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風の人 ―後編 ―


朝、目覚めるとテーブルにはべっぴんさんが元気よく咲いている。花のある生活も良いもんだなと思いながら、納豆めしを頬張り味噌汁を流し込む
寝坊して大慌てで支度をして、べっぴんさんに
「行ってきま〜す」と挨拶をして会社に向かった
植物に話しかけるなんて滅多にしないのだが、べっぴんさんには申し訳ない気持ちがある。
僕が転けなければタンブラーの中に掴まれる事もなかったのになという思いがある。花瓶を準備しようか迷ったのだが、おそらく今後、使う事は無いだろうと思いやめた。僕は、切り花はしない主義だから必要ないのだ。

僕的にはタンブラーに差したべっぴんも悪く無いのである。それなりに “ナイス〜” なのだ。

遅刻せずに何とか会社に着いて同僚のヒロシに「おはよう」と声をかけた。すると、「ケン、お前なんか良い事あったのー」と言われた。
僕が「何でー」と答えたら、「雰囲気がなんとなく
明るく見えたから」と言われた。

花のある生活でこんなにも変わるのだろうか!?
植物は精神に良い刺激を与えてくれるのかなっと思いながら仕事に入った。

仕事が終わり帰ろうとしたら、ヒロシに「今から居酒屋に行こぜー」と誘われたが、気乗りしなかったので今日はパスした。僕は元々ひとりでいることが好きなので無理に付き合う事はしない。

帰り道、コンビニへ寄って、札幌一番搾り500mlを2本とポテチとマミーマートのマミチキを買って、我が家へと帰った。そして、べっぴんさんに「ただいま」といい速攻、風呂を済ませた。

とりあえず、落ち着いたので帰りに買ったビールとつまみをひろげ、べっぴんさんを見ながら晩酌だ。  しかし、何故だろう?こんなにも植物に惹かれるのだろう?べっぴんさんをずっと見ていても飽きないのである。


― 殺風景なワンルームの部屋が一輪のアマリリスによってケンにとっては、いつの間にか、癒しの空間になっていた。しかし自然の法則で別れの時が来る事に寂しさを感じているのも確かである ―


数日がたったある日、生気を無くして花が萎んでいるべっぴんさんを見て僕は明日、処分しようと決めて眠りに就いた。

その夜、夢を見た。

いつもの公園の広い池で釣りをしているのだ。
鯉たちが沢山いるにもかかわらず匂いの強いネリエサを使っているのだが、ウキは何の反応も無い
鯉たちは全く餌に興味を示さないのだ。
おかしい、おかしい???と首を振りながらウキを見ていると、後ろから女性の声で「なかなか釣れないみたいですね!」と声がした。
振り返ると、赤い水玉模様のワンピースを着た綺麗な女性が笑顔で立っていた。
「うん」「おかしいだよね、エサに反応しないだ」
僕がそういうとその女性は、「貴方の考えが鯉たちに読まれているから絶対に釣る事は出来ませんよ」と言ってきた。僕は、「そんな馬鹿な、鯉たちに人間の気持ちが読めるはずが無いだろう」と僕は言い返した。心の中で、“この女、僕のことを冷やかしてるのか?” ムカついたが無視して僕はウキを注視していた。しかし、後に立たれると集中出来ないので、僕は女性に冷やかしならどっか別の場所に行ってもらえませんか?と言ったが、女性は
「もう少しだけここに居させて下さい」と言ったので「どうぞご勝手に僕には関わらないでね」と釘を刺して沈まない浮きを見ていた。

それからどれくらいたっただろうか、後の方から
僕を包みこむ様に心地よい風が吹いたと思ったら
女性の声で「いつも私をみてくれてありがとう」と声が聞こえて、とっさに後を振り返ったら
そこには誰もいなくて、心地よい風が通り過ぎた
感覚だけが残った。もしかしてあの女性は風の精霊? そう思ったとき目が覚めた。時計をみたら午前四時をまわっていた。

テーブルの萎んだべっぴんさんを見てハッとした
もしかして、あの女性はべっぴんさん?
最後に夢の中で会いに来てくれたのかな?そう思いながら夜が明けるまで夢に出て来た女性の事を考えていた。

夜が明けた。

今日は日曜日、仕事は休みだ。
朝食は休みの日の定番、ヨーグルトと卵焼きとベーコンをトーストに乗せたヤツ、それを食べながらべっぴんさんの処分の事を考えていた。

愛着心が湧いてきて、最初はチリ箱に投げるつもりだったが、しのびないので公園の桜の木の下にべっぴんさんを埋めて養分になってもらう事にした。来年は桜の花として戻って来て欲しい気もちでそうした。

『べっぴんさん 来年 会おうね』そう心で呟きながら公園を後にした。


         ― 終 ―




♦拙いものでしたが読んでいただきありがとうございます。自分なりにチャレンジして書きました。自分の実力を知るには良い機会でした。
気取らずに、楽しく書けたとは思います。
最後までお付き合いいただき感謝です🍀







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