2022/12/10(金) FIFA WORLD CUP QATAR 2022  Quarter-final モロッコvsポルトガル 〜不揃いのカードでの戦い〜

みなさんごきげんよう。アジアンベコムです。このような企画▼に参加しており、私は決勝トーナメントではポルトガルを担当します。担当チームが残れば記事を書き続けるシステムです。

1.ゲームの戦略的論点とポイント

✔︎スターティングメンバー

スターティングメンバー
  • モロッコは左CBの6サイス、左SBの3マズラウィが負傷でメンバー外。代役は18エルミヤクと25アティヤットアラーでいずれも今大会初先発。

  • ポルトガルは、メンバーはラウンド16からカルバーリョ⇨ルーヴェン ネヴェスだけ交代。システムはグループステージと同様の1-4-1-2-3に戻していますが、おそらく相手のシステムがアンカー+インサイドハーフの逆三角形型ならポルトガルもアンカーにルーヴェン ネヴェスを置いて、インサイドハーフがアンカーの脇を狙うことを意識しているのだと思います。

2.試合展開

✔︎構図の確認(スペースを消すモロッコ)

  • モロッコは、ボール非保持の際は基本陣形が1-4-1-4-1。ブロックの高さは、トップのエンネシリが自陣センターサークル内くらいからスタートすることが多く、一方で最終ラインはペナルティエリアから10-15mくらいの距離に設定するコンパクトなブロックを作ります。

  • かつて松田浩氏が「4-4ブロックにアンカーを置くとどうしてもアンカーが色々カバーするチームになってしまい4-4の間にスペースができて、本末転倒っぽくなる」(意訳)と言っていましたが、モロッコにはそれが当てはまる状況が殆ど生じず、人に引っ張られてスペースが空くことはあってもライン設定は常にコンパクトさを保っていたと思います。

ポルトガルのボール保持とスペースを消すモロッコ
  • 対するポルトガルは、試合開始時から大外のSBが高めのポジションをとり、両ワイドのフェリックスとベルナルドは中央に入ってシャドーのような振る舞いをします。そしてアンカーのルーベンネヴェスが下がって、人の配置は1-3-2-5のような並びに。この変形をすることは最初から決めていたのでしょう。

  • ラウンド16のスイス戦では、ポルトガルのSBは最初からそこまで高い位置をとっておらず、CBがbuild upで詰まった時に助けられるように、サイドでサポートする(ボールをサイドに逃がせる)ポジションを取ることが多かったと思います。

  • この試合で最初からSBがウイングに近いポジショニングだったのは、モロッコはそこまで高い位置からpressingを仕掛けないので、SBが低い位置でサポートするよりも、高い位置をとって、モロッコの両ワイド…ツィエク(検索用:ジエシュ、ジエフ、シエシュetc)とブファルを押し込んで、守備でエネルギーを使わせたり、カウンターの開始位置を低くしたりすることを狙っていたのでしょう。

✔︎アウトサイドでクオリティが問われる展開に

  • モロッコは、ポルトガルの左CBルベン ディアスがボールを受けると、そこからのconducciónや縦パスを警戒していたと思います。ぺぺがボールを持つのは気にしてないのか?というと、そうではないと思いますが、右サイドにはベルナルドが降りてくることが多く、必然とここではペペよりもベルナルドを見る形になっていた、が正解でしょうか。

  • ポルトガルは少なくとも10-15分くらいは簡単に前にボールを蹴らずに、ボールを動かしながらモロッコの対応を見極めていましたが、その見極めのポイントとしては主に、モロッコの中央3枚のMFがどのように動くか、そしてブロックの中央にスペースができてポルトガルが使うことは可能か?を見極めていたと思います。

  • 見極めとは、具体的にはベルナルドにぺぺから縦パスを入れてすぐに戻す。レイオフと呼ばれるプレーですが、他にもオタビオや、フェリックスも降りてきて(ブロックの中ではなくてブロックの手前で)ボールを受けて、モロッコがどれくらいポルトガルの選手を捕まえに出てくるのかを把握していました。

  • モロッコの選手が前に出て、ポルトガルの選手を捕まえることに熱心ならば、その選手が出たことで生じたスペースをポルトガルは使って、中央から前線のアタッカーにボールをデリバリーしていたと思います。

  • ただ、モロッコの中央のディフェンスは堅く、ボールにアプローチした後ですぐにポジションに戻る(松田浩さんは「ボクサーがジャブを打ってすぐガードの姿勢をとる みたいなイメージで」と言っていましたが)ことを徹底して、なかなかポルトガルは中央に使いたいスペースが空かない状況でした。

  • こうなると、中央ではなくサイドを主戦場とする選手の働きやクオリティが問われるのが、サッカーという競技の常。ポルトガルはピッチを横切るパスでゲレイロとダロトの両SBにフィードを送ります。が、モロッコは当然この展開を読んでいて、基本的にはモロッコの両SB、ハキミとアティヤットアラーがすぐに距離を詰めます。

  • 結果、ポルトガルはサイドからは、ドリブルでの仕掛けが少なく、中央のスペースを消された状態での放り込みに終始します。シュートに繋がったプレーは39分、ゲレイロのマイナス気味のクロスボール。それまでと異なる(よくいう”アイディアを発揮した”)プレー選択からフェリックスがボレーで狙いますが大きく枠を外れました。

✔︎アーリークロスから先制

  • フェリックスのシュートの直後42分にモロッコが先制します。

  • モロッコはボールを保持すると、ポルトガルのpressingをGKを使って回避することは殆どなかったと思います(それをやるくらいなら前線に蹴ってました)。ただ、日本のように「とにかく早く前線に蹴らないと死んじゃうのか?」みたいな様子ではなくて、基本的にはジエシュ、ハキミ、ブファルが個人でボールを運ぶことが多かったですが、それでもゴール自体は展開としては脈略がないものだったと言えるでしょう。エンネシリが驚異的な高さを見せつけましたが、彼のエアバトルを押し出すこともそれまでは殆どなかったと思います。

✔︎クリロナとカンセロ登場

  • 後半に入って51分に、ポルトガルはクリロナとカンセロがin、ゲレイロとルーヴェン ネヴェスを下げ、クリロナがトップ、ラモスをその下に置く1-4-2-3-1に変更。

  • クリロナは裏抜けからボールを呼び込んだりするものの、ポルトガルはシンプルに裏に蹴ったりは殆どしないので、次第にクリロナがボールホルダーに寄ってポストプレーする光景が増えます。

  • そして左サイドでは、ゲレイロが下がったことで大外でプレーできる選手が不在になります。試合展開を考えると、この交代は裏目だったでしょう。カンセロのマジックに期待したのかもしれませんが、素直に大外でプレーできる選手を残しておくべきだったでしょうか。一応フェリックスもいますが、彼も大外よりはハーフスペース付近でゴールに向かってプレーするタイプなので、モロッコの中央を攻略できないポルトガルにはゲレイロの交代は早かったと思います。

✔︎先手必勝

  • モロッコは57分に負傷のCBサイスに変えてダリ。そして65分にはアマラーとエンネシリを下げ、FWシェディラとDFベヌン。グループステージでも見せていましたが、インサイドハーフの1人を下げてDFを投入し、5バックで最終ラインのスペースをより消す選択をとります。

  • ポルトガルは69分にラモス⇨レオン、オタビオ→ビティーニャ。ようやく左サイドにウイングっぽい選手が投入され、レオンにボールが集まるようになります。ただカンセロとのシナジーはあまりなくて、基本的にはレオンが左サイド低い位置で受けてドリブルを開始⇨ボックス付近までは侵入できずインスイングのアーリークロス、のフィニッシュが多かったでしょうか。

  • ラスト10分(今大会ATが長いのでもっとありますが)のポルトガルは、79分にダロト⇨リカルド ホルタで、ブルーノを右SBに回すスクランブル体制。最後はルベン ディアスを攻撃参加させてのパワープレーにも出ますが、セットプレーの流れからぺぺが惜しいヘッドもあったりしたもののモロッコゴールを割ることはできず。

✔︎最終スタッツ

3.雑感

  • 時は2001年。翌年のワールドカップ出場を懸けた予選が繰り広げられるヨーロッパで、注目を集めていたのはオランダ、ポルトガル、アイルランドが同居するグループ。

  • オランダの監督ファン・ハールは、大一番のアイルランド戦でウイングを下げて次々とセンターFWを投入し、ボックス内で大渋滞…な采配で叩かれていましたけど、2022年のこのゲームでも結局、純粋なウイングがいないと突破口が見えず、さっさと放り込むしか答えがないのでしょうか。

  • クラブチームだと、予算さえあればストライカーとウイングとインサイドハーフとセンターバックと…偏りなくチョイスできますが、ナショナルチームだとこのポルトガルみたいに、ボールを運んだりゲームを作るタレントは有しても、同時に相手のディフェンスを破壊できるタレントがいるとは限らない。他のチームでも、ポルトガルよりも一足先に姿を消したスペインの大外サイドアタッカーはクオリティに欠けましたし、ドイツはサネの負傷が痛かったでしょうか。それでは皆さん、また逢う日までごきげんよう。


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