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<お菓子の物語>⑰プリンが蒸せるまで


雷鳴が響いている
私は雷のゴロゴロの音が怖くて
夏の暑さにもかかわらず
布団をかぶり、ガタガタと震えている

「ひーちゃん、汗かいちゃうから出ていらっしゃい」
と、母の優しい声がする

「イヤ! カミナリさんがどこかへいっちゃうまで、ここから出ないもん」
「そうなのね。プリンを作るから、ひーちゃんに手伝ってもらおうと思ったけれど、無理かしらね」

私はプリンという言葉にうながされ
おそるおそる布団から少しだけ顔を出す
その瞬間に、部屋の中へ稲光の先端が入ってきた
数秒もたたないうちに雷鳴がとどろく

「ムリだよ、おかあさん」
「それじゃあ、プリンを蒸している間だけ、お母さんがそばにいてあげるから、出てきてね」

それから母は台所で玉子を割って
牛乳と砂糖を注いで、シャカシャカと混ぜ始めた

それから布団の要塞の中に
カラメルの甘く香ばしい匂いが入ってきた

私は、そっと布団から顔を出す

布団の横には、かっぽう着をつけた母が笑っている

「ひみつ基地の隊長さん、ご機嫌はいかが?」
「もう、カミナリさん、いっちゃった?」
「う~ん、まだ近くを観察中みたいね」

布団の要塞から這い出した私は、頭から背中まで
汗でビショビショになっている
すぐに着替えて、台所で母と一緒にプリンが蒸されていくのを待っている

蒸し器が立てる音を聴き、湯気を見ているうちに
私は、すっかり雷の怖さを忘れていた

いつも、蒸しあがる頃には雷鳴は消えている



松下友香さん
企画に参加させていただきます。
#お菓子の物語  



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