【病院事務長の悩み】医療機器卸売業と医業機器メーカーって独特ですよね
この記事は、医療機器卸業者(以下、医療卸)を単にこき下ろしているわけではありません。むしろ彼らもメーカーの価格戦略の被害者かもしれません。しかし他業種から見ると異常としか思えない医療機器卸の掟に病院が従わざるを得ない状況において、病院の視点では、医療卸なのですは加害者の立ち位置にいます。したがって医療卸の皆様は、業界の掟をとっぱらって、医療機関と共にメーカーと闘う覚悟がないのなら、わざわざこの記事を読む必要はございません。医療関係の事務長や購買担当者の皆様はこの苦悩を共有していただき乗り越える方法を共に考えましょう。
1.医療機器の価格戦略
医療業界ではなぜ競争原理が鈍化または無力化されてしまうのでしょうか。診療費や薬科は国が決めているから自分たちの収益も連動していると思い込んでいるのか、既得権があると勘違いしているのでしょうか。
実際のところ、他業種に比して、医療機関が価格交渉に関して、消極的と言うか奥手で、おとなしすぎるのが主要因のように思います。
しかし、医療卸もバカでありません。いつか、民間の医療機関も覚醒するかもしれない、または大学医局は猛々しいので対策を立てなければいけない、そんな意識はあるのでしょう。医療業界の価格戦略がしっかり出来上がっています。
① つばづけルール
最初聞いた時は、小学生じゃあるまいし、なにを言っているのかと思いました。要は、「医療機器は、同じメーカーの競争購買が事実上できない。」ということです。つまり、その医療機器の見積依頼を最初に受けた(メーカーに申告した)医療卸が優先権を確保するという仕組みです。
なぜ、それが可能か、からくりはメーカーの卸リベートにあります。基本仕切り(メーカーから卸問屋への卸価格、対標準価格率)に加えて、”つばづけリベート”なるものがあり、それが非常に大きい割合を占めます。
二番手以降は自社の利益を吐き出しても、値引き競争ができないくらいの割合で「つばづけリベート」が設定されているため、事実上合い見積もりが発生しない仕組みとなっています。
② 特別な取引先リベート
入札の取り決めがある公的医療機関を除いて、購買権限が大学医局や教授にある場合は、「つばづけルール」がなかなか機能しません。最近の大学医局は予算の締め付けが厳しいため猛々しさを増しています。また、大学医局は、医師の派遣や照会で絶大な力を持っている為、大学医局にどのメーカーの機器が採用されているかは、系列の医療機関に大きな影響があります。
そのため、強い立場の大学医局や教授に対して、メーカーには「特別な取引先リベート」があります。また、大学医局への営業は、医療卸よりメーカー側がイニシアティブを握っています。他メーカーとの競争における価格戦略の一環でしょう。他の医療機関も、この特別リベートの存在を知っておく必要があります。
2.医療機器の製品戦略
医療機器は電子機器でもあるので、高額で場所を取る割には製品寿命は耐久消費財ではなく、電子機器と同じくメーカー側が事実上コントロールしているため、短めです。それが保守費用にも反映しており、保守切れを理由にして、買替のスパンが短めになってしまいます。
その割に、シェアの高いメーカーの製品ほど、製造工程の少ない生産コストの低い、昔ながらの箱型が多いと感じます。
これらが、医療の現場を殺伐とさせている大きな要因です。もう少しデザイン性を考慮してもよいかと思いますし、汎用性を重視しているなら、もう少し売値を下げられるだろうと思ってしまいます。機能重視といいますが、一般的な高額医療機器は機能も頭打ちです。また、医師も高齢化していますが、従来の医療機器の操作性や視認性の悪さもなかなか改善されていません。つまり、総じて、シェアの高いメーカーにおいて、製品戦略はあまり見えてきません。
3.医療機器の対顧客戦略
データーの互換性や開放性などは頑なにメーカー独自路線を崩しません。
顧客囲い込みとしては、伝統的な手段ではあります。
しかし、医療機関側に投資の余力がなくなってきていること、国が健康情報管理を目的に顧客情報のオープン化を図っていること、を考えると、あまりに閉鎖的な独自路線は、選ばれなくなるというリスクがあります。勝手に滅んでくれるのは構わないのですが、医療機関を巻き込むことは勘弁してほしいところです。囲い込むことが目的になっては戦略とは言えません。
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