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マンデラ小説「M.e」EPISODE2 第5話「出雲大社」

【「兄」インディ・ホワイト編】

∶前回までのM.e∶
インディホワイト(Dr./ドク)とエース達は保護対象者と合流すべくロンドン動物園の地下に潜入。しかし謎の攻撃を受ける。


■201☓年5月ロンドン■

その人は、長椅子に静かに座っていた。

此方を見据えて微動だにしない。

顔はハッキリとは見えない。

ローブを頭から被っているからだ。

白色のローブ。

軽るく柔らかそうな、麻か絹の上質なモノが使われているのは見ても分かった。

シルエットが薄っすら見えるくらいだ。

よく見ると細かい刺繍が施されている。

高級品だ。

膝に置かれた手には、高級そうな純金のブレスレットのジュエリーが飾られている。

不釣り合いな出で立ちだった。

それは、手も汚れていてネイルも剥げ爪もボロボロで汚いからだ。

ローブの下から覗く洋服も違和感がある。

紺色のパーカーにジーンズと白いスニーカー姿だ。

カジュアル過ぎる。

それに、何ヶ月も取り替えてないかのように擦り切れてズタボロで薄汚れていた。

白のスニーカーも白さが見られなかった。

曇天で空気が重い、ロンドン動物園の駐車場。

「Qアノン」の古い2階建てバス。

ロンドンバスを改造し、濃いグリーンに塗り替えられセンスがいい外装だ。

清掃カンパニーのロゴも、今どきでおしゃれだった。

外見は古いが、中身は最新の設備なのだ。

その1階の奥にある部屋。

バスの1/3のスペースを取っているので割と大きい。

この部屋は特別だ。

金属製のシルバーのゴツそうな扉。

部屋の壁も金属製。

どうやら鉛とチタンがサンドしてあり、盗聴もあらゆる光線も通らないような変わった造りだった。

「スーパーマンもお手上げだな」

鼻を擦って苦笑いする。

天井もシルバーの金属製のようだ。

照明が見当たらないのに、部屋全体が明るい。

眩しいほどでは無いが、心地よい光量だった。

部屋も金属製に囲まれているのに温かく程よく心地よかった。

調度品は長椅子と椅子が2つ。

エース曰く、安全なシェルターだそうだ。

ローブの彼女とエース。

そして俺の3人が、この部屋にいる。

ここにきて、ようやく保護対象者であるローブの彼女が落ち着きを見せた。

これから安全な場所に移動させる算段だ。

それまでに、エースと俺とで簡単な情報を得る事になった。

本当はエース1人だったのだか…彼の英語は語弊しか産まないので、俺が付き添いに選ばれたのだ。

エースにお願いされた時に吹き出してしまったよ。

自覚はあったんだな。

俺は「J」のSmartGlassを掛けているので打ち合わせは要らない。

メガネのレンズに、直接指示や情報が流れてくるからだ。

エースには気になる事を言われた。

「彼女の事は何があっても、驚いても顔には絶対に出すなよ。クールにしろと」

事前に言われて鼻をこすって笑ったよ。

弟のジャックを思い出す。

あいつは小さい頃から「クールだね」が口癖だったんだ。

何がクールなのか、俺達家族さえもサッパリ分からなかったんだ。

すごく仲が良かったのだが、ジャックがハイスクールに入ってからアイツは俺を避けるようになったんだ。

ま、思春期ってやつか?

俺は、あちらの世界から消えた立場だから、何もしてやれないけれど元気にしてるといいな…。

俺とエース以外のメンバーは、後処理と周りの警戒をしていてくれている。

別働隊のヤツラはサッサと居なくなっていた。

さて

俺の前にはローブの彼女。

そして何故か、俺の斜め後ろにエースが座っていた。

保護対象者の彼女の名前は

「ギレーネ・マックウェル」

と言うらしい。

イギリス人だった。

年齢は50歳…

顔写真…

モニターに情報が流れ出た。

誰だ?

DS側から逃げてきた?と言う事は寝返った事になる。

何故寝返ったのか?

アイツ等の事を何処まで知っているのか?

俺も聞きたい事だらけだ。

「Q」が情報を出してくれているんだろう。

さらに彼女の情報がメガネに流れてきた。

俺は思わず立ち上がった。

俺達の因縁の「エプスタイン島」の「エドワード・エプスタイン」

ニールと彼の従姉妹を攻撃したヤツ。

アイツとコンビを組んでいた悪党が、眼の前のローブの女だった。

握った拳に力が入る。

エースに釘を刺されてなければぶっ飛ばす所だった。

エースが後ろから俺の肩に手を乗せていた。

……

ロンドン動物園の地下。

保護対象者とエースが、地下の部屋に取り残されていた。

暴風のような圧倒的な暴力の塊。

俺はぶっ飛ばされてニールと退避した。

残ったのがエースだから、実はあまり心配していない。

どんな困難でも難無く切り抜け、鼻歌交じりで帰ってきても俺は驚かない。

それ程、優秀な男だからだ。

しかし1人では無く、保護対象者と一緒なのは不味い。

足手まといを守りながら、俺をぶっ飛ばした暴力の塊を相手にするのはしんどいはずだ。

別働隊が俺と行き違いに潜入していた。

暫くしてメガネモニターに「Q」からGOサインが出たようだ。

別働隊が、もうアイツを制圧したのか。

エースの元に俺達も向う。

ランディが先にハシゴを降りた。

続いてニール。

ディビットとアランは待機だ。

来た坑道に降り立ったった。

湿った匂いが不快感を増す。

2人の後ろを歩きながら、俺をぶっ飛ばしたヤツの事を思い出した。


それは、エースとニール、そして俺がいた暗がりの部屋。

保護対象者が、部屋の奥にある小部屋に隠れている。

奥の小部屋に2人が入り、俺は暗がり部屋の出入口付近で周りを警戒していた。

俺の右手の壁。

その壁際には何も存在していなかった。

ただの壁。

距離にして3メートル先の辺りだ。

壁際はかなり暗かった。

そこの暗い空間が歪んで圧力が発生した。

不思議な感覚に俺は凝視した。

ぐうぅ…

そこに空気の唸る音がした。

俺の身体にも分かるような圧倒的な熱量が襲う。

暴風のような圧倒的な暴力の塊がソコに出現した。

手に持つモップ柄を強く握り直す。

何かが現れた。

空間から何かが出現したのだ。

その時、明るさが部屋全体を照らした。

エースとニールが保護対象者を連れて奥の小部屋から出て来た明かりだった。

暴力の塊の正体が見えた。

ソイツは、奥の部屋に身体を向けていた。

背を丸め、両手、両足をだらりとさせて力なく突っ立っている。

その姿勢なのに塊の高さは軽く2メートルを超えていた。

背丈優には3メートルはありそうだ。

暴力の塊と感じたのは、ソイツの肉量。

WWEのプロレスラーの肉体を完全に凌駕する体躯だったからだ。

肉の塊。

ソイツの周りの大気が熱い。

こちらまで熱風として伝わる。

手足の太さは丸太ん棒だ。

首も異様に太かった。

衣服を着ていない。

裸だった。

皮膚の様子がおかしい。

戦闘用のペインティングをしているのか?

よく見ると

皮膚は、緑色で硬そうな鱗のようなモノで覆われてヌラヌラとっ光ていた。

まるで蛇かワニの様な質感だ。

ペイントではない。

太い首にも鱗状があった。

ヌラヌラと緑色に光っていた。

髪の毛がない。

顔を見てゾッとした。

顔全体も緑色の鱗が見える。

馬のように鼻が長く、口は横に裂けて異様にデカい。

笑っているように見える。

目が大きい。

眉毛もない。

色は多分金色に近い。

ソイツの尻から尻尾が生えている

無意識にモップ柄を強く握り直し構え直す。

何だコイツは。

人間ではない。

太い尾がクネクネと気持ち悪く動いている。

ソイツがハッキリと悪意をエース達に向けた。

圧倒的な暴力の塊。

ソイツの肉量が

ぐうぅ…

と膨張した。

熱量も、コチラの肌にも伝わってきた。

俺は驚愕するより体が先に動いた。

エースが気が付いていないからだ。

ソイツがエース達に意識を向けている今がチャンスだ。

俺を見てもいない。

ステンレスのモップ柄を持って暴風の塊に向けて飛び込んだ。

息を止め、全身の筋肉に力を込めた。

モップ柄の半分くらいの所を持ち、腰に抱えて体重を乗せソイツの背中に突き立てた。

ぶつかる様に飛び込んだ。

「ガンッ」

大きな鉄の塊にブチ当たった感じだ。

衝撃は全て俺に返ってきた。

ステンレスのモップ柄がグニャリと変形した。

俺は反動でも転倒する事なく膝を曲げて後退りで済んだ。

びくともしない。

人間では無い顔が、ゆっくりと此方を振り向いた。

口がデカいので、笑っているように見えた。

俺がやっていたバスケットボールは肉弾戦の格闘技に近い。

オフェンス、ディフェンスのアタックは体当たりが茶飯事。

その経験が生きた。

「Arghhhhhhhhhh!!!!!!!!!!!」

ソイツは怒鳴り声を上げた。

ゆるりと身体を動かした。

刹那

暴風が俺の頭を襲う。

丸太のような左腕をがきた。

Duckして避ける。

ソイツは反転し、今度は丸太のような右腕で俺の頭を刈にきた。

暴風が襲う。

Swayして下がる。

冷や汗が止まらない。

アレに当たれば頭が無くなっていた。

俺は舌をペロと出す。

バスケの試合のように緊張感が戻ってきた。

しかし俺は調子に乗ったようだ…。

姿勢を低くし避けた筈の俺の顔に素早い影が近づいた。

瞬間に手をクロスにした。

俺の身体を吹っ飛ばした。

ゴーグルが飛んで無くなった。

地面に投げ出された。

土の湿った匂いが鼻いっぱいに入ってきた。

何だ?

腕ではない。

尻尾で飛ばされたのだ。

「さがれー!」

「外に走れー!」

エースの怒鳴り声の指示がきた。

時間稼ぎがうまく行ったようだ。

転がりながら出口に向う。

振り向かない。

いつの間にかニールが扉を開けて待っていた。

そのまま2人で地上まで走り抜けたんだ。


ローブの女は長椅子に座り、静かに此方を見ている。

シルバーの金属製の部屋。

女の後ろから照明がさして逆光で、しかもローブを頭から纏っているので表情が全く読めない。

エースが冷静さをくれた。

俺は椅子に座って呼吸を整える。

メガネを掛け直し鼻を擦る。

「あんたの事は何て呼べばいい?」

唐突に聞いた。

「ギレーネでもマックスでも好きに呼ぶといいわよ」

甲高いのに、しゃがれた変な声だ。

女は、微動だにせず挑発的に答えた。

照明の逆光とローブで女の表情が読めない。

イラついた。

「あんたは、向こう側の人間だろう?どうして保護を願い出たんだ?スパイじゃないのか?」

ローブの女は、ジッと俺を見据えて答えない。

ローブで顔の表情が見えない。

「おい!いい加減にしろ」

イラつきを抑えられず、俺はローブに手を伸ばした。

エースが止める前に、俺は瞬時に動いた。

邪魔なローブを引っぺはがしてやった。

女は座ったまま微動だにしていない。

ようやく顔が拝められた…

俺は立ち竦んだ。

女は、こちらを見上げて冷静に見据えている。

息を呑んだ。

俺の肩にエースが手を置いたが…座れなかった。

女の顔を見て血の気が引いた。

女の髪の毛はブラウンのショートヘアー。

大きめのシルバーのピアスがぶら下がっている。

俺が驚いたのは顔のせいだった。

怪我か拷問でもされたのか?

顔が火傷跡のようなケロイド状で悲惨だった。

女が瞬きし、少し顔を動かした。

違う…

火傷やケロイドの怪我ではない。

ケロイド状に見えたのは、細かいウロコだ。

ワニ革のハンドバッグの型押しの用な皮膚だ。

そして肌の色は緑色だ。

女は、まだ俺を見据えていた。

この女もレプリティアン・ヒューマノイドだった。

不意を付かれて戦慄した。

ローブを持つ手に力が入った。

顔が真っ赤になって苦しくなるのに気付いた。

俺は呼吸をしてなかったようだ。

大きく息を吸う。

女から目を離してはいない。

俺も女を見据え返した。

先程、地下道で戦った圧倒的暴力の塊。

体長3メートルの怪物。

アイツこそがレプリティアン・ヒューマノイドだったはずだ。

アイツは見た目からして怪物だ。

漫画で出てくる尻尾のあるリザードマンそのものだった。

しかし、この女は、大きさもシルエットも人間だ。

人間の女の形をしている。

目の大きさは普通だが、白いところがない。

全体の色が金色だ。

瞳は、薄く縦に黒色のモノで、猫に似ていた。

瞬きが縦と横と2つある。

手の甲も薄い緑色でウロコ状の型押しだった。

こちらを見据えていた女が薄笑いした。

口元は割と大きい…が唇がない。

ただ横に割れているだけだった。

表情が読みにくい。

「尻尾は生えてないわよ」

大きく笑った。

口元を手で隠す仕草は、人間の女そのものだった。

気味が悪い。

出来損ないのB級映画を見ているようだ。

「舌はちょっと長いわね」

歯を見せて舌を出した。

歯の形状は犬のようだった。

奥歯が尖っている。

舌は異常に長い。

ケラケラと笑っている仕草はどう見ても人間だ。

「あなた、私達を知らなかったのね」

女の金色の目が、優しい光に変わった。

エースが、俺の肩に手を置いてるのにようやく気付いてゆっくりと座り直した。

俺は驚きすぎて毒気が抜けた。

鼻を擦って笑ってしまった。


女は何故か俺に興味をもったようだった。

子供に説明するように静かに語りだした。

「私達の話をするなら、その前に始まりの出来事から話さないとね」

俺達は「Qアノン」である程度の情報は知っていたが静かに聞いていた。

この俺達の生活環境は、高次元生命体が創造したらしい。

地球や月や太陽は「人工的に作られた環境」だそうだ。

俺達が言う「自然」とは「人工的」に作られたシステムらしい。

地球の歴史は、何億年前か何百年前かは定かではないそうだ。

それは何度か文明リセットを繰り返しているからだそうだった。

女が生存してから現在まではリセットはされていないそうだった。

つまり、人類の歴史は現在、たった200年くらいだそうだ。

創造主「セブンズ」と呼ばれる集合体。

現在の科学力を遥かに凌駕する存在。

現在の概念で「宇宙文明レベル」と言われる科学技術力。

最高位のレベル7の存在達である。

俺達の文明レベルは0.7レベルで1にも満たない生まれたての赤坊レベルらしい。

「ほっとけよ。快適に生きてるぜ」

俺は心のなかで毒づく。

俺達もその宇宙文明レベルの科学力を得るには後、何億年もかかるらしい。

「それらが私達の生みの親だわ」

私達と言うのは俺達「人間」も含まれてるようだ。

この女もセブンズ達に造られたのか?

宇宙の彼方から飛来し、太陽系を創造し地球を環境を作り上げた。

エネルギーたる太陽を造り、生物が住める環境を整えたそうだ。

セブンズ達が拘ったのは「寿命」だそうだ。

「全ての生き物は死を迎える事」

どうやら「セブンズ達」は寿命はないようだ。

「そいつ等は、偉く哲学的なんだな。先に死を決めてから生を作るか…。
まるで漫画の世界だな。どうやって創るか眼の前で見せてみろよ」

心の中で毒づいた。

「あなた達に判る理屈で言うと…そうね、ちょっと大掛かりなビオトープを作るようなものよ」

俺の心が読めるのか?

ビオトープは人工的に作られた自然環境だ。

俺がロースクール時代に、弟のジャックと親父とで裏庭に作った覚えがある。

川と池を造りジャックが小魚を放流したんだっけ。

俺は足を組み替えて腕組みをした。

そうして、右手のSmartRingを、女に見られないようにしていた。

エースと通信するからだ。

女は語り続ける。

地球のベースとなる惑星を1から作るのに、たった1週間。

作りたての地球は、熱エネルギーで燃えたぎる地表を冷却するのにたった1日。

海は、その地球の冷却に現在でも役に立っているそうだ。

そして「寿命」を司る「劣化・風化」の礎となる「水」と「空気」の循環システムを構築。

「水」と「空気」が揃えば生命は酸化し「寿命」を等しく迎えられる。

「水」を創り出すのに苦労したそうだ。

死なないセブンズ達からすると、どうしても必要なモノだったらしい。

「頭のいいヤツは大概イカれてるからな」

俺は茶化すように口笛を吹いた。

女の嫌そうな顔を見たかったが、顔が顔だけに全く表情が読めなくてニヤついた。

俺はSmartRingでエースとコンタクトを取った。

女はお構いなしに話し続ける。

地球環境で大事な大陸を作る作業。

これは細かい作業になるそうだ。

セブンズ達が、9つにグループを分けて大陸を9つ配置したようだ。

その際に労働力が必要。

資材は地球の鉱物と手持ちの生物をキメラ化させたようだ。

その労働力がトカゲと鉱物で作られた、この女達の始祖らしい。

セブンズ達が細胞配列を組み換え、ロボットのように完全なる下僕。

命令に忠実に動き、労働力のみに特化し知的生命体ではない思考もしない奴らだそうだ。

「なんだよ。万能の神でも土木作業の力仕事は苦手なんだな」

心で毒づいてエースにSmartRingを使って通信した。

Dr.>∶こいつの話は全く聞く価値もないんだが…

SmartGlassに返信がきた。

エース>Re∶Hey!ドク、喋らせておけ。たった1つ…1つだけ聞きたい事がある

エースは英語は話すとアレだけど、文章はイケてる…謂わず鼻を擦って笑う。

エースが知りたい情報は何だ?

この女には話すだけ話させるか…。

俺は、前のめり気味に座り直し、話に興味のある素振りを見せた。

女の表情はやはり読めない。

読めないが、手振りが多くなってきた。

下っ端ほど偉そうに喋りたい、と言うのは本当だな。

そのトカゲ野郎達は、9つのグループがそれぞれ大量に所有していたそうだ。

量産型って奴か?

大きさも10メートル超えのヤツから1メートル程のタイプまでいたそうだ。

女は自分の話に酔ったように話し続けた。

足を組み直し、手で表現しながら雄弁に語る仕草は、人間のソレだったのが滑稽に映る。

まるで詐欺師のようだ。

エースは後ろで気配を完全に消していた。

全てを俺に任せているようだ。

メガネからの指示もなかった。録画はメガネを通して行っているようだった。

そうして彼等は、地球の大陸を整地して環境を作った。

「何の環境だ?」

俺は手を上げて聞いてみた。

詐欺師の話に乗ってみる。

相変わらずトカゲの表情は読み取れないが、俺が感心を寄せたのが余程うれしかったのか声のトーンで理解した。

それでも甲高いしゃがれた変な声だった。

「あなた達、人間が生きていける環境よ」

何を言っている?

「セブンズ達が、自分達が造った人間の為にわざわざ地球を作ったのか?」

「さぁ、そんな事は知らないわ」

女は、表情筋が人と違うから笑っているしか見えない。

「神様の意思なんて、私達が理解できるわけないじゃない」

「そうそう、人間は猿から進化した!なんて、貴方信じてる分けないわよね?子供でも分かる馬鹿な話よね」

ケラケラ笑い声が出た。

やはり笑っていたんだな。

「でもね…全てがシナリオ通りらしいわね」

…シナリオ?

送信がSmartGlassに…

エース>Re∶Dr. don't ask questions!

俺はメガネを掛け直し姿勢を正した。

「すまん。話の腰を折った。続けてくれ」

「えーっと、どこまでだったかしら…」

女も姿勢を正して話を続けた。

セブンズ達は永遠に生きられるが…肉体が存在していないらしい。

地球を作る時に自分達が下僕に現地で指揮する為に【容れ物/Avatar】を作ったそうだ。

魂を入れて起動させるようだ。

ドローンか操り人形のようなモノか?

そして9つのグループそれぞれ別の形の【Avatar】を用意したようだ。

彼らにもグループを象徴する旗印のようなモノがあるようだった。

「仲良くしろよ。超越者の癖にめんどくさい奴らだな…」

心で毒づく。

蛇を改良したAvatarは、後に人間に神と呼ばれた「Enki」

力強い牛を改良したAvatarも神と呼ばれた「Enlil」

鳥と人型のAvatarは「Manu」と呼ばれたり、他にもAvatarは存在したそうだ。

世界各地の遺跡や壁画に、それらの存在が描かれてるわよ、とケラケラ笑った。

その、それぞれのAvatarにはセブンズ達の「地球創造担当者達」が魂を移していた。

レプリティアン軍団のリーダーとして指揮していたようだ。

「宇宙人なのに担当?役人みたいだな」

俺は担当者と聞いて思わず吹き出しそうになった。

エース>Re∶…No No way

エースも反応してたのが笑うよ。

その9つの配下の下僕として大量に存在したレプリティアンは環境整備に手足として活躍していたそうだ。

「なんだよ、下っ端じゃねえか」

心の中で毒づいてみた。

女は睨んでいたので、やはり心は読めるようだ。

そうしてセブンズ達は9大陸を整地。  

最後に「人型」たる人間を大量に創った。

9グループの大陸毎に人間の種類は違うようだ。

現在、公式には人種は5つしか確認できてないが、本当はあと4タイプが生存しているようだった。

そして、人間の世界を創り上げ適切な運用が始まった。

Avatarは、人間に直接指導はしなかったようだ。

トカゲが人間のリーダーとして彼等を労働力として技術を指導したようだった。

しかし

トカゲとセブンズ達の従属関係に大きな変化が起きたのだ。

トカゲ軍団の個体に変異種が突然出現していたそうだ。

現在のレプリティアン達の始祖と呼ばれる存在。

知能を有する唯一のトカゲ。

「オリジン」と呼ばれていた。

彼は、下僕たる自分達同族の待遇を嘆いた。

そうして時間を掛けて用意周到に下剋上を仕掛け始めた。   

自分達のリーダーたるセブンズ達。

それらのアバター達を出し抜き、地球から追い出したのだ。

そして残りの8つのグループ達に戦争を仕掛けて滅ぼしたのだ。

いくら優れた技術力を持とうとも、下僕のトカゲ達に裏切られたらひとたまりもない。

寝首を搔かれる、と言う奴だった。

それらの戦争でセブンズのアバター達は駆逐され迫害されたようだ。

地球の何処かに逃げたり、見つからないように隠れたりしていたようで現在も隠れているようだった。

「ひょっとして…Qアノンは、その生き残りなのかもしれないな」

俺は何となく考えた。

その戦争では、地形が変わるくらいのエネルギーで大陸が破壊されたり、消滅したりしていた。

幾つかの大陸は消されてしまったようだ。

セブンズ達の科学兵器等も、それに伴い大部分は消滅したようだ。

残った技術は「オリジン」だけが使えるようだった。

「オリジン」が所有している技術は

■ヘルメスの杖
■アスクレピオスの杖
■モーゼアロンの杖

と呼ばれるモノで詳細は不明。

こいつ…見てもないのによくスラスラと適当な事を話すよな。

Dr.>Re∶情報量多くて何言ってるかさっぱりかわらん!

エース>Re∶話半分に聞いとけ。俺が欲しい情報は出た。オリジンだ。

Dr.>Re∶OK

「オリジン」は地球の覇権を握った。

「オリジン」は、何故かセブンズ達の跡を継いだかのように人間の繁栄に尽力しだした。

神の代わりにトカゲがすり替わった。

しかし、大量の人間達を管理運営するにはオリジン1体だけでは手が回らない。

期待していた同族のトカゲ達は利用できなかったのだ。

奴らはセブンズ達に精神コントロール改造されて造られていた。

トカゲ達の忠誠は、セブンズ達に向けられたのを「オリジン」1人に書き換えたのだ。

それで一気に反乱を成功させたのだ。

しかし、彼はトカゲに自我を与える実験結果、全て碌な事にならなかったそうだ。

いくら実験してみてもトカゲ族には知能が育たないのだ。

欲望だけが育ってしまったのだ。

そんな同族に対して彼は、好意的では無くなったし期待もしなかった。

失望したのだ。

とにかく使い物にならない。

なので彼は、新たに自分だけの下僕を造る事にした。

セブンズ達の残した技術と知識を盗んで実験を繰り返した。

基本は人間のMIXのキメラの製造だった。

セブンズ達のAvatarの真似たのだ。

様々な動物や植物など人体実験を行ったのだ。

同時に彼は、人間の繁殖と発展にも力を注いでいた。

矛盾している行動だった。

キメラは、あらゆる種類が製造されたが問題ばかりで淘汰した。

「オリジン」が自身のDNAを使って全ての実験体に移植してある。

「オリジン」が「思っただけで」で行動や感情をコントロールする事ができた。

セブンズ達の技術の応用だった。

「淘汰」とは「オリジン」が思っただけで「殺す」事も出来るようだった。

結局、セブンズ達のAvatarの真似は全て上手く行かなかった。

最終的に使い物に成ったのは、自分達のトカゲのDNAと人間の合成MIXだった。

そうして、この女の種類の人間の形に近しいトカゲタイプ。

レプリティアン・ヒューマノイドが完成したようだった。

「オリジン」は、自分の理想であった知能の高い人型レプリティアンを10体程造った。

そうして表舞台から姿を完全に消したのだ。

現在も「オリジン」の行方を知るものは少ない。

その10体が「オリジン」に変わってレプリティアン・ヒューマノイドを製造する事になる。

もちろん、全て「オリジン」の精神的支配下にあった。

この女もそこで生まれたようだった。


「ちょっと待ってくれ」

俺は慌てた。

話を遮って立ち上がった。

「あんた、そのオリジンと今も繋がってるんじゃないのか?

この場所も知られてるし、さっきのトカゲ野郎もあんたが呼んだじゃないのか?」

女は笑い出した。

「そうね…確かに私は怪しいわね。私の状況は知ってるかと思ってたのだけれど…後ろの人は知っているみたいね」

女はエースを顎で示した。

俺は振り返ってエースを見た。

エースは首を傾げて変なジェスチャーをしていた。

不覚にも笑ってしまった。

エースらしい不思議なゼスチャーだった。

意味は全く分からないが、表情からは「知っている」ようだった。

「改めて言うけど、私とジェフは警察に捕まって留置所にいれられたわ。 

捕まる必要はなかったのだけれども、形だけ捕まったフリよ。

だって捕まえに来た警察官の上司やらトップ達は、私達の仲間だらけなんだから」

女はケラケラ笑った。

「私の身代わりが手配され、交代する手筈だっのだけれど…手違いが起きたのよ」

女は真顔らしいけど、表情筋の関係か?やはり笑ってる。

「何が起こったんだ?」

裏切られたのか?とんでも無いトラブルが起こったようだ。

女は続ける

「コロナワクチンよ」

俺はズッコケそうになった。

意味がわからない。

「知ってるように、このコロナワクチンは主に日本人をターゲットにしたモノよ。私達グループが製造してDNAをいぢって日本人を覚醒しないようゾンビ化させる筈だったのよ」

「ワクチンが失敗作だったのよ。余計なDNAまで攻撃して健康体を破壊するような劣化したワクチンまでもが出回ってしまったの」

自分の腕に注射するフリをして、Oh My Godのポーズをやりやがった。

こいつは本当にトカゲか?

俺は鼻を擦って笑った。

「勿論、私達はワクチンそのものを打つつもりはないわ。

私達側のグループの人間達…テレビタレントの議員達や首相達はパフォーマンスだけして接種はしないわ。

危険だもの」

またケラケラ笑いやがった。

女は胸に手を当てて

「私、ワクチンを打たれちゃったのよ。

ヒラの警官が収監する規則だとか言って勝手にワクチンを本当に打ったのよ!

ねぇ、信じられる?

私の仲間から指示された栄養剤の類かと思ったのよ…」

女は両手で頭を押さえて下を向いた。表情筋の違いか、やはり笑っているようにしか見えない。

「打たれた瞬間に、頭痛はするし身体中痛いしのたうち回ったわよ」

下を向いていた顔を上げた。

女は困った表情のはずだけど笑ってるようにしか見えない。

「でね…呪縛が無くなったのよ…。

オリジンと繋がっている全てが消えたのよ。

ファーストを敬愛する概念も消えちゃったのよ」

意味がわからない。

俺は前のめりで聞いた。

「つまり、ワクチンでオリジンのDNAが破壊されて奴との繋がりが消えたって訳か?

それだけで此方に寝返って助けを求めたのか?」

「そうよ!

見てよこの顔!肌も!

周波数も使えなくて人間の形が保てなくなったのよ!」

化けの皮が剥がれた、ってやつか。

女は真顔なのに、やっぱり笑っているように見える。

女が

「もし貴方が戦争中の指揮官で、機密が入ったドローンが敵地で墜ちたらどうするの?」

掌をヒラヒラさせて質問した。

頭の回転が早いのか、人間としての感情を持ち合わせていないのか…サイコパスを相手にしているようだ。

感情の間が見えないと言うか情緒が無い。

女の顔はニヤニヤしているようにしか見えない。

「そうか、消されると言うことか。

それで此方に保護を申し出たのか…話の腰を折ってすまなかった」

俺は座ったまま謝ったが、俺は全てを信用はしていない。

受け入れたエースや「J」に算段があるのだろう。

女はまたケラケラと笑った。

「オリジンはどこにいますか?」

不意に声がかかった。

俺の後ろから、エースが女に声をかけたのだ。

エースが欲しい情報はオリジンの居場所のようだ。

「ふーん…」

女はニヤつきながらエースを品定めしていた。

「ふふふ…ようやく初めて喋ったわね。

ファーストから助けてくれてありかとう。

貴方…最初にも思ったけどチラホラ消えてるわね」

俺は咄嗟にエースに振り返ったよ。

「消えてる?」小声でエースに聞いた。

エースは困った顔で、得意の変なジェスチャーで返した。

緊迫した自体なのに吹き出しそうになる。

察すると、エースも知らないそうだった。

俺は女に身体を向き返した。

「消えるとはどう言う事だ?」

座ったまま、手を広げ語気を荒げた。

女は笑った顔のまま遠くからエースを覗き込んだ。

「この人は特異点だわね」


ロンドン動物園の地下道

ランディとニールの後を早足でついて行く。

地下坑道の左右の部屋はアイツ等の実験部屋だ。

嫌悪感を感じながら通り抜ける。

ランディが「wait」の指示をだす。

先程までいた部屋の前。

ぶっ飛ばされて逃げた部屋だ。

デカいトカゲ野郎。

暴風のような暴力の塊なアイツがいる。

外に聞こえそうなくらい鼓動が激しくなる。

深呼吸した。

先行した別働隊の5人。

あの装備なら簡単に制圧できそうだ。

なんたって「J」のオーバーテクノロジーの武器だからな。

部屋の入口の前。

開いた扉の横で俺達は待機していた。

やはり鼓動が激しい。

緊張する。

開けた扉から、不意に昼間のような閃光が出た。

消毒液のような匂いも流れてきた。

「エース達は大丈夫か?」

「GO」サインが出たようだ。

ランディがサインを送って俺達は部屋になだれ込んだ。

部屋に入って直にランディとニールが立ち止まる。

部屋の中は明るい。

未だ消毒液のような匂いが漂っている。

5人の別働隊が円を作って囲っていた。

武器をおろしているので制圧完了しているようだ。

その中心に、大型のトカゲ野郎が横たわっていた。

デカい。

驚くほどデカい質量だった。

まるで緑色のクジラが打ち上げられたような迫力だ。

明るい所でまじまじ見ると、本当にデカくて3メートルはある。

血の跡は無いが死亡しているのが分かった。

トカゲの身体中からチラチラと光が発光し始めたのだ。

寿命が尽きそうな街灯の電球ように、パチパチと光が弾けるあの感じだった。

そのままトカゲ野郎は消えてしまった。

なんだこれは?

別働隊の1人が、消えた場所に掃除機みたいな測定機のようなモノを当てていた。

周波数で見えなくなった訳ではなく、物質そのものが消えていたようだった。

もともと闇から出現した野郎だから闇にでも消えるんだろう、そんなに関心はなかった。

「よし」

別働隊のリーダーらしき人間が合図し、彼等は撤収していった。

俺の横を通る時に隊員達が、それぞれがグータッチで肩を軽く叩いて行った。

ニールとランディにもグータッチで出ていった。

困惑するも、取り敢えず笑顔で見送った。

鼻を擦って笑ったよ。

それよりエースだ!

振り返り小部屋の辺りを見返す。

「突然で悪かったですね」

変な英語が後ろから聞こえた。

エースだ。

何故か俺達が来た扉の外から現れた。

「大変助かりました。貴方には。戦ってくれて私が気が付きました。あのままですと私達がやられていましたよ」

エースの英語は緊迫した状況に似合わないので和んでしまう。

はにかんでしまう。

エースと握手とハグをした。

「無事で良かった。
それより保護対象者はどうした?」

改めて問うと小部屋を顔で示した。

既にニールが先行していて中から保護対象者を連れ出していた。


「特異点とはどういう事だ?」

俺は女に問いただす。

「ふふふ…」

女は座ったままサイコパスのような笑顔をこちらに向けた。

「そうね…助けてもらった事もあるし、オリジンの居場所くらいは問題ないわよ」

女は組んだ足に左手を乗せて右手の人差し指を真上に示した。

「オリジンはジャパンにいるわ。ジャパンの◆◆◆◆◆◆にいるわ」

ニヤニヤしながら言った。

「◆◆◆◆◆◆」は、俺には聞き取れない言語とイントネーションだった。

「ジャパン?」

SmartGlassの翻訳をクリックした。

グラスに文字で現れた。

「“いづもたいしゃ”」

日本語だった。

日本にある場所のようだった。


困惑する俺の後ろで、突然椅子が倒れる音がした。

エースが俺の横で立ち竦んでいた。

「出雲大社か!?どちらのだ?」

エースは日本語で話す。

俺は何を言っているのか聞か取れなかった。

女はケラケラと笑いながら、日本語で答えた。

「あら、貴方はやっぱりジャパニーズだったのね。どうりで特異点なわけね。

特異点でマンデラエフェクトした方の、出雲“おおやしろ“では無くて

出雲“たいしゃ”の方よ」

女も日本語で話した。

俺は日本語は分からないが、エースの事を「ジャパニーズ」と呼んだのは聞き取れた。

今日1番の驚きだ!

エースは、どう見てもイギリス系アメリカ人にしか見えないのに…。

眼の前にいるエースを見ながら言葉が自然に出た。

素っ頓狂な声が出た。

「エースが日本人!?」

エースは、得意の変なジェスチャーで俺に返した。

■■■■next

第6話↓

https://note.com/bright_quince204/n/n91cab1d60db3

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