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第十五話 岸のゲームが始まった。

岸は自室にこもりパソコンで過去のニュースを検索していた。なぜ今まであの子の事を忘れていたのだろうか?いや、忘れてはいなかった、無理に頭の片隅に追いやっていただけだ。


アーカイブで女性会社員が電車と接触し死亡したという記事がいくつか見つけることができた。どの記事にも被害女性の名前が記されておりそこにははっきりと「橘京子」と書かれていた。

僅かな期待を抱いてはいたが、京ちゃんは死んでいた。あの子が死んだというニュースを見るくらいなら後藤の奴が振られた事を誤魔化すための嘘であってくれた方が良かった。だが後藤の言うように京ちゃんは事故で死んでいた。それは間違いないようだ。京ちゃんの死が事実でないとしたらそれはそれで後藤に大きな問題があることになる。その点では少し安心できたが、あの子が死んだという事実を受け入れることはやはり辛かった。しかも後藤と京ちゃんの10年間を聞いた後ではなおさらだ。

更に記事を調べてみたが後藤が殺人容疑で逮捕されたという事実は見つからなかった。記事の一つに交際中の男性が事情聴取を受けたという一文があったくらいだ。だがそこにも後藤の名前はなかった。

後藤が嘘をついているとも思えなかったが、二人の関係がどうだったのかは知る由もない。後藤が京ちゃんを殺したという可能性も捨てきれない。あの後藤の様子は最愛の人を失った絶望からなのか、殺人を犯したことに対する苦悩なのか。それは岸には分からない。

一つ分かるのは、後藤は橘京子という一人の女性の死を受け入れることが出来ていないという事だ。

後藤の心の奥にあるものが失った故の絶望なのか、捨てた故の苦悩なのかは分からないが、どちらであったにせよそれは少しも癒されていないという事だ。後藤と京ちゃんの関係は彼女が死んだ瞬間に完全に止まってしまっているという事だ。

だが今の後藤は立派は殺人鬼だ。それどころか後藤は今やとらえた敵プレイヤーから情報を引き出すためにその身体を切り刻みもすれば、天井から釣るし文字通りの血だるまになるまで殴り殺すようなことまで厭わないようになっている。

もし、後藤が京ちゃんを殺していたとしても、それを未だに悔やみ立ち直れないような人間ではないはずだ。ではやはり京ちゃんは事故死だったのか?

いや、可能性はもう一つある、後藤以外の誰かに殺されたという可能性。

普通ならばそんな可能性は思い浮かばないだろうが、岸も昨日二人の息の根を止めたばかりだ。ならば他の殺人鬼、つまり何らかの理由で敵プレイヤーに京ちゃんが殺されたという可能性も否定できない。だが今は推測しかできない。

そして今、なにより心配なのは後藤の様子だ。京ちゃんの行方を知りたがったり笑みを浮かべて死んだことを伝えてきた。人形の顔にスマイルマークを描いたような後藤の表情。後藤のあの顔、プラスティックがついには腐り解け落ちるような顔は心のそこから恐ろしかった。

だが岸はそれについて後藤を責めることは出来ない。後藤が敵とはいえ、やらなければ自分が逆の立場になるとはいえ、人をあれほど残酷に拷問することを非難することは出来ない。後藤を最愛の人を失うこと以上に最悪な殺人ゲームに引きずり込んだのは他でもない岸自身であるからだ。


あの日。レモンイエローのスマホに後藤が表示された時、岸は後藤の元へと向かった。

その時までに岸は既に3人の襲撃者の命を奪っていた。望んだ殺人ではなかった。自分を殺しに来た襲撃者を返り討ちにしたに過ぎない。だがそれもくだらない言い訳だという事は理解している。

だが後藤は違った。命のやり取りをするプレイヤーではなかった。

今ではある程度、このイカれたゲームのルールを分かってはいるがその時はまだほとんど理解してはいなかった。その時に岸が理解していたのはこの狂ったゲームの存在を他の誰にも知られてはいけないという事だけだった。

画面に表示された後藤のステータスは「敵」ではなかった。つまり何らかの理由でこのゲームのボーナスとされた何も知らない一般人という事だ。



ゲームが始まった日だ。

岸は定時に退社しいつもと変りなく中野区にある中野通り沿いの自身のマンションに帰宅した。

一階のパン屋のオバサンがいつものように売れ残りのパンを岸に勧めてきた。正直、こう毎日パンを貰っても食べる気はしない。悪いですからと金を払おうとしてもオバサンは受け取ろうとしない。岸にしてみれば金を払いたいというより、こう毎日売れ残りのパンを俺で処分しようとするのは止めてくれと言う、タダでもいらないという意思表示だったのだがパン屋のオバサンには逆に礼儀正しい行為と映ったようで全く通用しなかった。売れ残りのパンは毎度おなじみの枝豆を練り込んだパンか、もうすっかり硬さの無くなったガーリックフランスパンか、元はサックリとした食感だったはずだがすでにしっとりとしているアップルカスタードのデニッシュだ。自分でハムやレタスを色々と挟んで趣向を変えられる食パンならまだありがたいのだが残念ながら食パンは大人気なようで岸の手元に来ることはない。

岸はマンションのロビーで郵便物を受け取りエレベーターに乗る。三階で降りると日課のように自宅の隣のインターホンを鳴らし受け取ったばかりのパンを渡す。

始めの頃は感謝してきた隣人も最近では「なんであんただけもらえるのよ」と貰って当たり前という風な表情でほとんど感謝の意もこもっていない「どうも」という言葉をよこす。もしかしたらこの隣人も(売れ残りなどいらない)と思っているのかもしれないが隣人は母と子供二人の三人家族だ、子供の明日のおやつくらいにはなるんだろう、今まで受け取らなかったことはない。

岸は軽く会釈を返し自宅へと戻った。

電灯を点け郵便物をソファーに投げ出すとスーツを脱ぎジーンズを履き部屋着へと着替える。ソファーに腰を下ろしテレビを点けた。

晩飯をどうするかとしばし迷う。カップ麺で済ませるか、冷凍炒飯でも温めるか。

岸はスマホを手にピザのデリバリーに電話をかけた。頼むメニューは「いつもの」で通用しそうなほど決まっている。

もちろんデリバリーピザ店のバイト相手にそんな横着が通用しないことは分かっている。Sサイズのペパロニピザにベーコン入りのシーザーサラダにフライドチキンとフライドポテトのセットを注文した。

「20分ほどでお届けします」

「お願いします」と答え電話を切る。

テレビに目を向けると相変わらずのクイズ番組だ。土日以外のこの時間は常にクイズ番組のような気がする。ものの数分でどうでもよくなり郵便物に目を向けた。

郵便物は小さな段ボール箱だったがいつも目にしているAtoZの箱ではなかった。どこで注文した何かは分からなかったが岸は開封してみた。

中にはレモンイエローのスマートフォンが入っていた。注文した覚えはない。間違えて自分のところに投函された荷物かと思い段ボール箱に貼られた宛先を確認したが住所も部屋番号も宛名も岸の物だった。

黄色のスマートフォンなど見たことはない。少なくともアップル社製のスマートフォンではないし、中韓製のスマートフォンでも黄色など覚えがない。所謂送り付け商法の類かと思ったが段ボール箱の中にはスマートフォンだけで請求書や振込先を示す紙きれ一つ入っていない。

レモンイエローのスマートフォンを手に取ると一般的なスマートフォンと同じように右側面にボタンがあったので押してみた。

スマートフォンは当然のように起動しパスワードの入力画面が表示された。

岸は自身が使うスマートフォンと同じように自然と右手の人差し指で背面の指紋認証に触れた。

レモンイエローのスマートフォンのロックが解除された。岸はまだ驚きはしなかった。指紋認証ではなく触れただけでロックが解除される様になっていたのだろうと思った。

だが起動したスマートフォンのホーム画面は岸の所有しているスマートフォンと全く同じものだった。スマートフォンの画面の向こうからシャンプーをかけ画面を磨こうとする水着の女性の待ち受け。画面に並ぶアイコンは岸が使うスマートフォンと全く同じものが並んでいた。

岸は驚きながら通話アイコンを押してみた。そこに表示されたアドレスのリストは岸の持つスマートフォンと全く同じものだった。勤め先や取引先に友人、自身のスマートフォンに登録されている全てを記憶しているわけではなかったがもう何年も連絡を取っていない古い友人のアドレスもちゃんと入っていた。

岸は少しだけ怯えながらもホーム画面を表示させた。そこには岸の持つスマートフォンとの違いが一つだけ見つけられた。

「東京サヴァイバー」というアイコンがあった。

それをタップするのは躊躇われた。

躊躇しているとスマホはスリープモードになり液晶画面は消灯した。岸はそのまま数分スマホを見つめてから左手の人差し指で背面の指紋認証に触れてみた。液晶画面が起動したが指紋は認証されないようだった。角度を変えて触れてみたがやはりロックは解除されなかった。他の指でも試してみたが同じだった。

恐る恐るもう一度右手の人差し指で触れるとスマホのロックは再び解除された。明らかに岸の指紋が登録されていた。メールの履歴をチェックしてみた。最後のメールは退社時に同僚に送ったメールだったはずだ。レモンイエローのスマホのメールアプリを起動するとそこには岸が自身のスマホでおくったメールと同じものが残っていた。

自身のスマホを少しの時間であっても紛失した覚えはない。なぜ全てのデータがコピーされているのか全く分からない。

この不気味なスマホを壁に投げつけてすっきりしたい気持ちが沸き上がったが岸とのスマートフォンの唯一の違い「東京サヴァイバー」とアイコンを調べてからにした方が良さそうだ。

岸はアイコンをタップした。

アプリが起動し画面に大きく東京サヴァイバーと表示された。画面中央には「スタート!」と表示されている。岸はそれをタップした。


ゲームは始まった。

いや、すでにゲームは始まっていたのだ。ここで岸がゲームを起動しようがしまいが岸は既にこの最高にイカれたゲームのプレイヤーの一人に加えられていたのだ。

もし岸が何も知らないままこのレモンイエローのスマホを投げ壊していたら、なにも分からぬまま他のプレイヤーに殺されてゲームオーバーを迎えていただろう。

幸いにも岸はゲームを起動した。そして簡単なチュートリアルを受けることが出来た。


キミには今日からこの東京で、殺し合いをしてもらいます!

クレジットを溜めてアイテムを買い、敵プレイヤーを察知してドンドン殺そう!

このゲームの事を誰かに知られたらゲームオーバー、警察に通報なんて以ての外!絶対秘密だよ!

三日間ログインをしないとゲームオーバー!つまりこの専用デバイスを紛失してもゲームオーバー、絶対になくしちゃダメだよ!

分かったらパスワードを設定しよう!このパスワードを知られたら全てを奪われてしまうよ、つまりゲームオーバー!よく考えて設定してね!

岸は促されるままにパスワードを設定した。九つの点をZの形になぞった。1235789と言ったところか。


岸はこの時はまだこのゲームが最悪の殺人ゲームだとは思っていなかった。

何かの宣伝の類ではないか?そう思うのが普通だろう。今日から人殺しになってくださいなどと言われて誰が「分かりました頑張ります」と思えるだろうか。

だが、自身のスマホのデータが全てコピーされている現実は、これが新しいスマホゲームの趣味の悪い宣伝だとも思えなかった。

チャイムが鳴った。ピザが到着した。

オンラインで支払いは済ませていたので、マンションのロビーの管理人室に渡すように伝え岸はピザを受けとりに部屋を出た。


ピザを手にしながら岸はこのスマホは何なのかを考え、このゲームはどういった冗談なのかを考えた。だが答えは出なかった。パソコンでこの不気味なスマホを調べてみたがレモンイエローのスマホなどほとんどなかったし、同じスマホは見つからなかった。

だがまだ岸は少しの恐れはあったものの、これはなにか質の悪いジョークの類だろうと思っていた。

だからレモンイエローの不気味なスマホは放置したまま、次の日も、そのまた次の日も普通に仕事に出かけた。

そして岸が定時に退社しビルを出ると道路の向こうの一人の男と目が合った。男は偶然だと言わんばかりに目をそらしたが明らかに岸を見ていた。

男はリュックを背負いニューヨークヤンキースのキャップを被り、サングラスをかけ黒い厚手のパーカーを着ていた。

それだけならば瞬の間に目があったくらいで気に留めたりもしないが今日その男を見たのは三回目だった。朝に駅で電車を待っている時に男を見かけた。その時はLAラムズのキャップを被っていた。

更に会社に着いたときはシカゴブルスのキャップを被っている男を見た。同一人物だとわかるのは三度とも黒いパーカーにリュックを背負いサングラスをかけていたからだ。この一千万の人が行きかう東京で黒いリュックに黒いパーカー、そしてサングラスをかけている男を一日に三度見ることは可能性としてはそれほど低くは無いだろう。しかし黒いリュックに黒いパーカーを着てサングラスをかけた三人の男が三人ともナイキのエアフォース1’07の白いシューズを履いていたら?ソールが水色なので見間違いようがない。

決め手は、岸に届けられた物と同じ不気味なレモンイエローのスマホを手にしていたのが見えたからだ。

岸はそれでもあの不気味なスマホにインストールされていたゲームが本当の殺人ゲームだとは思わなかった。だが間違ってもその男を追いかけて「その黄色いスマホ、俺のところにも届いたんだよ。データが丸々パクられてて怖いよな」なんて声をかけるつもりは全くなかった。

岸は恐怖し駅に向かい反対方向の電車に乗り帰宅することを避けとりあえず逃げた。男が追ってきているのが分かった。

最悪なのはこのゲームが現実であるという事だがまだ岸はそんな非現実なことを受け入れられるほど出来の悪い頭を持っていなかった。

最悪な事態はもう一つある。あの男がこの趣味の悪いおそらく違法であるゲームの宣伝方法を現実だと受け入れている可能性だ。

その可能性は残念ながら非常に高いだろう。朝から岸の動向を監視しているのだ。

警察に駆け込むか?一瞬その思いが頭をかすめた。だが今日、同じ男に三度会ったからと訴えて警察が何をしてくれるだろうか?無駄だろう。せめてあの岸のスマホのデータを全てコピーされている不気味なスマホがあれば・・・。いや、それも無理だろう。どうやって警察にあの黄色のスマホは数日前に届いたもので自分の物ではない、しかもデータが盗まれていたと証明できるのか。

それにあの男に自宅を知られるのはまずいだろう。もうすでに知っているかもしれないが。

だが岸が自宅にも戻らず警察に行くこともしなかったのはあのチュートリアルにあった「誰にも知られてはいけない」という一文だった。

岸は東京サヴァイバーと言うゲームの趣味の悪い宣伝だとも断言できないところがあった。自身のスマホのデータが盗まれていたからというわけではない。その方法は分からないがそれほど難しいことではないとも思える。

今時、スマホに一つのアプリもインストールしていないという人はいないだろう。そしてアプリをインストールするときに利用規約やプライバシーポリシーをきちんと確認する人は多くはないだろう。

だがその利用規約には「このアプリにはウィルスが仕込まれているかもしれず貴方のスマホを破壊する可能性、貴方のデータを違法に回収する可能性を否定できません」などと書かれていることもある。

だが多くの人はそういった利用規約も読まずにアプリに様々な権限を許可しているだろう。岸もそうだ。

とあるアプリの利用規約の一部に「これを読んだあなたは連絡をください、報酬を与えます」という一文がありその報酬が支払われたのはアプリの提供開始から数か月後だったという話もある。

悪意の下に作成されたアプリをインストールし、そうとは知らずに自身のスマホを他人に自由にさせて全てのデータを盗ませている可能性は否定できない。

だが全てのデータをコピーしたスマホを送る理由は分からない。多くの人々が利用規約を読まないことに対する悪趣味な啓蒙活動だろうか?

岸はその可能性はゼロではないだろうと思う。だがこのゲームが現実であるという可能性もゼロではないという考えも捨てきれなかったのだ。だから岸は逃げた。

気が付くと人通りのない閑静な住宅街にいた。どうやって来たのかは覚えていなかった。必死だった。

振り向くと交差点から男が現れた。街灯に照らされた男はサングラスをかけ黒いリュックに黒いパーカー、何かのキャップを被っていた。そしてエアフォース1’07。

あの男だ。岸は無我夢中で走って逃げた。

だが助けを呼ぶ声は出せなかった。ただ逃げた。只管に走った。自分がどこにいるのかも分からなかったが電柱に貼られた住所プレートである程度の推測は出来た。交差点に立ち四方を見渡したが男の姿はなかった。男をまけたのか?そう思った。

そして隣にトヨタのハイエースが止まった。運転席には短髪で白いシャツを着た運転手がいて小馬鹿にするように「何してんだ?こんなところでランニングか?」と声をかけてきた。

岸は「変質者に追われていて!」と後ろを振り向き交差点に指を向けた瞬間にハイエースの運転手は岸の後ろ首に手を伸ばし、触れた。

岸は首に激痛を感じ身体の自由が利かなくなり崩れ落ちた。運転手は車を降りるともう一度岸の首に触れた。岸は再び激痛に襲われ身体の自由はさらに失われた。運転手は岸を抱え上げ車に乗せると車を走らせ移動した。時折岸の首に触れ激痛を与えることを忘れなかった。岸は車内に放られていた黒いパーカーと黒いリュックを見た。そして男の履く靴は白に水色のソールのナイキのエアフォース1だったという事にも気が付いた。キャップとパーカーとサングラスが目立っていただけに白いシャツに短髪の男を別人だと思いこんでしまった。運転手の手が岸に伸び再び激痛が走った。

スタンガンだった。運転手はそれを度々押し付けてきて岸の自由を奪いながら車を走らせた。運転手に触れられるたびに岸には途轍もない痛みが与えられたがそれ以上に恐ろしいのは身体の自由が利かなくなることだった。岸は何一つ抵抗できずに運ばれた。

何度目だろうか分からなくなったところで運転手はまた岸の首にスタンガンを向けた。岸は激痛を恐れ慈悲を懇願しようとしたが言葉は出ず僅かなうめき声が出ただけだった。スタンガンが岸の首に触れた。だが激痛は走らなかった。岸は少し安堵したが運転手は、バッテリー切れかと言いスタンガンを放り、ここでいいだろと言い岸の首に手をかけた。

殺される!岸はそう思ったが身体の自由は効かない。運転手は岸の首に両手をかけ両の親指で岸の頸動脈を締めた。きちんと絞められていれば一分も持たずに岸は意識を失っていただろうが、頭を少し振り動かす僅かな抵抗でその時間を伸ばした。徐々に身体を動かせるようになってきた。腕が僅かに動かせた。だが首を絞める腕を振り払う事は不可能だろう、岸は首を絞める運転手の腕ではなく自身のポケットに手を伸ばした。

本当にやるのか?岸は自身に問いかけた。運転手は身体を揺らし抵抗する岸の首にかけた両手に体重をかけてきた。脳への血流が遮断された。

ダメだ。意識が遠のきかけた瞬間に岸はポケットから手を出し運転手のこめかみを叩いた。

「いてっ!」運転手は言ったがその両手の力は緩まなかった。

死ぬ、殺される。岸がそう思った瞬間に岸の腕の力は抜け落ちた。そして首を絞めつける運転手の力も緩んだ。

運転手は、なにー?と間の抜けた声を発し岸が叩いたこめかみに手を伸ばした。そしてそこにあった小さなプラスティックの棒を触り、なにこれ?と掴んだ。

掴んで少し動かしただけで運転手の身体は仰け反り奇声を発し倒れた。運転手は身体を痙攣させつつも起き上がろうとしていたがその痙攣が掴んだままのこめかみのプラスティックの棒に伝わると岸の上に倒れ込みさらに激しく身体を痙攣させた。そしてそのまま動かなくなった。

運転手は岸がこめかみに突き立てたマイナスドライバーを掴み自分で自分の脳内をかき混ぜて死んだ。


岸は東京サヴァイバーという殺人ゲームが現実で行われているとは思ってはいなかった。だが念のため、万が一の防衛策として小さな一本のドライバーを隠し持っていた。ナイフを持ち歩こうと思うほどこのゲームが現実であるとは思っていなかったが、手ぶらでいるほど不安を感じていないわけでもなかったからだ。


岸は覆いかぶさっていた運転手を跳ねのけ様子を見た。運転手は死んでいるようだった。

寝ているとか気絶しているのとは違う、全身から完全に力が抜け弛緩した様子で、瞼は仏像のように半開きで口もだらしなく開いていて左手はこめかみに突き刺さったドライバーを掴んだままだった。

ドライバーの刺さったこめかみから僅かな血が垂れている。ドライバーから男の手を離し回収するべきだろう。ドライバーには間違いなく岸の指紋が付いているだろうからだ。

だが岸はそれを抜くことが出来なかった。

俺は頭のイカれた狂人に襲われただけであり正当防衛なんだ、これを抜いて持ち去ることは証拠隠滅ととられるだろう。そう思った。

だが警察に通報することもできなかった。このゲームの「誰にも知られてはいけない」という警告が頭から離れなかったからだ。岸はドライバーを抜かずに逃げた。

逃げるのなら証拠を残さぬようにドライバーを抜いた方が良かっただろう。だが岸はドライバーをそのままにして逃げた。

岸は恐れた。ドライバーを抜いたらこめかみから血が噴き出しそうで怖かった。ドライバーを抜いたとたんにホラー映画のワンシーンのようにこめかみから勢いよく血が吹き出そうだったからだ。

吹き出す血は死だ。岸はまだどこかで何かの間違いでドライバーの先には何もついていなかったと思いたかった。もしかしたら運転手のこめかみにこのドライバーを叩きつける瞬間にドライバーの軸の部分が折れていたかもしれない。単にプラスティックの棒で運転手のこめかみを叩いただけだと思い込みたかった。

運転手はプラスティックの棒で勢いよくこめかみを叩かれて気絶して倒れただけだと思い込みたかったのだ。


いや違う。分かっている。運転手は死んでいる。何も見ていない半開きの目と力が一切感じられない身体を見れば気絶しているだけではないのが分かった。

岸が殺人の証拠になりえるドライバーを抜きとれなかったのは運転手に死をもたらした「それ」を隠し持っていくことが何よりも怖かったからだ。自分が殺人を犯したことを認めるのが恐ろしかったのだ。


岸は帰宅した。中野のマンションにいた。

居室に放り投げていたレモンイエローのスマートフォンを手に取り背面のセンサーに指を当てた。まだどこかでロックが解除されないことを、全て何かの偶然の産物だったと思い込みたかった。だが不気味なスマホはロックを岸の指紋認証で解除した。そして岸は東京サヴァイバーのアイコンをタップした。

まだ期待はあった。前と同じこと、人を殺せだの、見つかったらダメだとか言うだけだろう。そう思っていた。岸はパスワードを入力しゲームのロックを解除した。

あの運転手はこの趣味の悪いゲームの宣伝を真に受けた頭のおかしな男だったのだ。だからあれは正当防衛だ。ドライバーは抜かない方が良かったのだ。抜いて持ち去っていたら証拠隠滅と受け取られて岸の立場が悪くなるのだ。

だがスマートフォンに表示されたのは・・・

「ファーストキルおめでとう!特別ボーナスをゲットしたね!これでログインボーナスをもらえるようになったよ!まずはファーストキルボーナスを確認しよう!」

と表示されていた。

この不気味なスマートフォンは岸が人を殺したことを既に察知していた。

咄嗟に岸は周囲を見回した。だが当然ここには誰もいない。岸の住まうマンションの一室だ。

岸は、ボーナスを確認しようというスマートフォンをタップした。

そこに表示されたのは一人の男だった。キャップもサングラスも付けていないがあのハイエースの男だ。

「あなたは福田国男さんをキルしました!彼の半分と初キルボーナスをゲットしました!」

思わず岸はレモンイエローの不気味なスマホを壁に叩きつけたい衝動に駆られスマホを持つ手を振り上げた。

ダメだ。ダメだ!今は衝動的になってはダメだ。このゲームについて少しでも情報を集めるんだ。投げつけたら、終わりだ。壊すのはいつでもできる。今はダメだ。

岸は振り上げた腕を下ろした。怒りからか恐怖からか分からないが腕は震えていた。そして画面を見た。

「敵をキルした場合は必ずゲームデバイスを取り上げましょう、相手のゲームパスワードをゲットすると報酬が増えることも覚えておきましょう!」

岸は思わずスマホを持つ手に力が入った、握り潰さんほどに。だがそれくらいではスマートフォンは壊れなかった。

今頃警察は道路に止められたままの車と運転手の死体を見つけているだろう。そうなればすぐに岸の犯した殺人だと判明するのも時間の問題だ。

(今のうちに自首したほうがいい)そんな思いが頭をかすめていく。

「警察に通報なんて以ての外」ゲームの警告が頭の中に響いた。

ゲームオーバー。それが何を意味するのか?分かっている。ライフを一つ失うのだ。たった一つしかないライフを。

ゲームオーバー。それはたった一つしかないライフを失うという事だ。

ライフ。それは人生。人生を失う、つまりは死だ。


だが岸が自身で通報したわけではないとしても、今この瞬間にインターホンが鳴らされ「警察の者ですが」と言われたらどうなる?

このゲームは見逃してくれるだろうか?仮に見逃してくれたとしても法は岸を見逃さないだろう。このゲームに奪われるか、法によって取り上げられるか。いずれにしても岸の人生は失われるだろう。


岸は次の瞬間に鳴り響くかもしれないインターホンに怯え追い立てられるようにスマートフォンを操作し続けた。

キャップ男から奪ったとされるアイテムとクレジットの詳細が表示された。

どうでもいい!

次に表示された「ログインボーナスをもらおう!」をタップした。

どこかで見たようなスマホゲームのガチャシーンが流れ8つのアイコンが表示された。

どうでもいい!!

岸はスマホを操作し続けた。

「3キルまでは死体の処理は必要ないよ!でも4人目からはボディボックスやジュースボックスを使って自分で処理しよう!」

処理は必要ない?どういうことだ?このゲームの誰かが今あのキャップ男の死体を処理しているとでもいうのか?

『死にたくなければ、生き延びろ』

そうつまらないジョークが表示された後にゲームはそれ以降はアドバイスのようなものは表示されずステータス画面のような物を表示し続けるだけだった。

いわゆるチュートリアルは終わったようだ。

そしてこのゲームのヘルプのような項目は無かった。所持しているクレジットやアイテム、自身の現在のステータスなどの項目があるだけだった。

岸はインターホンがいつ鳴るのかを恐れながら各項目を確認していった。

ステータス画面にはまずKD1/0と表示されていた。「1」は福田とか言うキャップ男の事だろう。だが「0」は?

ふざけやがって!!

おそらくその「0」という数字が「1」になる瞬間を岸が目にすることは無いのだろう。

インターホンを振り返り見た。インターホンは静かだった。だが次の瞬間に鳴るかもしれない。そしてその液晶画面には警察官が映るかもしれない。

ここから、このマンションから出た方が、逃げた方が良いのだろうか?だが逃げてどうなる?警察がここに来るのなら素直に従い正当防衛を訴えた方が良いのではないか?頭のおかしな男に襲われたと訴えた方が良い気がする。

岸は急いで他の情報もチェックしていく。

「アイテム」の項目をタップした。「シールド」「アンチ」「サーチ」「ハック」などの項目があった。

クレジットは39528と表示されていた。もちろんそれが多いのか少ないのかは分からない。

「所持アイテム」とタップした。

13個のアイコンが表示された。岸は時折インターホンを振り返りながらそれを一つ一つ確認していったが意味は理解しかねた。

「購入」をタップした。

先の四つの「シールド」「アンチ」「サーチ」「ハック」項目のほかに「日用品」の項目がありポップアップが表示された。

『クレジットでアイテムを買って準備をしておこう!でも円もドルも使えないよ!敵を倒してクレジットを稼いでいこう!』

日用品?ハサミでも買えるって言うのか?

岸がそれをタップするとさらに細かなタブが表示された。

「食料品」「衣服」「雑貨」などだった。試しに「食料品」をタップした。

さらに「生鮮」「調味料」「デリバリー」などの項目が出てきた。

面倒なスマホゲームのようだ。岸は少しウンザリしながら「デリバリー」の項目をタップした。

さらに表示されたのは「ピザ」「寿司」「ファーストフード」などウーバーイーツをパクったかのような画面だった。岸は適当に「寿司」の項目を選びさらに表示された店舗も適当に選び一人前の握り寿司を注文した。

これで寿司が届くって言うのか?ここから得る物はなさそうだ。

クレジットが39508になっていた。

クレジットが減った?幾つ減った?正確には覚えていないが40000弱だったと思う。1と7の数字は無かった気がする。同じ数字もなかった気がする。

すると多くても数百クレジットで寿司が一人前食えるってことか。てことは一人殺して百人前の寿司が食えるってことか?随分優しいゲームだな。

もちろん、岸はこれで寿司が届くなんて思ってはいない。やっぱりこれは質の悪いゲーム宣伝だったんだ。

画面を戻し所持アイテムの「ハック(2)」の項目をタップしてみた。

画面は岸のマンションを中心にした3Dの透過図が表示された。岸は再び現実に、最悪の想定に引き戻されかけた。

スマートフォンに表示された透過図には無数の赤いタグが表示されていた。岸の自室から一番近いタグは隣室だった。岸はそれをタップした。

画面は暗くなり「ハッキング中・・・」という表示と共にいかにも読み込み中と言った風にクルクルとしたアニメーションが動き始めた。

10秒ほど読み込み中を装おう画面が続いた。

なにをハックするって言うんだ。岸がそう思った瞬間、画面には隣室のシングルマザーの母親が映った。

テレビ電話!?今時!?

「すいません!間違えました!」咄嗟に岸は謝罪し電話を切ろうとするが画面には見慣れている赤い電話の通話を終了する「切る」のマークは無かった。正直岸には何故この金正恩の髪形のようなマークが緑色で首を傾げていると「通話」で赤色で真面目にしていると「切る」なのかは分からなかったが今はそんなことを言っている場合ではない。

「スマホが勝手に・・」岸は言い訳を続けたが隣室のシングルマザーが岸に答えることはなかった。

「ママー!ごはーん!」シングルマザーの子供のクソ生意気な長男の声が聞こえた。エレベーターで一緒になった時に岸はこの長男に脛を蹴られたことがある。理由は分からない。そして母親も「ダメでしょ」と子供を叱っただけで岸に謝罪をすることもなく子供の腕を乱暴に引っ張り岸から遠ざけただけだった。

「ちょっと待って!もう終わるから!!」シングルマザーの声が聞こえた。

「ごはん!ごはーんー!!」クソ生意気な声が響いた。

チープな電子音が聞こえてきていた。おそらくシングルマザーは何かスマホゲームに熱中しているところなのだろう。

テレビ電話ではなかった。

「もしもし!」岸は少し大きめの声で言ったが向こうには届いていないようで、彼女のスマートフォンに岸のことが映っていることもないようだった。

岸はそのまま画面を見つめ続けていた。

クソガキの晩ご飯をねだる声と叱りつけるシングルマザーの声が何度か続いた後にその顔が曇りゲームオーバーと言った感じの音楽が聞こえ「もうちょっとだったのに!!」とシングルマザーのイラついた声が聞こえ、それ以降は隣室の天井が映し続けられた。おそらくシングルマザーがスマートフォンをテーブルに投げ出したのだろう。

岸はその後も自身の不気味なレモンイエローのスマートフォンを眺め続けた。一度画面が動いたが、食事のためにテーブルに投げ出されたスマートフォンを端に寄せた為だろう。

「また紙のハンバーグー?」

「いいから冷凍庫のパンを温めて!」

「みどりのパン嫌いー!」

「いいわよママが食べるから!リンゴのパンとフランスパンを二人で分けなさい」

岸は母子のやり取りを聞いていたが突然画面は真っ暗になり所持アイテムの画面に戻った。

「ハック」は2の表示が無なりただ「ハック」となっていた。

一個使ったという事なのか?

岸はもう一度「ハック」をタップした。再び透過図が表示された。

今度はマンション内部ではない移動しているタグをタップしてみた。

今度は男の顔が映った。知らない男だ、歳は30弱と言ったところか。ネクタイを締めたスーツ姿で時折画面が揺れた。ゲームをしている感じではない、スマホで漫画か何かを見ているんだろう、背景を見るに岸も利用している都バスの中のようだ。

「すいません」岸は声をかけてみた。反応は無かった。

「あの、もしもし?」もう一度声をかけてみたがやはり反応は無かった。

男は二度ほど横を向き、現在地を確認している様子を見せた。そして岸のスマートフォンは再び暗くなり「所持アイテム」の画面に戻った。

「ハック」が無くなっていた。


俺は・・・いやこのゲームは他人のスマホのカメラをハッキングしたのか?本当に?適当な映像を流した可能性は?もちろんある。

だが隣室のシングルマザーの映像はどう説明できる?可能性としては彼女はスマホのセキュリティーに対して恐ろしいほどに無頓着で誰でもアクセスできるようになっていたから。バスの男の映像は実際の映像かどうかはわからない、ネットのどこかに転がっていた映像かもしれない。

岸が何とかこれはくだらないスマホゲームの悪質な広告であるという可能性を必死に考えていた時にインターフォンが鳴った。

岸はゆっくりと振り返った。

来たんだ・・。やはりこれは悪質なイタズラだったんだ。俺は人を殺した。その報いを受けなければならないんだ。岸が動けずにいるともう一度インターフォンが鳴った。

諦めろよ。インターフォンがそう訴えている。

岸はゆっくりとインターフォンへと向かった。二人、いや三人はいるだろう。何しろ殺人犯を捕まえに来たんだ。

岸はインターフォンを見た。水色の制服を着て制帽を被った警官がこちらを睨んでいるはずだ。

だがそこにいたのはいつものマンションの管理人だった。

「寿司来てるよ」管理人はぶっきらぼうにそう言った。

そうか、インターフォンに警官が映ったら逃げられるからか。寿司を取りに降りた来たところを捕まえるという事か。

「今行きます」岸は全てをあきらめて答えた。終わりだ。俺は殺人犯だ。正当防衛になるだろうか?あいつはスタンガンを持っていたんだ。そして首を絞められた、仕方がなかった・・。

ふむ、君は不審者に襲われたって言うのか?だがなんでドライバーを持っていたんだ?君は工員ではないだろう?殺すため準備じゃないのか?

違う!あいつに朝から付け回されていたんだ!

ドライバーはやはり抜いて持ち去るべきだったのか?いや、無駄だ。今時町中に監視カメラが付いているんだ、車から逃げる俺がどれかに映っているはずだ。それならあの運転手が俺を付け回していたのも映っているはずだ・・・。

・・・・。

いや、違う。

寿司はレモンイエローのスマホから頼んだ。だがこれは疑問にはならない。すでに俺のデータを全て盗んでいるんだ、デリバリーのピザもハンバーガーも頼むときはクレジットカードを紐つけてある。ゲームのクレジットで買ったように装ってクレジットカードから抜いているんだろう。

・・・。

そうか、そういう事か。油断させているわけか。

岸はオレンジ色のジャンプスーツを着ている自分を想像した。いや、あれはアメリカの刑務所か・・・。

ドアをぶち破る間に俺が逃げるか飛び降りることを警戒しているんだ。

岸は玄関のドアをゆっくりと開けた。

その瞬間に数人の警官が突撃してきて岸を殴り蹴り投げ飛ばし後ろ手に手錠をかけ「容疑者確保!!」と叫び、同じ階の住人が驚いて顔を出して廊下に組み伏せられ手錠で拘束された岸を蔑む様な目を向け隣室のシングルマザーはテレビのインタビューに「一人者で陰気な感じだったし人を殺しても不思議じゃないと思っていた」などと言い、パン屋のオバサンは「いつもパンを上げていたんですよ」とか言うんだろう。

だが何も起こらなかった。

岸はしばし呆然と立ち尽くしてから外に出た。そこには誰もいなかった。薄暗い通路があるだけだった。

そうだ、ドアをぶち破る必要なんてない。管理人室には合鍵があるはずだ。

ではなぜ警官は一階で待ち構えているんだ?ここは三階だ。少しの紐かロープがあればベランダから簡単に逃げられる。

岸は今からでもベランダから逃げることは出来る。だが岸はエレベーターを使い一階に下りた。

エレベーターが開いた。岸は最悪の事態を想定していたがやはりそこにも誰もいなかった。だがまだ希望はある。

岸は管理人室へと歩み寄った。寿司などないんだ。あるわけがない。

岸は管理人室のガラス戸をノックした。

管理人の年寄りがガラス戸を開けて舌打ちしながら寿司桶を出し「寿司来てるぞ」ぶっきらぼうに言った。

「十兵衛の寿司なんて良いご身分だな」

年寄りは、若造のくせに何が寿司だ早く持って行けよと言った様子でカウンターに押し出した寿司桶を顎で指示した。

これを手にしたらその瞬間に俺の人生は終わる。組み伏せられ気が付けば警察署の取調室だ。この寿司は口にできないがカツ丼は食えるかもしれない。

岸はそう思ったが管理人の年寄りはまた舌打ちをして乱暴にガラス戸を閉めた。

寿司桶と岸が取り残された。何かがおかしい。早く捕まえてくれ。

管理人室の年寄りがもう一度ガラス戸を開けた。

「いらねえなら俺が食ってやってもいいぞ」

「いえ」岸は意を決して寿司桶を手に取った。何も起きなかった。岸は寿司桶を手にエレベーターに乗り自室に戻った。

希望は無かった。

岸は寿司を食いながら思った。


この殺人ゲームは現実なんだ。


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