話数単位で選ぶ、2021年TVアニメ10選
2021年放映のTVアニメ作品から10エピソードを選んだ。メモのようなものはそのつど取ってあったので、それを横目に一息で書いた。
集計の作業からは離れられたとはいえ、私にとってこの年末恒例の企画は、前任者である新米小僧さんとの、個人的な会話の思い出と切り離すことができない。結局、特定の誰かを思い浮かべるようにして書いたほうが、座りがいいものなのかもしれない。
■『呪術廻戦』第24話 共犯 (3/27)
絵コンテ・演出 朴 性厚
総作画監督 清水貴子、小磯沙矢香、長田絵里
監督 朴 性厚
観ているこちらの感覚を押し広げられるようなビジュアルをもつ作品によって、そのつどアニメは前に進んで来たはずだ。その更新の、2021年版最前線に、例えば本作があるのだろうと思わせられる。クオリティを、熱したボルテージが下支えしていて、そしてそのボルテージが下支えにおさまらず画面から漏れ出してきているような、そんなビジュアルが物語の裏地にぴったりと張り付いて荒れ狂っている。禍々しさをそのまま作画したようなアクションに加え、釘崎野薔薇のあの顔!(そして瀬戸麻沙美のあの演技!)彼女のみせる表情は、もはやそれ自体がアクションであるかのように、ふてぶてしい活動力に満ちている。
同じ「週刊少年ジャンプ」連載作品ということで、次は
■『BORUTO NARUTO NEXT GENERATIONS』 189話 共鳴 (3/7)
脚本/絵コンテ/演出 ・・
作画監督 夘野一郎
監督 甲田正行
主人公のボルトがナルトの火の意志と遺伝子を受け継いでいるように、このアニメが『NARUTO』『NARUTO 疾風伝』の意志と遺伝子を受け継いでいることを如実に示す1本。お父さん世代の活躍を観ていた視聴者からすればおなじみの、「ここぞ、というときに炸裂するスタジオぴえろの底力」を存分に堪能できる(「・・」という奇妙なクレジットもきわめて印象ぶかい)。
■『ブラッククローバー』 ページ167 黒の誓い (3/9)
シリーズ構成協力 筆安一幸 シナリオ 赤星政尚
絵コンテ 児谷直樹、椅 子 汰
演出 児谷直樹
総作画監督 沼田 広、竹田逸子、JIWOO ANIMATION PRODUCTION、Kim kyoung hwan
アクション監修 椅 子 汰
監督 種村綾隆
「ここぞ、というときに炸裂するスタジオぴえろの底力」パート2。原画陣のなかに窪詔之の名前を見つけたりするとなんだかとても嬉しくなってしまう。アスタとヤミの共闘がヒートアップするのにつれ、アクションの描写もまたそれに共振していく。
だがそれにしても、諏訪部順一の声が皆の心の支柱であることの、なんという幸福な説得力!
■『異世界食堂 2』 第10回 menu 19 テリヤキバーガー/menu 20 チョコレートパフェ再び (12/4)
脚本 神保昌登
絵コンテ・演出 大庭秀昭
総作画監督 河野仁美
料理作画監督 大河しのぶ
監督 神保昌登
諏訪部順一の説得力パート2。こんな声のマスターの店ならそりゃ旨いだろうと思ってしまう。選ぶエピソードは実はこの回でなくとも、どの話でもよかった。『異世界食堂』においては、回を追って進む種類のストーリーはおそろしく希薄なものでしかない。ほんとにびっくりするくらい、ただ単に異世界の住人が洋食店に来店して、それぞれが、旨いものを、舌鼓を打ちながら堪能する。それだけのことしか起こらない。そしてその単調さのなんという素晴しさ。
■『乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…X』 第8話 お見合いしてしまった… (8/21)
絵コンテ・演出 戸澤俊太郎
作画監督 服部憲知、松田萌、上田彩朔、木村拓馬、小幡公春、井本由紀、高橋美香、徳田夢之介
監督 井上圭介
全篇すみずみにまで〈設計〉の意志が行きとどいた演出を堪能できる1本。その水際立った形式が「無口な美少年があまり乗り気になれないままお見合いをする」という筋立ての周りにみるみる鮮やかな枠を形作っていくさまに息をのむ。
演出の冴えということで思い出されるのは、
■『古見さんは、コミュ症です。』 コミュ01「喋りたいんです。」 (10/7)
絵コンテ・演出 川越一生
総作画監督 中嶋敦子
総監督 渡辺歩
監督 川越一生
漫画的な記号敵表現や誇張を含んだ語り口のなかで、手で触れるような確かさで「本当は話したい」という感情が浮かび上がってくる。それはたぶん、黒板を介して行われる筆談のシーンで画面にうつしだされるその〈文字〉と、本作で頻繁に画面に現れるそれ以外の〈文字〉を、それぞれにどう演出するか、という〈設計〉の巧みさからくるものなのではないか。
■『オッドタクシー』 #13 どちらまで? (6/29)
監督・絵コンテ 木下麦
演出 山井紗也香
総作画監督 中山裕美
は、最後の最後まで、進行するストーリーの向こう側に何かしらの悪意が進行しているのでは、という〈不穏さ〉を内包した語り口で、ある事件の顛末を描ききった。最終回の最後の瞬間までその〈不穏さ〉が払拭されないままでの幕切れとなったが、先日映画化が発表されたことにより、劇場にまでその〈不穏さ〉は継続していくことになる。
他方、
■『魔入りました!入間くん[第2期]』第4話 生徒会長の眺め (5/8)
絵コンテ 森脇真琴
演出 馬引圭
総作画監督 原由美子
監督 森脇真琴
の語り口に通底しているのは〈軽やかさ〉だ。人間でありながらクズ両親から金で悪魔に売られ、なぜか悪魔の学校に通うことになった主人公・鈴木入間。彼の周囲に巻き起こる様々なトラブルは決して軽薄に流してしまえるようなことばかりではない。しかしこのアニメの語り口は前シリーズと同様、どこまでも〈軽やかさ〉を失わない。その徹底ぶりはまるで、
「気落ちするような話を重苦しく語ったからといってなにも好転しない」
とでも言っているかのようだ。それはほとんど人生観、あるいは哲学のように、このアニメの通奏低音を鳴らして、主人公の成長に寄り添おうとしている。未完の作品のなかで、個人的にもっとも思い入れている作品のひとつだ。
切実に追いかけている未完作品として、もうひとつ。
■『僕のヒーローアカデミア [第5期]』第96話 第3試合決着 (5/15)
絵コンテ・演出 大久保朋
作画監督 村井孝司、川上暢彦
総監督 長崎健司
監督 向井雅浩
選んだのは主人公たちのいるA組とB組との対抗戦のなかのエピソード。飯田くんの規格外のスピードと、それが周囲に引き起こすエフェクトの容赦のない描写が素晴しい。5期はいわば、次にくるカタストロフ的な出来事への準備段階を、ヒーロー側、ヴィラン側ともに積み上げている、そういう物語になっていて、この回はその「ヒーロー側の積み上げ」のほうのエピソードだ。
ここにも、最初に挙げたスタジオぴえろ同様、「BONESの底力」というものが確かにある。アニメ版『ヒロアカ』の物語を追うことはそのまま、その底力に支えられた語りに身を任せることでもあるのだ。
そして、2021年のTVアニメという意味でも、「アニメスタジオの底力」という意味でも、最後に挙げておかなければならない作品が残っている。
■『小林さんちのメイドラゴンS』第5話 君と一緒に(まあ気が合えばですが) (8/5)
絵コンテ・演出 北之原孝將
作画監督 角田有希
監督 石原立也
シリーズ監督 武本康弘
トールとエルマの過去をどう語り、現在の物語のどこに、どういう断片を挟み込むか。その断片を挟み込むことは、たんなる物語内容であるのと同時に、シークエンスが遠い過去と今を行き来することで生まれるリズムそのものが語りのリズムにもなっていくように設計されていて、それらの総和として生まれるポエジーを支えるように、京都アニメーションというスタジオの高カロリーな作画が生命をもちはじめる。そういう瞬間は、TVアニメを観ることの、最大の幸福のひとつだ。
京都アニメーションの事件は、自分にとっては未だに、まるで過去にはなっていない。だからこそ『メイドラゴンS』のみずみずしい語り口の中から立ち上がってくる力強い〈京アニの底力〉は、自分にはいっそう輝きをはなつものに見えた。
(2021年12月30日)
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