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初めてのバレンタイン

注意、オリキャラが登場します。
グランドが地球上で、秘書の仕事をしている設定です。

  side 金栄華ーキム・ヨンファ
 私、金栄華。今日は日本のデパートの特設会場にいる。
 今の時期はバレンタイン商戦の最中。
 母国でも似たような事をやってるけど、商業イベントが始まったのはこの国が先。欧米だと、男性から女性に花やプレゼントを送るのが一般的。
 せっかくの機会だから、彼に贈ってみようと思い立ったけど、いざ探し始めたら、色々ありすぎて迷ってしまった。
「うう、どうやって探そう」
 相手はこの星に来て約数ヶ月。期間限定だと聞いてるけど、こういうイベント事は知らないと思う。多分、世間が騒がしいだけとしか認識していない。
 都心部のデパートを梯子して見て回ってるけど、いまいちピンと来ない。
 そんな中、一軒のデパート会場で目を引く商品を見つけた。
 「いらっしゃいませ。どのようなチョコをお探しですか?」
 定例の笑顔と文句で店員が声をかけてくる。
 「えーと、この左端のチョコをください」
 片言の日本語で注文したのは、緑色の箱に入った5個入りのチョコレート。
 ベルギーの職人がプロデュースしたイベント限定商品。値段もお手頃。
 店員の説明によると、日本国内では店舗を出していないそうだ。
 その代わり、期間中はあちこちでスペースを出していると説明される。
 そんなやり取りをしながら支払いを済ませ、商品を受け取る。
 買った商品を手に取り、売り場を離れてから紙袋の中をのぞきこむ。
 袋の中に入っている小さな箱。
 うーん、何か追加しようか。
 栄崋は考え込む。
 どうせなら、普段使いできるような品物が良い。
 そう結論すると、デパートの紳士用フロアへ向かう事にした。
 紳士用品を扱うフロアを巡り始めると、一つの店がネクタイの特集している。
 この時期にあやかって恋人同士や夫婦で購入しに来てもらい、売上げに繋げようと企画したらしい。
 色とりどりのネクタイが飾られたりワゴンの中に入っているが、その内の一本に目を引かれた。
 青を基調としたビビッドな色使いだけど、オレンジ色と黄色も差し色として入っている。
 ひと目で気に入り、これも会計を済ませると、チョコが入っている袋の中へ一緒にした。
 お店を離れてからスマホを取り出すと、メールを起動。幾つか内容をチェックした後、彼のアドレスにメッセージを送信した。
 
  side グランド
 腕のスマートウォッチが振動した。
 メッセージの通知や通話が来れば、コール音か振動で知らせる設定になっている。
 今回はメッセージの通知。送信者の名前を見ると、金栄華。知人女性だ。
 素早く内容を確認すると、2月14日に会えないか尋ねている。
 タブレットPCでスケジュールを確認すると、幾つか予定を組み換えれば可能だった。
 近くのデスクで仕事をしている雇用主、偉范梨ーウェイ・ファンリーヘ視線を向けると、PC画面を見ながら電話で売買の指示の最中だった。
 彼女は日本で私立のインターナショナルスクールを開校したが、本業は投資家である。
 私は本来の護衛任務から逸脱する形で秘書業務についているが、これに関しては、当事者から了承を経ているので問題はない。
 自分のデスクから立ち上がると、范梨の側に行き、口を開いた。
 「社長。今、話がある。少し時間をくれないか?」
 彼女がその言葉に顔を上げると、口を開く。
 「いきなりどうしたの?それとも、何かトラブルでもあったとか」
 私は首を振って否定する。
 「別に、トラブルがあった訳ではない。ただ、スケジュールの変更をしたいから相談だ」
 「突発的なスケジュール変更ねぇ。一体、何があったの?」
 范梨の疑問は最もである。
 「大した事ではないが、金栄華が日本で会いたいというメールが今、来たからな」
 二人は現在、シンガポールのオフィスで仕事中。
 秘書の仕事柄、オフィス全体のサポートを行っているので、スケジュールの組み換えも業務の一貫である。 
 「ああ、彼女ね。会いたいって言うから、何か相談事でもあるのかしら」
 范梨も学園の宣伝記事を依頼しているので面識がある。
「私もさっぱりだ。ただ、2月14日にまでには会えないかと」
 首をかしげているグランドに対し、范梨は少し考え込む。
 今のシンガポールは旧正月だが、他国は違う。
 そこに思い至ったら、顔がにやけそうになる。
 そっか、アレね。日本の菓子業界主導の商業イベント。栄華もやるじゃない。うんうん、彼女にチャットで聞いてみよう。
 范梨も女性なので、人並みに恋バナを聞くのも好きなのだ。
 一通り考えをまとめると、再び顔を上げる。
 「いいわよ。その代わり、日本のオフィスの様子と、学園の方も見てきて報告を上げてくれればOK」
 「本当か?」
 意外だと言わんばかりのグランドに対し、口を尖らせる范梨。
「私だって、融通が聞かないと思われるのも不本意よ」
 「分かった。これから準備を始めよう。社長も定期連絡をお願いする」
 こうして話がまとまると、スケジュールの調整とアシスタントの指名、その間に日本行きの航空チケットをWeb購入等、あっという間に時間が過ぎて行った。
 一通り手配が済むと金栄華に連絡し、時間と場所を決める。
 バレンタインデーはもうすぐだ。
 グランドは何も知らない。
 2月14日当日。二人は空港内のカフェで会うことになった。
 カフェで飲み物を注文し、席に着く。
 栄華はバッグの中からプレゼントを取り出すと、口を開いた。
 「えーと、久し振り。呼び出したのは一応、理由はあります」
 「一体何だ。君らしくない」
 グランドは、訳が分からないといった表情で眉をしかめる。
 「実は、渡したいものがあって来てもらったの」
 「渡したいものと言うのは、それは私にか?」
 「うん。変なものじゃないから、安心して」
 栄華はそう言うと、緑色の紙袋をグランドに差し出した。
 「中身を見ても平気か?」
 「それは大丈夫」
 紙袋の中を覗きこむと、小さな長方形の箱と正方形の箱の二つが入っていた。
 「これは、一体?」
 「私からのプレゼント。中身の正体はチョコレートとネクタイ」
 うつむきながら説明する栄華の顔は、赤く染まっている。
 「この星は宗教由来のイベントが幾つかあって、今日はバレンタインデーになります。国によって、男性が恋人や家族に送るけど、日本の場合、女性側が男性に送るのが一般的」
 「それが理由で、私を呼び出したのか」
 道理で范梨があっさり承知したのか、合点がいくグランド。
 「いいじゃない。私だって、やって見たかったから」
 栄華はそう言って立ち上がると、その場を去っていった。
 「お、おい、栄華、待て!」
 思わず呼び止めようしたが、周囲の視線を浴びてしまい、諦めた。
 改めて席に座り直すと、テーブルの上には飲み物とプレゼントが入った紙袋。
 飲み物をひと息で飲み干すと再び立ち上がり、容器を所定の場所ヘ置くと、店を出ていった。
#トランスフォーマー #小説 #バレンタインデー
 
 
 

 

 
 

 

 

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