明けない夜はない。ただ夜が来ないことはある。

数年前、階下の住人がベースを練習していた。
うちは壁が薄いので横だろうと下だろうと音が聞こえる。
多少うるさいとは思ったが我慢できない程でもない。
特に気にせず過ごしていたが、あるとき練習している曲が
BEN E.KINGの「STAND BY ME」と気づいた。
そこで音が漏れていることを嫌味のなく伝える方法を考えたところ
歌い出しである「WHEN THE NIGHT」を窓を開けて大きな声で被せることを思いついた。
これなら音が聞こえていること気づくし寄り添ってる感が出るに違いない。
ただ、しばらく聞いていると歌い出しの手前ぐらいで
一回止まりまた初めからを繰り返しており一向に
「WHEN THE NIGHT」が被せられない。
1時間程待ってはみたが、残念ながらその日は無理だった。
翌る日また練習が始まったので私はスタンバッていたがその日も私の出番はなかった。
そんなことが何回か続いた後、階下の住人はベースを弾かなくなってしまった。
結局「WHEN THE NIGHT」だけが残ってしまった。
いつか使うときを夢見て今も桐の箱にしまってある。
果たして使う時は来るのだろうか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?