連続テレビ短編ドラマ「峯山みどり」=節約の最前線=
「Office Efficiency Master "Midori Mineyama"」
峯山みどり、27歳、独身。中堅不動産会社の経理担当事務員として新卒から勤務。いつの間にやら、オフィスではなくてはならない存在へと成長しています。
彼女のデスクは、いつも整理整頓されています。帰宅時には、次の日の準備が整っていて、出勤時の準備も手早く、仕事の開始からスムーズです。
みどりさんのデスクには「Priority Initiative Command Centre」PICCと呼ばれるスペースがあります。そこは普段デッドスペースのように見えますが、課長や時には部長が「峯山君、これ大至急で頼めるか?」と言って、急ぎ仕事の書類を差し込むための場所です。これがみどりさんの評価を高くしています。部長や課長には「峯山君にはいつも助けられている」という心理的負担がかかり、みどりさんを高く評価したり、ひいきしたりします。これは「返報性の原理」と呼ばれるもので、「親近感バイアス」のようなえこひいきではありません。ですから、その評価を同僚たちも認めざるを得ません。
”返報性の原理”
人は他者から事物を受け取った時に、(お礼など)事物を返さなければいけないという心理状態になります。これを「返報性の原理」といいます。
WinWinの関係とか、お互い様とか、ギブアンドテイクなどの表現に類するものです。相手にそういった意識を持たせる最も効果的な方法は、まず自分から率先して恩を売るのが王道です。
みどりさんのPICCは、まさに恩の押し売りスペース。もはや、部長や課長はその術中にはまっているのです。
最初は無理な仕事をおしつけられたりもしましたが、「返報性の原理」によって、徐々に「無理な仕事を押し付けるのも悪いよな」となり、今やPICCは必要最低限にしか使われません。であるにも関わらず、PICCの存在は、経理課の中で珠玉の輝きを放っています。
佐々木は、みどりさんのデスクを見て、自分のデスクの雑然さに唖然としました。今更遅い、という話ですが、気づいただけえらいです。ほめてあげます。
「みどりさん、デスクの整理法を教えてください。」
佐々木は、わざわざ席を立って、みどりさんに深く頭を下げました。みどりさんはとても驚きましたが、佐々木にその方法を伝授することにしました。
「佐々木さん、これは普通の話で、何か特別な事でもないし、難しい事でもないんですよ。ようは”やる”か”やらないか”だけなんです。」
と前置きをして、
5分ルール:峯山さんは毎日始業前の5分間を使ってデスク周辺の整理を行います。無秩序な状況が作業の効率を低下させると考えているので、必要なものだけをデスクに残し、それ以外のものは適切な場所に保管します。
必要なものだけ:峯山さんのデスクには必要なものだけが置かれています。それはPC、必要な文房具、手元に置いておきたい参考書や書類などです。余計なものはデスクの引き出しやファイルキャビネットに収納します。
書類の分類:峯山さんはすべての書類を詳細に分類し、それぞれをラベル付きのフォルダーに保管します。それにより必要な時にすぐに書類を見つけることができます。
デジタル化:紙の書類が多くなるとデスクが乱雑になりがちなので、峯山さんはできる限り書類をデジタル化します。スキャンして電子ファイルに変換し、それらをクラウドストレージサービスに保存します。
週末の大掃除:週の終わりには、峯山さんは大掃除の時間を設け、デスクの上を一掃します。すべてのものを一旦取り除き、デスクをきれいに拭き、必要なものだけを元に戻します。
という原則を教えました。佐々木はメモを取りながら、みどりさんの言うことを聞き漏らすまいと真剣に耳を傾けました。
その説明をしている途中で、ふと佐々木と目が合いました。みどりさんは、その時、心臓がドキンと強く脈打つのを感じました。もしかして、その鼓動が虫以下・・・いや、佐々木・・いや、謙太さんに聞こえたのではないかとはらはらしました。
そんなはことは、あるわけがないのですけどね。
「僕もPICCを作ってみます」
「最初はとても辛いですよ。おかれた仕事をこなせないと厳しい評価をうけることになります。強い覚悟が必要なんですよ。」
「そうですね。でも、僕も頑張ってみたいんです。」
佐々木は、いや、謙太さんは、オフィスの天井を見上げ虚空に誓うのです。
「俺は経理課王になる!」