飲食業界は教えてくれない・・・調理師の良心と自己犠牲で成り立つ先にあるもの

皆さんは飲食業界で働く調理師に、どんなイメージを思い浮かべるでしょうか?
食べることは生きることであり、人間にとって欠かすことができません。

調理師が活躍しているシーンはたくさんあります。
店舗型のレストラン、給食調理、老健をはじめとした施設での調理、弁当屋さんでの調理など・・・

日本は安価にもかかわらず、クオリティが高くて美味しものばかりです。

消費者目線から見る飲食業界の世界は、表面的に見えている部分だけで判断されがちだと感じます。
綺麗な制服に身を包んだ店員さんからの気持ちの良い接客、おいしそうな料理が並び店舗内観も美しく、わたしたちの心をワクワクさせてくれます。

しかし世間一般には、表面に見える良いところだけがフォーカスされているように感じます。
調理師が置かれている過酷な現実について、取り上げられることはほとんどありません。

特に3Kといわれる仕事に従事する過酷な環境下で働いている現実は、とかく日本ではスルーされ続け今日に至っているように思います。

ここでは元調理師だったわたしが、今も調理師の良心や自己犠牲に甘えている飲食業界の現状について疑問を呈する記事となります。

◆いつの時代も調理師は過酷すぎる業界上位の常連

調理師が行う業務は、食材の仕込みから調理、配膳、洗浄など力仕事が主で、過酷な肉体労働です。
それは令和時代になっても変わることはなく、飲食業は過酷な業界として上位にランク付けされていることで、なんとなくでも理解できるでしょう。

小さなお店で一人で切り盛りする人もいれば、チームで何千食の調理をするなど、業務内容により働き方は多少変わっていきます。

一人で業務を行うにも大勢の人で行う場合でも、楽な業務は基本的にはありません。
令和時代になってAIの目覚ましい進歩があります。
しかし過酷な労働環境を改善するには至っていません。

とはいえ、労働環境が改善されている点が全くないわけではなく、業務の一部を機械が担っているのを目にすることはあります。

例えば注文をタッチパネルで簡単に依頼できることで、人間が注文を受ける負担が無くなっていますし、レストランでロボットが料理を運んでテーブルまで届けてくれるのもそうでしょう。

それでも機械でまかなえないことはまだまだ多く、人間の負担は大きいのが現状です。

病院や老人ホームの施設で、お客様が食べた食器の洗浄を行う時を想像してみてください。
洗浄後、多くの種類の食器をまとめたり、食器をまとめた重い物を持たなければならないなど、人間が手動で行う業務が発生します。
細かい作業はロボットでは対処できません。

野菜のカットをするときも、カットはしてくれますが機械へ投入するのも人間ですし、カットしたものを運ぶのも人間です。

一人で切り盛りするお店ではどうでしょうか。
店内はスペース的に広くないところが多く、一定のことしか対応できないロボットを導入するメリットはないでしょう。
ロボットが調理師と同じ動きはできないため、働く店主が注文を受け、仕込み・清掃や片付けすべての業務を一人で行うしかありません。

飲食業界に少しずつテクノロジーが入ってきているとはいえ、サポート的な役割で終始しています。
調理師が肉体的に負担がかかっているメイン業務に、機械が代わることができていないのです。

コスト面やメンテナンスの手間を考えれば、資金面で体力のある企業や大手企業でないと導入できないデメリットもあります。

AIがどんなに発達しても3Kの過酷な労働環境を改善し、きつい仕事から楽な仕事へとシフトさせることは、現実的には不可能であると考えます。

◆低単価でクオリティの高い商品の裏にある「調理師の自己犠牲」

消費者の立場からいえば、安くておいしいものが食べられたら満足でしょう。
飲食業界が単価を低くして、たくさん売るという販売形態を選択する限り、
誰かが犠牲になり良心で成り立っている現状のサービスでは、この先限界がきてもおかしくありません。

ニュースでも日本の人口減少が取り上げられるようになりました。
政府は多様性を認める社会を目指しており、外国人との共生社会も視野に入れています。

このまま日本人の労働人口が減っていけば、今まで当たり前とされていた品質は失われていきますし、日本人から外国人へと労働力が移り替われば、品質の低下は回避できなくなります。

収入が下がっても人に幸せを与えることを信条とし、自己犠牲の精神で働いている調理師は多いです。

youtubeでは日々奮闘している調理師に密着している動画を見ることができます。
その動画では、一人で接客・調理をすべてこなし10数時間も働いている姿や、60歳や70歳の高齢になっても喜ぶ人のために、低単価で料理を提供し続ける姿が紹介されています。

はたから見れば、おじいちゃん、おばあちゃんになっても元気に働いて頑張っている姿は美しく感じるかもしれません。
何十時間もずっと厨房に立ち続けて鍋を振り続ける姿は超人であり、人間技ではないと感心さえ与えてくれます。

しかし冷静に考えてみると、すんなりとは受け入れにくい引っかかりを感じます。

高齢になっても肉体を酷使して働き、低単価で良質なサービスを提供し続ける彼らの姿を誇らしく見せることに、わたしは疑問を感じてしまいます。

わたしはこのようなことを美徳とする日本の現状について、本当に良くないことだと思っています。

安くておいしいものが食べられることは、幸福感を与えてくれるのはもちろん食費を抑えられたり、低収入層にとっては生命線となるため助かっている部分もあります。

目線をどこに合わせるかによって、人の関心はバラけてしまいます。
貧しい人の目線で見れば、調理師の自己犠牲が取り上げられることはないでしょう。

この不景気が続く日本で物価がさらに上昇すれば、今度は低収入である層が困ることになり、おいしいものを食べられなくなるという問題が出てきます。
結局は、誰かが犠牲にならないとバランスを保つことができないのです。

現在進行形で労働人口は減っています。
チェーン店で外国人が働いている姿を見ることも多くなりました。

それは一体どういうことでしょうか。

基本的には、低単価でたくさん商品を売って利益を得る業界です。
企業の立場からすれば、人件費をかけることは難しいので、外国人を雇い入れてでも低賃金の労働力を確保したいという企業の思惑と意思表明の現れだと思います。

政府は日本人の労働人口減少には、外国人を雇い入れて補うことを考えています。
日本に流入される外国人労働者が増えれば、日本人の良さである丁寧な仕事から派生される良質なサービスは、たちまち崩壊するでしょう。
そうして企業利益に影響が現れれば、悪循環に陥る可能性があります。

人手不足はより深刻に、そして労働環境や待遇はさらに悪くなっていく。
そうなれば調理師の自己犠牲で成り立っていた良質なサービスを、この先受けることが難しくなるのは当然でしょう。

この問題は、労働人口の減少によって少しずつ可視化されつつあります。わたしたちがこの問題を直視しない限り何も変わりません。

今後も調理師を犠牲にしたまま何も変わらず、彼らの良心に甘えていくビジネスモデルでは限界がくるでしょう。
崩壊してからでは、あとの祭りなのです。

◆調理師が犠牲にならないために

調理師が厳しい環境で搾取されつづけ、犠牲にならないためにはどうすればよいでしょうか?

これは調理師の仕事に限った話しではありませんが、この業界の単価は昔からとにかく低いです。
単価が低いと、それだけ利益を出すのが難しくなります。
そうなると長時間労働になりやすく、過酷なうえに薄給という状況になってしまいます。

利益がたくさん出て働き手に還元できれば、マイナス面を補填できるため満足度は上がるかもしれません。しかし飲食業界では、新規出店してから3年以内に廃業するお店は6割といわれます。

飲食の世界は価格競争が激しく、生き残れるかさえわからない中、働き手に利益を還元できていないところは多いでしょう。

日本の人口減少に歯止めがきかず不景気が続く限り、誰かが犠牲になる状況に変化はないままです。
「日本の人口を増やす」「景気を良くする」この単純なことを数十年間も日本は達成できていません。

わたしはインフラ業界に対して、国も積極的に財政支援していくべきだと考えます。
わたしたちが問題を直視せず、今まで通り甘えたままサービスを受ける現状だと変わっていけるものも変わらないです。

人間の幸福度を上げる一つに、お金の存在は無視できません。
インフラ業界の改善策としてよく議題に上がるのは、給料の底上げです。
お金で解決できるよう積極的な議論は必要ですが、不景気が続く日本を見ていると、支援策としてお金を投入することに政府が積極的ではないことが問題だと感じます。

働き手が犠牲にならないための方法はもはや
「好きなら受け入れて働き続ける」か「嫌であれば別の業界への転職をする」という手段しかないように思います。

本来は議論をするべき問題のはずですが、一人一人の認識は極めて薄いという危機感をわたしは感じています。

◆さいごに

飲食業界だけでなく、介護や物流といったインフラ業界の問題に対して国民の関心は薄いままです。
わたしたちが彼らの良心に甘え続けていけば、低単価で良質なサービスはもう当たり前ではなくなる時代がくるかもしれません。

今のところ国の支援策はなく、労働環境は過酷のままです。
薄給な業界であることにも変わりはありません。

今、18歳人口の減少とともに、調理系の専門学校がどんどん閉校しています。調理をする担い手も減少していくでしょう。

わたしは今の日本人が、自分事以外には関心を示さない現状を嘆くとともに、国に対してもインフラ業界の問題点に目をそらさず、対策を立てるフェーズに入ったと感じざるを得ません。


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