もう、とことん休憩:硬質睡眠  鬼りんご

硬質睡眠 (製造工程等覚え書き残闕)   


再結晶には寂しさの原液を用ゐる 濃紺のもの
冷涼の強い檸檬風が山脈から吹き下ろす立地が必須

     ⚪︎

淡水魚二八種 海水魚・地中魚各一七種 天空魚一九種
いづれも発声寸前の本能を配列連結し夢化する
各本能の内部は清潔に保つこと
(魚種名及びその配列は口伝)

     ⚪︎

タイプA  覚醒時点で苦と迷ひとの完全消滅(所謂解脱状態)
タイプB  摂取者が睡眠に完全同化(当然覚醒なる事態は無い)
模索は奨励されるが臨床実験は許されない

     ⚪︎

楽の音を焚きしめたものは一部熱狂的試作家により探究が続いてゐる。これまでに判明しているのは以下の諸点。
・使用楽器点数は五を超えないこと(打楽器は鯨皮製品のみ可)
・声を含まないこと(人類獣類鳥類等種を問はない)
・匂ひを一切喚起しない時間幾何学的楽音であること
・生演奏をぢかに時間凍結装置より燻蒸機に噴霧

     ⚪︎

基礎一次資料は病んでゐる地区の地表大気デイタである
反転処理後に波動実体化装置に入力
デイタ採取地の病相が製品の指向性を決定づけることは対照実験により実証済み
ただし両者の具体的因果関係は未解明である

     ⚪︎

粗暴と紛ふがさつさを要する特殊工程が繊細に入り組む
頭脳言動身なりに極度の洗練の気が漂ふ工員は排除される

     ⚪︎

ごく稀に 即ち 概ね四千年〜二億年に一度といった頻度で装置から微量の稲妻が漏れ疾る事故が報告されてゐる
事故が製品の品質に影響した報告例は無い
*稲妻に触れた工員は例外無く今日まで絶命機会を与へられてゐない

     ⚪︎

第八工程以前に乙女の呼気がかからぬよう注意すること
ただしフウリエ変換後の軽微な罪に関してはこの限りではない



(「こどもだま詩宣言」対応  原文縦書き)


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