り込みは一定数見られ、逆に身体一つで乗る客はまばらであった。

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8時10分、小ぶりなフェリーは伊良湖岬を出発した。船旅といっても1時間足らずのものであるから、潮風の心地よい甲板にいることにする。

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遠くに伊勢湾内を航行する船を眺めながら、島々の間を縫うようにフェリーは進む。

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眼前に志摩半島が迫るとそこはもう鳥羽の港である。リゾート地らしい瀟洒な建物に囲まれながら、船は伊勢へと到着した。

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下船時に船室を覗いてみたところ、なかなか快適そうであった。紫外線を避けたい方や潮風でべとべとになりたくない方にはおすすめである。

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鳥羽は水族館を擁するほか、真珠の養殖でも有名な土地である。ここから近鉄の電車でさらに南下すると、これも有名観光地である志摩へとたどり着くことができる。

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頭書の目的通り大阪に向かうのであれば、港の最寄りである中ノ郷駅あたりから近鉄を利用するのが賢明であろう。しかし自分は「青春18きっぷ」を使って寄り道するところがあるため、近鉄の線路に沿って南国めいた鳥羽の街を少々歩き、JRの鳥羽駅へとやってきた。

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そして右に写る近鉄の電車ではなく、JR参宮線の快速「みえ」に乗車。

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進行方向右側に席を取り、風光明媚な伊勢湾を車窓に眺めながら松阪着。

このあと自分は名松線というローカル線に乗り、終点の伊勢奥津まで往復したのであるが、完全な寄り道であるためその模様は割愛する。

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余談であるが、松阪駅前にある商店街の寂れっぷりは一級品であったので、惹かれる方はぜひお立ち寄りいただきたい。

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その後自分は紀勢本線で亀山まで北上した後、関西本線で西進を再開。奈良県を横断した後……

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19時前に大阪へと到着したのであった。くどいようであるが、万が一にも名古屋は経由していない。

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これが今回の行程表である(3年前の時刻であることに注意されたし)。単純に京都・大阪へ急ぐのであれば、鳥羽から近鉄を使うことで時間の大幅な短縮が見込まれることから、関西行きの手段として十分に実用可能であろう。もちろん伊勢・志摩を観光してから向かうのが最適解であることは言うまでもない。名松線など往復するのは論外もいいところである。

最後になるが、自分がこの経路を発見したのは浪人中、戯れに時刻表の巻頭地図を眺めていたときのことであった。バスやフェリーといったあらゆる経路が掲載されている時刻表の地図は、こうした裏ルートの宝庫である。これを読んでくれた諸兄姉におかれても、時刻表をめくって自分だけのルートを発見し、一風変わった謎旅行を楽しんでみてはいかがだろうか。

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