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読了記録「法水麟太郎 全短篇」

いやあ、手こずった。たかが500頁にも満たない文庫本を読み終えるのに、ここまでとはね。

巻末の解説を見る限り、収録された作品はすべて昭和8年からの約4年の間に書かれたもの。

それにしても、題材や舞台のバリエーションたるや、幅広いというよりも、支離滅裂といった方がいいかも。オーストリア海軍の潜水艇の中の密室殺人って? 登場人物も、ドイツ人、ロシア人、フランス人と多国籍、さらにはシェークスピア俳優、マッドサイエンティストに、梅毒持ちのスペイン娼婦にフリークス、メチルで盲人となったサブマリナーと、読んでる方の想像力も追いつかないほど。

しかし、夢野久作といい、小栗虫太郎にしても、この当時からルビで外国語を読ませることを平気でやってるのよね。「海の別嬪さん」という船名に「シー・ベル」とルビを振るのよ。

そして「失楽園殺人事件」の舞台の、「パノラマ島綺譚」を軽く凌駕するかの如き、複雑怪奇なイカレっぷり。

しかも、法水くんは、毎回、いけしゃあしゃあと最後に謎解きを披露してくれるのだが、読んでるこちらとしては「ちょっとそれ、何言ってるかわからない…」という、サンドイッチマン状況に放りこまれるのよ。

本人的には、事件の肝となるトリックの物理的化学的解説を試みてるつもりなんだろうけど、ぶっちゃけ「それホントに再現して実証できんのかよ?」という牽強付会の極みとしか思えない。

まあ、そこもオレには面白いんだけどね…。

それにしても、こんな作品が昭和初期からあるんだもん。そりゃあ、いわゆる島田荘司の新本格以降のメフィスト系の一連のメタミステリ作品群や作家さんたちが嬉々として大手を振って生まれてくるわけですね…と改めて思いました。

いわゆる脱構築以前に、この時期の奇書とも呼ばれる日本の古典的ミステリたちは、陽の当たらない箱庭に誂えられた、基礎も骨組構造もない脆いプレパラートだけで組み上げた硝子細工の宮殿模型のような存在なのかもしれないと、取り立ててジャンル自体には陽炎程度の思い入れしかないオレのようなミステリ読みは思ってしまいます。

この世のすべては、泡沫の夢まぼろしということで。

さて、小栗虫太郎の文体は果たして美文と呼べるのか? 結局オレには判断つきませんでした。

よかったら、違う視点からのご意見を求めます。

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