見出し画像

連続テレビ短編ドラマ「峯山みどり2」=節約は愛と共に=

「一夜の記憶と節約の心」

ふわふわと気持ちが浮ついたまま、ホテルをチェックアウトした。ただ、淡々とすべきことをして。

ホテルを出ると謙太は「じゃ、また」といって、一目散に走っていった。

(じゃ、またって何よ。それが今朝にふさわしい挨拶なの?)

それを見送ったみどりさんも、謙太の後を追う方向に帰るのだった。みどりさんには何もかもが混乱の極みになっている。

「足が延ばせる」

いい雰囲気になって、思わず唇を重ねた。そこまでは覚えている。イヤではなかった。心地よい位。むしろ積極的に私から仕掛けたかもしれない。それは別にいい。子供じゃなあるまいし。

みどりさんは、その後が思い出せない。謙太の仕事の成功に、ついうれしくなって飲んでしまった。記憶をなくすほど飲むなんて初めてだった。

覚えてない。あの後どうなったのか、まるで覚えてない。大事な事なのに。これからどうやって・・・

悩む時間はたくさんある。今日から有給休暇で8日間休むのだ。スケジュールは空白。空白にしておいてよかった。旅行なんて無理無理。この気持ちのままじゃ何も手につかない。

家の玄関の前でアヤさんに出会ってしまった。一番合いたくない相手かも。

「あら、朝帰り?」

「仕事で」

「うそよ。顔に書いてあるもの。お酒・・・ううん、男って。」

「遅くなってビジネスに泊まっただけですよ。やだなぁ、アヤさんったら」

玄関を入ってすぐに鏡の前に立ってみた。顔に書いてあるの?本当に?まさか、首筋とか唇?

風呂に入っている。そう気が付いた。大きな足の延ばせる湯舟だった。あ、一人で入ったわ。少しづつ記憶がよみがえる。

素敵な部屋だった。夜景のきれいなところへ行こう。謙太さんはそういっていた。でも、夜景につられたんじゃない。謙太さんと一緒に痛かった。そう私は、謙太さんと一緒にいたかったんだ。

ツインの部屋が無くて、ダブルの部屋だった。僕はソファーで寝るからって。そうよね。ホテルまできて遅くなる前に帰るとかならないわよね。でも、ベッドで横になってるの?寝息まで立ててるじゃない。そう、あの時、私は怒っていた。私がソファーとかありえないし。

どうしたの?私。これじゃ、私からって事になっちゃうじゃない。

そこからまた記憶は霧の中へ溶けていった。

ホテルのアメニティをカバンから取り出し、日用品置きの引き出しへ。

「こういうときまで、節約してるの?」

みどりさんは、そんな自分に嫌気がさす。

< エレガンス・レグストレッチ・タワー>

「足が延ばせる浴槽が自慢?それに変な名前ね・・・・」

アメニティバッグのホテルのロゴが、みどりさんの目には、やけに安っぽく映った。