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「血の轍」〜毒親もしくは独裁者カルテ|#コミックレビュー


 ホラーを凌駕するほど、心に突き刺さるコミックの名作があります。


 【血のわだち

 作/押見修造




 ご存知でしょうか?もし未読なら、令和の時代に名を残す作品であることは間違いないので、お勧めいたします。


 表紙の前半は、母親静子と主人公静一のフォトアルバムを模して描かれています。仲睦まじい、穏やかな親子の姿。そのイメージで、ページを読み進めるととんでもないことになります。


 この本は、毒親について深く考察した物語であり、押見修造の半自叙伝でもあります。


 そして、広い目で見ると、親子の関係性のみならず、上下関係を伴う男女のパートナー同士や、仕事の上司部下などにもなぞらえて読めるでしょう。


 ストーリーについて、初めから見ていきましょう。



☆文体変わります☆


リビングに降りた朝の母。


静一は中学生。


 静一と母親は、小さい頃から一心同体のような生活をしてきた。これはよくある話だろう。母親は幼い子を庇護し、子は母親を頼るものだから。


 然し、子が中学生になってくると、微妙に「違和感」が生じてくる。



こそばせて起こしに来る母。



朝ごはんの確認。


 美しい母(これは後に静一の持つ母の幻影イメージと分かる)が、静一の部屋に起こしに来て、


 「朝はん、

肉まんとあんまんどっちがいいん?」


 と尋ねる。


 読んでいると、その問いが【毎朝同じ】ということに気付く。


 これは、母親の性質を端的に示すエピソードなのだ。


 「肉まん」と「あんまん」、それ以外の選択肢は無い。もっと違うもの、と意思表示出来ないのだ。



 作者がこれで何を表したかというと、


❌️静一が自分で選ぶ自由を持つように見える

⭕️静一は母親の選んだ範疇の中にしか動けていない


 

 要するに、


 

 母親の作ったおりの中に、静一は常に入っているのだ。




 もっと読み進めてみよう。



1.吹石さん


吹石さん。


 静一は、クラスメイトの吹石さんに初恋をする。ふたりが仲良く話をして歩いているとき、静一の母親とばったり出会う。



 静一はこの見上げた視線を通して、


 【(母親に対して)何か悪いことをしてしまった】


 のを感じ取る。


 吹石さんは、静一に好意を持っていた。そして、ラブレターを静一に渡す。


静一の部屋の中。



 吹石さんも、静一と母親に異変を感じていた。


 静一は吹石さんと母親を鉢合わせないようにしたのだが、母親は「女」の匂いに気付く。



 そしてラブレターを出すと、母親はさめざめと泣く。恋人の浮気を見つけたように。



ラブレターを破る行為は、
【自我を切り刻む行為】だと
表現したコマ。


 父親が帰宅するが、静一と母親は抱き合って微動だにしない。



 ・・・このラブレター破棄の一件のあと静一は、

 【母親の檻を脅かす存在】


 の吹石さんと、関係を断つようにきつく念押しされる。



2.従兄弟のしげる


しげる。


 従兄弟のしげるは同級生で、同じ学区に住んでいる。父親方の親戚だ。


 彼もやはり、静一と母親に違和感を感じている。





 参観日でもないのに、毎日幼稚園で静一を見ているのは普通ではない。

 これは、

 【参観と言う名の監視】


 である。自分の存在感が、園の教室や静一本人にどのように作用するか、判っていて立っているのだ。


 このエピソードひとつでも、静一と母親の関係性が浮き彫りになる。


―――


 しげるの一家は毎週末、静一の家へ遊びに来ている(静一の母親はそのことに強い不満を感じている)。

 ある日、しげる一家と静一の一家は、山へハイキングに行くことになった。



しげるの母親も
違和感を感じたひとり。




 しげるは中学生男子らしく、崖をのぞいて冒険心を表す。



 しげるが冗談で突く真似をすると、



 すかさず静一の母親が抱きとめる。そして、このあと悲劇が訪れる


 しげるに静一の母親は近付いていく。


ただならない雰囲気。


異空間のように
蝶が舞い飛ぶなか・・


突き落とす。


 静一は一部始終を見ているが、しげるのことを心配するのではなく、血相を変えながら母親のことだけ・・を気遣う。



 静一の母親にすればしげるは、

 【危険を怖がらず、檻から抜け出すための出口を教える存在】


 なのだろう。


 このあたりから、怒涛の展開となる。


 
 静一は母親をかばううちに病んで吃音でしか話せなくなる


 結局、静一の母親は逮捕されるが、静一と母親は、思わぬ形で関係性が崩れることとなる。


懸命に理解を求めて訴えた静一。


母親はすべてを放棄する。


 さらに、

【母親の放棄】=【静一の放棄】


 を、法廷で宣言してしまうのだ。




 逆上して母親に襲いかかった静一に対して言ったのは、



 静一の母親の境地は、以下のコマのようになっていた。



 何故こんなことになったのか?



 これ以降、静一の視点から母親の視点が分かるようになっていく。そして母親の過去、心理的な要因を探っていく。


 母親は、夫含む家族に対して疎外感があったことが描写される。


 

静一以外にすがるところが無いのだ。


 静一を自分のおりに閉じ込めなければ、誰も自分の理解者、共感者がいなくなるのだ。


 だから必要以上に束縛した。


 恐ろしいことに、あたかも息子を自分への愛着マシーンとして育て上げたのだ。



 そして、束縛の手から離れ、愛着が見られなくなったから、「いらない子供」になったのだ。







 ・・・いやもう、このコミックは思い入れがあり過ぎて語り尽くせないので、このあたりにいたします。


 まだまだ続きます。(17巻)




 この【静一+母親】の関係のように、

【庇護される人間+庇護する人間】



 の関係で留意するべきことは、


 お互いは、共存関係の様相を示しているけれども、それは正常なのか、ということ。



 親子、夫婦、恋人、上司部下などで、以下のことを想像してみて下さい。



庇護する側・・・

自己肯定感を感じるために、自分の意見を押し付け、他の意見を認めない。



異なる意見を持ったり、自分の枠から外れたら、排除もしくは【棄てる】。




♦️庇護される側・・・

愛される/排除されないために、闇雲に追従する、もしくは賛同してみせる。


異なる意見があっても言わない。自立心が芽生えても押し隠し、枠に収まる。


 これは、かなり歪んだ関係ですが、案外日常に潜んでいます。


 これを打開するには、




相手を

ひとりの人間として

考え方を尊重し




自由意志で動いても

寛容な心で受けとめ

サポートする 


それが


真に【認める】ということ。


 


 何故「血の轍」の紹介で、こんな上段からの話をしているんだろう?と思われるnoter様がいらっしゃるでしょう。




 思春期の息子のことで悩み、

人生の底から

這い上がろうとするとき、

息子の生きる力に教えられ、

救われたゆえに―――




 このnoteに記しておこうと思います。  








 お読み頂き有難うございました!!


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 また、次の記事でお会いしましょう!



🌟Iam a little noter.🌟



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