【小説】タイトル:未定①

男は、草むらを駆ける
常に10歩先は、濃霧のせいで見えない
顔に霧がかかり、その霧は水滴となる
男にはそれが汗か霧かの区別がつかない
これ以上速度を上げたら、足が絡まって転ぶんだろうなと、男は自身の姿を俯瞰的にみて思う
何から逃げているのか、何に向かっているのか男にはわからない
ただ、なにかが追ってきていることはわかる
駆ける、駆ける、駆ける
少し離れた丘の上に白い壁が見える
行き止まりか、それともどこかへ繋がる入り口か
わからないけれど、男は駆ける
今踏んだ土が跳ねる、跳ねる
すごいスピードで今が過去になる
これは今なのか、未来なのか、それとも過去なのか、男には判別がつかなくなってきた
白い壁は、横だけでなく縦にも広がりがあるようだ
小さな出入り口が段々と大きくなってくる
白に染まった視界は、真ん中から段々と、小刻みしながら黒く染まってゆく

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