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D&D2024年版PHBのデザイン

こちらは、7月16日に配信された「Art and Design | 2024 Player's Handbook | D&D」の内容を日本語でまとめたものです。必要な解説も中に交えて説明するので、初心者も読みやすいです。

デザインの主な方向性

メインテーマは「門」であり、プロトルネサンスや中世の宗教芸術、つまり祭壇画の影響を受けている。
この本を通じて異世界へ旅立つ門を潜ることになる。

デザインの「物語」

例えばグレート・オールド・ワンのウォーロックは背景に触手が出ていたり、実際に契約相手を垣間見ることができる。さらに、片目を隠していて、ソーサラーのアートには目玉の入った瓶がある。この二人は交換した友達、それとも敵?

文字量とデザイン

今までのルルブより文字量が増えていることから、ユーザが文章を読むときに圧倒されるのではないかという懸念があった。2024年版では初心者が本に釘付けになるように、アートを用いてどういう呪文や状況が語られているのかを補強した。もう少し優しく引き込まれ、移行が少し簡単になることを願っている。

ユーザエクスペリエンス

アートはもちろんだが、本のレイアウトをデザインしたジェレミー、クリス、ジェイムスとウェストらは我々アート班以上に尊敬に値すると思う。
何より階層化がとても優秀だ。ページ番号を大きくするという単純な一点をとってもユーザが情報を見つけやすくしている。

片目が無いウォーロック
目玉を瓶詰めにしてるソーサラー

キャラクターを作成するときの流れ

キャラ作成を始めるとまずは設計段階を表す線画のアートが表示され、そこからクラスやサブクラスに移行すると綺麗なアートが表示され引き込まれる。今までのPHBに慣れていた人にこそ進化を感じてほしい圧倒的なものだ。D&Dの本質も物語を作ることにあるのでキャラ作成も同じく物語を創造する旅だ。

まだキャラクターが出来上がっていないから線画のみ

マルチクラスのアート

気になっているのが、復讐の誓いのパラディンとグレート・オールド・ワンのウォーロックのマルチクラスをしたキャラクターのアートだ。丁寧にデザインしたサブクラス同士がこうして融合するのは素晴らしいし、復讐のパラディンの「中二病さ」とグレート・オールド・ワンの「奇妙さ」が素晴らしい調和を作っている。

パラディンとウォーロックを組み合わせた可能性

世界観のアート

個人的なお気に入りのアートは、小さなノームが水晶玉を通じて母親か祖母らしき人物と話しているところだ。この世界に忠実で、家族が電話で話しているようなシーンを思い描いてる。魅力的ですごく「甘々」なものだ。

フェイワイルドからやってきたロックスターの惑わしのバードもお気に入りだ。これはバードというクラスにもう一つの道(ロックスター)を示したものだ。PHBにこのサブクラスが収録されていると知るやいなや、これをロックスターにしたい、ロックスターにしなければならないと思った。

呪文のアート

呪文というものは射程があり、特定の効果を、特定の範囲内に与えるものが多い。ファイアボールの呪文では、魔法使いが細長い火炎放射器のようなものを発動してる。蜘蛛で満たされた森で、蜘蛛を焼いている描写が術者の表情含めとても素晴らしかった。

ハンガー・オヴ・ハダルの呪文もその恐ろしさが浮き出ている。アート班でもリテイクをするときに「もう少し恐ろしくようか!」などの話もしていた。

ファミリアのアート

この話題を待ってた!
ファインド・ファミリアで選ぶ使い魔は普通の使い魔である必用は無い。このアートはPLにどういう使い魔を召喚しても良いのかを提示する。
トップハットを着た梟かもしれないし、キモかわいい大きな目玉を持った蜘蛛のようななにかを召喚しても良い。こういう奇妙な使い魔が君の肩に乗っていると最高に「ファンタジー」って感じがしないか?

アートを通じたD&Dの表現

PHBの目的の一つがPLにD&Dが何なのかを教育することだ。クラスのアートを見るだけで、このクラスが何をするのかが一発でわかるだけではなく、その人物についても知る事ができる。

アートについて特筆したいのが、武器と防具についての部分だ。ハイドアーマーなどは初めて描かれていて、スピアとパイクとランスの違いもやっと分かるようになった。

ハイド・アーマー
パイク、ランス、スピア

背景についても「よし、クラスを決めた、次は背景だ……」とまるでパズルを組み立てるように絵を見て選べる。背景はどこから来たかという環境が重要なので、意図的に人物を描いてない。サブクラスがページの外側に垂直に配置されているのと同様に、背景も決まったデザインの理念をもって設計した。

種族のアート

種族のアートは、「この人たちはどういう連中?」を物語る。ゴライアスが巨大な岩の柱を動かし、ノームが小さなロボットを作成している様子が描かれている。それぞれが独自の個性を持っていて、種族ごとの「物語」を描いている。エルフの種族では、美しいフレームで囲まれた建築物が描かれている。ドワーフの種族は、なにかアイテムを作っているドワーフたちが居て、そこに差し入れをしてる別のドワーフもいる生活感に注目してほしい。オークの種族でも魅力的なコミュニティが描かれている。

ティーフリング
ゴライアス
ノーム
エルフ
ドワーフ
オーク
ヒューマン

「君が遊ぶキャラはどういうコミュニティに所属をしているのか」を物語る。

過去へのラブレター

新しいPHBはD&Dの過去版へのラブレターだ。古い本のスタイルもあれば、これまでに見たことのないスタイルが融合してる。表紙や内部のアートについてアーティストの一人であるタイラー・ジェイコブス曰く、古いイーズレイ(*)の絵を呼び起こそうとしていることがわかる。多元宇宙の様子を示すアートもあり、レイストリンとキャラモン(*2)がワイバーンと戦っているシーンもある。

50年間の歴史が溜まっている上、プレイヤーが独自に築いた世界もある。我々は過去を振り返り、世界を広げ、より多くの人が参加できることを理念としている。

*:イーズレイとはJeff Easleyのことで、過去の象徴的なD&Dのアートを作った人です。
*2:レイストリンとキャラモンはドラゴンランス世界のランスの英雄と呼ばれる冒険者グループのウィザードとファイターです。

挑戦

このプロジェクトでは多くのことに挑戦できた。ゲームのデータは明確でわかりやすいものを目指し、ここまでの洗練に至るまでに多くの反復を行ってきた。長い工程を必用としたが、満足のいく形で結実しているように感じた。

アートは言うまでもなく、この本の中心である。ぜひ美しさに圧倒されてほしい。この数年間で最も面白かったのは、ジェレミー・クロフォードの頭の中を少し垣間見ることができたことだ。データやルールの階層構造をわずかに変更し、その読み方と理解の仕方に大きな影響を与えているところを見る事ができた。セリフ体の前にサンセリフ体を使うなど、本当に細かい配慮がされている。読む上でストレスを感じずに情報を把握できれば嬉しい。

最後に

作業をしている間、我々はチームとして一丸になってずっと仕事をしていた。いろんな製品を手掛けたが、これがおそらく「一丸」という言葉がふさわしいものだと思う。

ほぼ完成したと思うと、不思議な気持ちだ。この素晴らしい人々と一緒に仕事ができたのは嬉しい買った。アーティストは何よりも作品のファンであり、すべてを実現してくれる存在だと思う。特に、グラフィックデザイナーであるマットと一緒に働くことで、情報の見せ方についての思慮深さに感動している。この本には多くの愛が込められている。

印刷まで近づいてきて、ここまで来れたのはアーティストやデザイナーのおかげだけではなく、途中で支えてくれたファンの皆さんのおかげでもあることを実感できる。視覚的な刺激をアートで促すことで、新たしいアーティストを迎え入れ、今後もD&Dの描写の幅を広げたいと思う。

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