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「深夜の薬局:小さな奇跡の起こる場所」高橋美咲の選択高橋美咲の選択

高橋美咲の選択



美咲は薬局のカウンターに立ち、目の前にある処方箋をスキャンしていた。壁にかかる時計の針は11時45分を指していた。深夜の薬局は静かで、時折、通路を歩く客の足音だけが聞こえてくる。

「なんでこんな時間に?」同僚の佐々木一郎が突然、静寂を破って尋ねた。

美咲は顔を上げて、佐々木の目をしっかりと見つめた。「それは、少し複雑なの」と彼女は言い出したが、言葉を濁した。「この静けさが私に安心感を与えてくれるの。考える時間も、思い出す時間もできるから。」

「思い出すって、何を?」佐々木はさらに探るように尋ねた。美咲の言葉には何か他にもあると感じたからだ。

美咲は深いため息を一つついた。その目には遠くを見つめるような霞がかかっていた。「私、大切な人を失くしたの。夜遅くに起きた事故で。その時、私は普通の薬局で働いていて、朝まで気づけなかったの。彼の最期にそばにいてあげられなかったのよ。」

佐々木の目は驚きで広がった。「ごめん、知らなかったとはいえ。」

美咲は微笑んだが、その目には一瞬、悲しみがちらついた。「大丈夫。この深夜の時間に働くことで、その失った時間を何らかの形で取り戻しているような気がするの。」

店のドアのチャイムが鳴り、明らかに動揺している若い女性が店に入ってきた。美咲の目と彼女の目が合った瞬間、美咲は自分がいるべき場所にいると確信した。

「すみません、」若い女性は言葉に詰まりながらも尋ねた。「すごく頭痛がして、何か薬を買いたいんです。助けてもらえますか?」

「もちろん、」美咲は即答した。その瞬間、彼女のプロフェッショナルな姿勢が戻ってきた。「お任せください。」

薬を選ぶ間、美咲は一つの目的に満ちた感覚に包まれた。深夜の静けさ、その孤独感、すべてが今、意味を持っていた。美咲はここで、一つ一つの小さな奇跡を起こすために存在していたのだ。