眼を上げるナルシス 鬼りんご

眼を上げるナルシス

       或ひは語彙といふ制約

光といふ光が褪め 朝が砕け散つたといふ
沈められた怒りはこゑを鎖ざされて錆びてゆくらしい
夢さはぐ吹雪ヶ浦に押し寄せ押し寄せる悔いの連なり
つぶやきが言の葉を探せばはや時はもの言はず退いてゆく

この世のふとした傷口だつたもうゐない私からは今も
よく冷えた香り高い痛みが風に発つ しかし
痛みを忘れて君の歯は皓く 猫祭りの街に歓びは飛沫き
息の止まる美しさなど誰も覚えてはゐないから
寄る辺無い痛みはただ空へ あをの高みへ吠え昇る

そこに岩が聳える限り ゐない私の空がうなる
そこに花の揺れる限り ゐない私の蜜がうたふ
とほいのは
虹をくぐつて訪ひ慕ふ鳥のまなざし
虹を超えて旅立ち翔ける鳥のきらめき

忽ち時は満ち急ぎ膨れ 猛り溢れて重く撓む
薄紅の恋も疼く祈りも 崩れる嗤ひに晒される真昼
影といふ影が閃き走る 果て幽けき鬼ノ灘に
ゐない私のとどかぬ思ひが鈍色にうねる


(「こどもだま詩宣言」対応  原文縦書き)

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