見出し画像

「3.11が教えてくれた、しあわせな結婚とはありのままの自分でいられること」小高ワーカーズベース代表取締役・和田智行さん×和田菜子さんご夫婦

様々なバックグラウンドをお持ちの方の「しあわせな結婚ってなんだろう」に対する想いをお聞きするインタビュー連載。
第4回目は福島県南相馬市で株式会社小高ワーカーズベースの代表取締役をされている和田智行さん(以下、智行さん)と奥様の菜子さん(以下、菜子さん)にお話を伺いました。

和田さんはプログラマーとしてBRILLIANCE+の創設期に深く関わってくださった方です。その後3.11を機に独立し、5年4ヶ月もの間人が住むことを許されなかった南相馬市に暮らしを再構築する、さらには新たな事業を発信する拠点に育てていくチャレンジを続けていらっしゃいます。

コワーキングスペースや食堂・食料品店の運営、ガラス製品の製造・販売事業の育成など、時を経て変遷し広がっていった活動。それを通して人生観も、大きく変わったいったのだと言います。

南相馬市でたくさんの人と出会い、日々を重ねていったからこそ気づいたお二人の“しあわせな結婚”そして“しあわせ”の形は、どんな線を描いているのでしょうか。

画像1

私たちが東京を去り、福島に向かうまで

智行さん:
僕たちは同じ大学のオーケストラ部に所属していて、それを機に知り合ったんです。だからもう長いですね。7年くらい付き合って…なんか間違っているかな?

菜子さん:
間違っていないと思う(笑)
当時彼はトランペットを、私はヴィオラを担当していて。それで長い交際期間を経て結婚したわけなんですけれど、結婚の決め手は…私は分からないな、ふふふ。

智行さん:
僕はいずれ地元の南相馬市にUターンするつもりだったので、東京にいる期間はひとつの人生経験をする時間だと自分の中で決めていました。だから30代や40代にもなって人生経験を積んでいる場合じゃないな、逆算すると20代のうちに結婚して戻った方がいいなと考えていたんです。

それで社会人3年目かな?そろそろだなと思って。彼女と結婚する予感は、僕の中ではずっとあったんですけど。

菜子さん:
そうなるだろうな、みたいな感じだったよね。結婚に至ったのはすごく自然な流れでした。プロポーズの時言葉は一切なくて、婚約指輪だけ渡されたんですけれど…私すごく笑っちゃったのを覚えています。

智行さん:
笑ったね。

菜子さん:
すごく嬉しかったのと、あぁそういうこともちゃんとするんだという気持ちで、すごく笑ってしまって。私も言葉では返していなかった気がします、ね。

智行さん:
そうやって結婚も決まって、当時本業であったプログラマーとしてある程度食べていける自信がついた2005年に南相馬に戻ってきました。
主に東京からの仕事をリモートでさせていただいて。ずっとこんな感じで働き続けていくんだろうな…と思っていた時に、震災が起きたんです。

画像2

感じたのは2割の悔しさと、8割の希望

智行さん:
2011年の震災で自宅が避難区域になって、家族で避難を余儀なくされました。あちこち点々として。
その間もそれなりに現金収入はあったんですけれど、お金を持っていても食事も手に入らないし寝る場所もない状況になって。さらに放射能の知識もない中で恐怖や不安と対峙していくうちに「お金を稼ぐだけじゃ生きていけないんだな」と価値観が変わっていきました。

震災から1年経って、自宅のある南相馬市小高区が、住めはしないものの立ち入りが認められる状況になった時、いずれ帰れるようになるんだと初めて先の見通しが見えてきて。その時、将来帰ってくるのだから人が暮らせる場所にしたいという風に気持ちが向いていきました。そして、ここでの暮らしを可能にするために、色々な事業が必要だと思ったんです。

当時は誰も「そんなところで商売なんか成り立たないよ」と思っていたんですけれど、僕はたくさんの課題があるということは、その数だけビジネスチャンスがあると感じていました。100の課題があるなら100のビジネスを作ろうと、会社を立ち上げることに決めたんです。

最初は人の集えるコワーキングスペース作りから始まって、食べる場所がないので食堂を。買い物をする場所がないのでスーパーを。みんなが仕事をする場所を作りたいとガラス工房を作ったり…そうして今に至ります。

画像3

▲小高ワーカーズベースが運営するガラス工房“アトリエiriser(イリゼ)”では、現在6人の作家さんが働いています。みなさん未経験からここでの研修を受けスキルを習得した、情熱あふれる方ばかり。女性だけが集まりしかもバーナーを使って作業する珍しい光景は、街のランドマークになりました。

智行さん:
今の日本社会は閉塞感があって、ずっとマイナーチェンジしていくだけで、その先に欲しい社会や暮らしがイメージできないんです。だけど日本のように成熟した社会を変えるってとんでもなく大変なことじゃないですか。
でも翻ってこの地域を見た時に、何もなくなっちゃったからこそ、ゼロから欲しいものを作れるじゃないかって。この場所だからこその希望を感じたんです。

菜子さん:
私は特にサポートもしていなくて。たぶんやめてって言ってもやる人だから「やりたいならやればいいんじゃない」という感じでした。支えてないんです、一緒にいるだけというか。

智行さん:
でもね、本人はそうでもないかもしれないですけれど、僕としては支えてもらっていると感じる部分がたくさんありますよ。

画像4

小高ワーカーズベースが目指すもの

智行さん:
自分たちでゼロから多様な事業を作っていくことによって、自立した地域になりたいなと思っているんです。
地方で地域の課題を解決するとなると企業誘致をしがちですが、もう社会は縮小していますから、その企業だっていずれ撤退するわけですよ。そんなリスクをはらんだ地域にしてしまっては、被災した甲斐がないというか。
自立した地域になるために僕たちが100の事業を立ち上げて、起業する風土をこの地に作りたいと思っています。

ここに来るとすごくクリエイティブで創造的なことが起きていて、思わず行ってみたくなる場所にしていきたいです。震災や原発事故でネガティブなイメージしかないこの地域が「他の場所だとそういうことは誰もやらないけれど、ここならできるね」と、チャレンジしに行ってみたくなる地域になっていけばいいと思っているし、その中心にこの小高パイオニアヴィレッジ、そして小高ワーカーズベースがあるといいなと思っています。

菜子さん:
私は彼が今言ったみたいなことが、何となくは分かるけれど、まだ描けない部分もあって。けれど描けないことが楽しい場所だとも思っています。どうなるか分からないワクワクがいつもある場所であったらいいなって思います。色々な人が来て、色々なことを一緒にして。いつまでも完成しない、常に変わっている場所だといいなと思っているんです。

智行さん:
今の世の中は変化が激しくて、5年先を予測できる人もそうそういない、そういう時代だと思うんですけれど。でもそのことを不安に思うんじゃなくて、予測できないからこそまだまだ想像もできない可能性があると考えて。そして、それが埋まっているから掘り出しに行きたくなる、そんなコミュニティでありたいなと僕は思います。

画像5

▲こちらが小高パイオニアヴィレッジ。ガラス張りの外観は建物にスタイリッシュさを添えているだけでなく、中の気配を外に伝えるという狙いも。オレンジ色の優しい光と人影が、街にあたたかさを灯します。右手の窓からは、併設されたガラス工房の様子が伺えます。

画像6

▲小高パイオニアヴィレッジ内は、イベントスペースにも休憩所にも使える階段を中心に、キッチンやテーブルスペース、宿泊スペースなどで構成されています。テーマは「永遠の未完成」。用途を決めすぎず将来的に様々な使い方ができるよう作られた、こだわりの空間です。所々散りばめられた古いおもちゃなど遊び心あるインテリアから、和田さんご夫婦のほがらかなお人柄が感じられます。

ありのままの自分でいられるのが“しあわせな結婚”

智行さん:
“しあわせな結婚”は僕にとってはお互いに自然体でいられて、でもその中にもお互いを思いやる言動がちゃんとある。そんなイメージを抱いています。あ、できているかは別ですよ!

菜子さん:
ふふふ。私は必ずしも結婚という形にこだわる必要はないと思うんですけれど…“しあわせな結婚”が“一緒にいることのしあわせの形”だとしたら…自然体でいるというか、もう空気みたいといいますけれど。一緒にいる空間を含めて自分なんだなって思える関係ですかね。

智行さん:
…恥ずかしい(笑)
僕の“しあわせな結婚”観は震災の前後で全く変わっていません。けれど、あの大変な状況を乗り越える原動力になったのは、パートナーや家族を守るという気持ちだったことは間違いなくて。それがなかったらどうなっていたかな。3.11は家族のかけがえのなさを再認識した機会でもありました。

菜子さん:
そうですね、あの時家族がいなかったら流れに乗るだけで、きっと何も動かずにいた。みんなが仮設に入ると言えば入って。でも私は自分で何か決めていこうと思えた。「こう毎日を生きよう」と思えた。家族といたからこそ、自分でいられたのかなって思いますね。

画像7

しあわせは当たり前の毎日の中にある

智行さん:
よく「しあわせはなるものじゃなくて感じるものだ」って言いますけれど、僕はその言葉が好きです。
震災の避難中でもしあわせを感じる時ってありましたし、逆に震災前に辛いなって思うこともたくさんあったわけなんですけど。

与えられた環境や情報から見つけて感じていくものが、しあわせだと思っています。どんな状況にいても、どんな仕事をしていても感じられるもの。身の回りに常にあるものだと言う風な考え方をしています。

菜子さん:
そうだね。なんか震災前はうれしいなって感じた時にしあわせだと思っていたんですけれど、震災後はやっぱり、安っぽいかもしれないけれど、生きていることがしあわせというか。命あることがしあわせだと考え出して。
毎日いっぱいイライラすることがあるんですけれど(笑)でもイライラできることもしあわせというか、腹の立つ相手がいることがしあわせなんだと今は思うことが多いですね。

寝る時も、今日すごく疲れたけれど、疲れたと感じられることが幸せ。自分も生きているし、家族も元気でそばにいるし。あぁしあわせだなと思うようにしています。だから忘れがちなんだけれど、やっぱりありがとうはちゃんと言おうと心がけていて。

智行さん:
そうだね、それは僕も同じです。やってもらったことに関してきちんと言葉で伝えるって、忘れがちなんですけれど大切ですよね。

画像8

菜子さん:
だいたい1日2回くらいは「しまった〜言い忘れた!」と思い直して、ありがとうって言うようにしています。あと「行ってきます」「行ってらっしゃい」はちゃんと言おうって。縁起でもないけれど、これが最後かもしれないって感じる時があって…それは震災以降かな。

この瞬間が最後だったら、言わないことですごく後悔しちゃうから。挨拶もお礼も、言える時にきちんと言おうって思うんです。

智行さん:
ビジネスでも同じですよね。
僕達の事業は、すごく色々な人に応援してもらって、支えてもらって、そういう風にしながらここまでやってきました。直接ビジネス的な利害関係がなくても応援してくれる人って、すごくたくさんいらっしゃるんです。そういった方々の力で今こんな風に仕事ができていることは、常に忘れないようにしたい。

社員に対してもそうなんです。
自分は元々プログラマーですから、プログラミング以外のことで大したことはできない。それ以外のところはみんなスタッフがやってくれて成り立っているので、みんなへの感謝の気持ちは大事にしたい。そしてできるだけ伝えたいなと日々思っています。

和田智行
福島県南相馬市小高区生まれ。株式会社小高ワーカーズベース代表取締役。東日本大震災では自宅が警戒区域に指定され家族とともに避難生活を送る。2014年、避難先から通いながら避難区域初のコワーキングスペース事業を開始。その後、食堂や仮設スーパー、ガラスアクセサリー工房、簡易宿所など、住民帰還の呼び水となる事業の創出に取り組む。
和田菜子
東京都出身。現在は夫・子供二人・柴犬一匹とともに小高区に居住。株式会社小高ワーカーズベースにおいて主に経理を担当。

‐‐‐‐‐‐‐‐

BRILLIANCE+では2020年3月31日までnoteと一緒に「  #あなたに出会えてよかった   」というお題企画を行なっています。
あの人がそばにいてくれることは、決して当たり前のことではありません。
日頃から伝えている人も、恥ずかしくていつもはなかなか伝えられない人も、この機会にパートナーへの思いをnoteで綴ってみませんか?

‐‐‐‐‐‐‐‐

BRILLIANCE+オンラインストア
BRILLIANCE+ショールーム