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爆弾 呉勝浩

面白かった、凄まじくクオリティーの高い社会派ミステリー。
安酒に酔っ払い軽犯罪で逮捕された、見るからにだらしない中年男のスズキタゴサク。
間抜け面は表面的なもので得体、正体の分からないとんでもないモンスターだった。

こいつが東京都内に爆弾を仕掛けたと・・・これが現実に・・
何としても爆破を食い止めようと有能な警視庁捜査一課、清宮が取り調べるが。


会話で揺さぶりをかけようと試み、ゲームと名を借りた心理戦で相手の隙を探ろうとする緊張感が堪らない。
人間が持つ動物の血が静かにあぶりだされる。

内包する醜さ、狡猾さを、そしてそれらに傾倒しないように併せ持つ幾ばくかの良識、理性でバランスを保とうとするも、このモンスター相手にスイングされる始末。

容疑者の思う壺にハマってしまった時の絶望と恐怖が倫理観を崩され、感情を剥き出しにしていく。
手に負えないと清宮から類家に変わったとこから一気にストーリーは加速する。

これは誰が主人公でもおかしくない。
各登場人物がエース級の存在感を持ち、頭の回転の速さと本質を見抜く眼力で事件の謎を追い犯人の真相に迫る刑事、現場で鍛えた勘と経験、悪への憎しみで犯人を追う刑事。
だが皆がどこか歪んでいて、何かが欠けていて人間らしいのが興味深い。

世垢にまみれ、生きることに疲れ、卑屈になり自暴自棄に自ら追い詰めるスズキタゴサクのような凶悪犯、日本だけでなく今や世界中にいるのでははないか。
その脳みそを別に使えばいくらでも活路はあったろうにと・・
この物語を読んでる中、こんな奴は絶対に許さない、愛する者の悲しむ顔を見たくないと思えた自分は幸せなんだろう。

ノンフィクションとして後半に派手な展開を期待したが龍頭蛇尾か。
立ち上がりから中盤の類家との攻防があまりにも凄すぎた。
サスペンス、ミステリーとしても面白いが哲学的、或いは心理学とも言える評判通りの本でした、お勧め度は★5つの満点です。
初読み作家さんですが長い付き合いになりそうだ。

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