アーバン・エスピオナージ:第12話 - 忠誠の影
アーバン・エスピオナージ:第12話 - 忠誠の影
メキシコシティの夜空に、ネオンの光が瀕死の星のように明滅していた。刑事のデイビッド・サンチェスは無標識のパトカーに寄りかかり、湿った夜気に冷たく感じる金属の感触を背中に、暗い目で喧噪の街路を見渡していた。深夜の酔狂な群衆と怪しげな人影が織りなす混沌のタペストリーは、彼の過去を否応なく思い起こさせた。
「17班、こちら指令室」無線が静寂を破った。「ドゥランゴ通りで187。カルテル絡みの可能性あり」
デイビッドは顎を引き締めた。カルテル関連の殺人事件は、警官としての義務と闇社会とのつながりの間で綱渡りをするようなものだった。「了解」彼は応答し、運転席に滑り込んだ。メキシコシティの迷宮のような街路を縫うように走らせながら、街はずれのスラムで過ごした幼少期の記憶が押し寄せてきた。
貧困から彼を拾い上げ、完璧なエージェントに仕立て上げた李・ミンジュンの声が、今も耳に残っていた。「忘れるなよ、デイビッド」とリーは言った。アジア人特有の無表情な顔つきながら、その目は激しい熱意を湛えていた。「正義への忠誠こそがお前の力だ。それを賢く使うんだ」
現場は凄惨な暴力の光景だった。犠牲者の体は、捨てられた操り人形のように歩道に横たわっていた。デイビッドの訓練された目が、すべての詳細を捉えていく。銃創の正確な角度、防御創がないこと、プロの仕業を示す微妙な痕跡。
「どんな状況だ、ラミレス?」デイビッドは相棒に尋ねた。ラミレスは、いつも無精髭を生やした頑丈な体つきのベテラン刑事だった。
ラミレスは厳しい表情で首を振った。「被害者はミゲル・コルテス。シナロア・カルテルの中堅の配給人らしい。街の噂じゃ、ピンハネしてたとか」
デイビッドの頭の中で考えが駆け巡った。彼は被害者を知っていた。リーの秘密の集まりで一度、酒を酌み交わしたこともあった。パズルのピースが嵌まり始め、胃に冷たい恐怖が沈殿していく。
現場を調べ、目撃者に聞き込みをしている最中、デイビッドの携帯が震えた。発信者不明の番号からのシンプルなメッセージ。「屋上。今すぐ」彼は手がかりを確認してくると言い訳し、ラミレスから離れた。
屋上は影に覆われていたが、デイビッドの鋭い感覚は誰かの気配を感じ取っていた。「社交的な呼び出しじゃないようだな」彼は闇に向かって言った。
李・ミンジュンが姿を現した。彼の仕立ての良いスーツは、粗野な周囲の景色と際立つコントラストを成していた。「その通りだ、わが息子よ。ミゲルの不幸な死を調査しているそうだな」
デイビッドは思わず拳を握りしめた。「君が暗殺を命じたのか?」
リーの笑いは冷たく、ぎこちなかった。「いつもそう直接的だな。いいや、デイビッド、私じゃない。だが、誰がやったのか、そしてなぜかは知っている。問題は、その情報をお前がどう使うかだ」
デイビッドの胸に下がる警察バッジの重みが倍増したように感じられた。まるで告発するかのように胸に食い込む。これこそが、リーが何年も前から彼を準備させてきた試練だった―正義と忠誠が衝突する瞬間。
「俺は自分の仕事をする」デイビッドは言った。内なる葛藤にもかかわらず、その声は揺るがなかった。「殺人者を見つけ出し、裁きにかける。そのために君は俺を訓練したんじゃないのか?」
リーの笑みは謎めいていた。「その通りだ。だが覚えておけ、デイビッド。我々の世界では、正義は多くの顔を持つ。賢明に選べ」
リーが再び影に溶けていくと、デイビッドは屋上に一人取り残された。眼下に広がる街は、広大で輝く巨大なチェス盤のようだった。彼は駒であり、同時にプレイヤーでもあった。二つの世界の狭間に立つ男、一歩進むごとに躓く可能性を秘めて。
深く息を吐き出し、彼は現場へと戻っていった。夜はまだ若く、メキシコシティの影は多くの秘密を隠していた。しかしデイビッド・サンチェスは、どんな代償を払っても、その暗い隅々まで光を当てる決意を固めていた。
ミゲル・コルテスの事件は始まったばかりだった。そして、それと共に、デイビッドの足下で流砂のように揺れ動く正義を追い求める、彼の果てしない戦いの新たな章が幕を開けたのだった。ラミレスのもとに戻りながら、彼の頭の中ではすでに次の一手が描かれていた。この都市スパイ活動という危険なゲームの中で。