【事務長業務実践書を作成してみる】⑫収益向上策アクションプランの実践的手順
医療法人は非営利法人ですが、継続の為には安定した経営で安定した利益を確保する事が最重要になります。従って、「営業収益の増加」は最重要戦略のひとつであり、合理的な課題解決手法を用いた、弛まぬ取り組みが必要になります。ここでは、収益向上に対して、今すぐ対策を打たなくてはいけない状況になった際のアクションプラン立案の実践的手順を示します。
1.定量的なアプローチを理解する
収益について、定性的な理由(ドクターの意識が足りていない、計画入院数が減る時期である、新型コロナ感染症のせいで入院が減った等)を羅列しているだけでは、その時点でやるべき有効な対策は打てません。
対策の検討は、定量的な重点指標(KPI)の構造を理解し、現状を定量的に分析するところから始めます。
一般的には月次・四半期・年次で、上記のような重点指標(KPI)の実績の推移を見て評価します。推移は目的に沿った以下の比較考察の選択が重要になります。
① 前年比➡前年と何が違うのか、外的要因・内的要因の両面から考察
② 計画比➡計画の前提と何が違うのか、外的要因・内的要因の両面から考察③ 移動平均(月別)➡患者数等の時期要因を図る
(年別)➡診療報酬改定等の影響を測る
④あり姿に近い状況の時期の実績と比較➡ありすがたと現状のGAPの考察
「収益の増大」目的に沿った考察から、改善すべき指標である「患者増加」と「診療単価増加」およびその構成要因を分析し、対策を練ります。
その際に、ターゲットのA指標をあげると、相反して下がるリスクのある指標について把握します。「Bのリスクを予測し防止するのが難しいからAはやらない」ではなく、「Bのリスクを最小限にする」運営を考えます。
2. 重点指標(KPI)の増減理由を解析して、対策を検討する
病院の収益は一般的に医業収益が主要な収益であり、その8割は入院収益です。従って、”収益向上”に係る重要指標は「入院患者数」と「入院診療単価」になるので、それぞれの減少要因を分析します。その際に、あり姿を設定して、現状とのGAPを分析します。あり姿の設定で、手っ取り早いのは、外部環境・内部環境の状況が近しく、かつ実績があり姿で想定する値を満たしている過去のある時期を検証することです。
(ア)患者数の増減要因を検証して対策を立てる
① 許可病床の90%以上在院時期の患者数に係る構成要因を調べる
診療科・主治医別の入院患者数
診療科別の入院患者数(内訳 新規、再入院*)
主治医別の入院患者数(内訳 新規、再入院*)
入院経路別の入院患者数
a 計画入院
b 救急(計画外)入院
b-1.かかりつけ在宅療養中で増悪入院
c-1.新規入院
退院先別の退院患者数
② 現状の患者数に係る構成要因を調べる
前述(ア)と同じ項目
③ ①と②のGAPの内部要因を手順まで含めて分析する
④ ③の要因入院患者増加の対策を検討する
計画入院
・計画入院を前倒しにする
・潜在的な入院候補を対象に計画化する
・計画入院を阻害する要因を排除する
・高額療養費制度の説明と事前登録を勧める
・新型コロナ対策(入院前PCR検査、入院時ワクチン接種)の説明と実施
・家族または施設との調整体制の強化
救急(計画外)入院
・救急(計画外)入院を阻害する要因を排除する
・かかりつけの患者には高額療養費制度の事前登録を勧める
・救急(計画外)入院が可能な傷病・病状を連携施設&医療機関に告知する
・入院当日の検査および外来・病棟の受け入れ体制を整備する
・可能(受入れ不可)日時を明確にしてその時間帯を患者視点で拡大する
・非常勤医師向けの入院支援策を強化する
退院
・退院条件を明確にして、社会的入院の延長などを極力控える
・個室の利用についてのルールと手順を明確にする
・退院承認のプロセスを明確にしてベッドコントロールの可視化を図る
⑤ リスクについての留意
場合によっては入院単価を下げたり、入院料等の施設基準を悪化させる可能性もあるため、入院料に関する施設基準(看護必要度、平均在院日数、在宅復帰率等)の日時単位の可視化を図ると共に、制約や補完的な追加条件を適宜検討し実施する必要があります。
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