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自己PR

就職活動を始める前に、身近な友人の数人かに「他者から見た自分の特徴」について尋ねたことがある。「自分の考えを持っている」「損得勘定で動かない」「自分に対しても他者に対しても誠実であろうとしている」「自分の信念を貫こうとする強さを感じる」といった文言が並んだ。それらは概ね自らの自身に対する見立てと一致していた。だが、実際に私が就職活動で用いた自己PRは、「私には課題を発見する力と、それを発展的に解決する力があります」といったものだった。就活の現場においては、限られた紙幅でアピールする「明快さ」と、過去の目立った活動等のエピソードに裏付けられる「説得力」とが重視される。先のPRは、そうした要請に応えつつ過去を振り返りながら導き出された回答であり、虚偽では全くなかった。とはいえ、そうした即席の自己像は心から誇りに思えるものではなく、それを自分の看板のように語ることには「誠実でないことをしている」という後ろめたさが拭えなかった。

「誠実とはなんて空しいことばだろう」と、アメリカ合衆国の歌手であるビリー・ジョエルは歌っている。たしかに、誠実であろうとすることは難しく、誠実であることを他者に示すのもまた難しい。「きれいごとである」と厭世的に考えてしまうこともある。それでも自分は常に誠実であろうと努めている。なぜなら、私は常に他者と生きているからだ。他人と生きている以上、私には常に他者の心を慮る義務がある。だからこそ、私は自らが発したことばの行方にまで責任を持つ。空虚なことばで他者を弄したり、あるいは自分を取り繕ったりすることで自らを利することができるとしても、それは私のための手段ではない。「心のこもったことば」を常に発することが、私の考える誠実さの要件である。そうした姿勢を、私は行動を以て周囲に示そうとしてきた。断片的なことばがときに嘘をつく以上、体現するほかに術を思いつかなかったからである。つまり私にとっては、日々の暮らしこそが自らの姿勢を身を以て示す、唯一無二の「自己PR」の場であったということになる。

とはいえ、誠実であることが「何の役に立つのか」と訊かれると返答に窮する。理想主義的であるという指摘を受けても仕方のないことかもしれない。それでも常に誠実であろうと努めること、そのために一度立ち止まり、何事も自分の基準にしたがって自分の頭で考えてみること、そして潮流の中にあっても自分を見失わず、ときには損を承知の上で自分の意見を発すること、これらが自分の持ち味であり、大切にしたい姿勢であると心から述べることができる。(1067文字)

この文章は、某団体の新卒採用における作文試験(テーマ:自己PR)への回答として、実際に提出したものです。

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