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「消えゆく音楽」 時々ショートホラー

音楽家の横山は、自宅のスタジオで新曲の作成に没頭していた。彼の指は鍵盤を軽やかに滑り、心の中では旋律が次々と生まれていた。しかし、その楽譜には奇妙な記号がちりばめられていた。横山はその記号に目を凝らし、心の中で疑問を抱いた。「これは一体、何なんだろう?」

横山は好奇心からその記号をピアノで演奏してみた。すると、部屋中に美しいが何とも言えない不気味な音楽が広がった。彼の心は一瞬でその音楽に吸い込まれ、自我が霞むような感覚に陥った。そして、突然、音楽が止まり、横山は自分が何をしていたのか思い出せなくなった。

次第に横山は気づいた。その音楽は彼の記憶を奪っていく。最初は些細なことだったが、次第に大切な人々の顔や名前まで消えていった。横山は恐怖で全身が震え、最後の力を振り絞ってピアノの蓋を閉じた。「これ以上、何も失いたくない。」

しかし、横山がピアノの蓋を閉じたその瞬間、彼自身が消えてなくなった。部屋にはただ、奇妙な記号が書かれた楽譜と、静まり返ったピアノが残されていた。そして、その楽譜は次の演奏者を待つかのように、静かにその存在を主張していた。