ボクシング


同期と昼ご飯を食べていた時のこと。

「私最近グルテンフリーな生活してるんだよね」
とフォーをずぞぞと啜りながら同期は言う。

理由を聞くと、太らないだけでなく体の調子も良くなるらしい。日本人は小麦を消化する力が弱いからとのこと。

対して私は気遣ってるんだね〜と、まるで体を所有していない人のような発言をしてしまう。気遣えてなくてごめんよ私の体。話を聞くとパーソナルジムにも週一で通ってるらしい。すごいな〜。

運動したいけどそこまで筋トレモチベが上がらない。でも運動はしないとね〜と答えを出す気のないいたちごっこトークをしていると同期が、

「ボクシングとかやってみれば?」

と言ってきた。そう言われた時、体がぶわっと熱くなる感覚があった。ほう、ボクシングか。なんか良いな。そこから頭を冷やしながらなんで良いと思ったのだろうと考える。

まずなぜ筋トレにモチベが上がらないかを考える。それは筋トレが好きじゃないから。当たり前だが一応言語化しておこう。同じことの繰り返しすぎる。かえってボクシングは体を動かすので筋肉がつくだけでなく、「ボクシングが上手くなる」特典が付いている。だからいいのか。あと今まで格闘技とは無縁の生活を送ってきた。

自分の気持ちすら掴めず、ずっとモヤモヤした生活を過ごしていた学生時代でさえ、私は人を殴ったことがない。でも自分にむしゃくしゃしたり、友達にイライラすることもある。そんな時は自分の部屋で一人ノートにイライラした気持ちをただ書き殴ったり、イライラした友達の机を蹴るぐらいしか出来なかった。

そうか私は強くなりたかったんだ。

同期の一言が自分の奥にある欲求を突き刺した。それから私は筋肉と闘争心を身につけるために、家に近いボクシングジムの体験予約のメールを打つ。

早速丁寧なメールが返ってくる。
持ち物、トレーニングウェア、飲み物、軍手。

軍手!てことはもうグローブをつけるってこと??すごいボクシングジムっぽいじゃないか!こんな軍手の文字でワクワクする日が来るとは。

早速持って体験へ。
トレーナーの方が、基本的なステップからフォームを優しく教えてくれる。ただその優しさとは裏腹にトレーナーは強靭な肉体を持っている。強いってカッコいい、、。

見よう見まねで構える。鏡に映った手を顔の前に添えてる自分。なんてへなちょこなんだろう。このフォームを見て怖気付く人は誰もいない。

返ってトレーナーの構えは凶器そのもの。勝てる気がしない。

フォームの練習をしていると1人だけダラダラ汗をかいていることに後から気がつく。ボクサーに太ってる人がいないのがよく分かる。こんな汗かくんだから。

ボクシングは腕だけでなく足をすごい動かす。どっちも違う動きを意識しなければいけないからダンスと似てるなと思った。頭を使うアクティビティ。

体験も終盤。ミット打ちをする。蹴るとパン!と良くテレビで聞いたことのある音がジムに響く。これこれ、これがやりたかった。

2分間で交代。一緒に受けていた先輩ボクサーがミット打ちを始める。

バチン!!!!

すごい音が響く。え、今同じ練習してましたよね私。迫力が全然違う。同じ音でも私の音はピアニッシモ。先輩はフォルテッシモぐらい違う。一生懸命殴って蹴ってたのにな。

自分がへなちょこなことを痛感させられた日だった。ここ最近で一番汗もかいた。帰り道、ジャブとストレートを打ちながら帰った。

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