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雨に佇む幽世の君

 今日は寒さで、いつもより早くに目が覚めた。
でも、まだベッドからは出たくはない。
六時を過ぎているというのに、窓の外はまだ暗い。
もちろん、部屋の中だって真っ暗に近いほどだ。

 耳を澄ましていると、人の営みの始まりを感じさせる音が聞こえてくる。
雨の中を足早に歩く音。微かに聞こえる傘にあたる雨音。
風に運ばれてくる線路を揺るがす通勤電車の音。

 いつまでそこでクスぶっているんだと、近所の車がタイヤを鳴らして私を鼓舞する。

 雨音が一段と強くなって、駅へ向かう足音も速く大きく変化する。
まだ薄暗い部屋の中を眺めながら、私は今日もここに居続ける。
社会はとっくに目覚めて動き出している。
 
 オマエは何処へ行くんだ。
何処へ、向かおうとしているんだ。

 わからない。
私は、此処から社会を、俯瞰していく。

雨に打たれる金木犀





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緋海書房/ヤバ猫
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