雨を愛する
朝から降る雨、通勤通学で急ぐ人並みの中にその男の子はいました。
2歳くらいでしょうか、紫色のぶかぶかの雨合羽を着て空を見上げていました。横を通り過ぎようとすると、男の子のベロが見えました。よく見ると、大きな口を空けて雨を飲んでいました。顔が雨で濡れるのも気にせず、嬉しそうに飲んでいました。桃色のベロで顔の周りについた雨粒を一心に味わっていました。
とびっきりの笑顔でした。
その横でお母さんらしき人が、にこにこしながら見守っていました。
「キミは雨を愛していると言うけど、傘をさして歩く。太陽を愛していると言いながら、日陰に逃げこむ。風を愛しているのに、窓を閉じる。だから、愛していると言われるとこわいんだ。」
ボブ・マーリー
この言葉を思い出しました。
どしゃ降りの中、傘もささずに駆け出したあの日。
びしょびしょになった服をなぜか誇らしげに絞っていたあの日。
紫色の雨合羽の男の子のように雨を愛していたあの頃を思い出しながら、私は傘を少しくるくる回しながら職場へ向かいました。
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