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保育園の先生

ふと思い出した、保育園の先生のこと。

お菓子屋さんで働いていた時、「ユキちゃんのお知り合いの方がきてるよ」とスタッフに言われ、ハテナの顔して表に出た。
そこには知らない小さいお婆さんがいた。

「ユキちゃん!!覚えてるー??」

小さいお婆さんの、その尖った鼻。特徴的な面影をみて、私は瞬時に分かった。

(チラシを細く巻いた剣を作ってくれなかったあの意地悪ババアだ!!!)

あの時の光景が蘇った。


当時、園内ではチラシで作った細い剣が流行のおもちゃだった。
チラシを細く巻くのは子供にとって技術がいるもの。流行に乗せられた私も、チラシを細く巻くのを頑張ったが、どうしても太く巻くことしか出来なかった。(太い剣はすぐ折れやすいので弱い剣なのだ)

気がつくと何やら騒がしく、教室には長蛇の列が出来ていた。
その先にはあの先生がいて、各々が持ってきたチラシを魔法のようにクルクルと、細長い剣に変えて贈呈していた。

早速遊ぶ子の剣は、見たこともないくらい細く、頑丈だった。

私も欲しい。迷わず行列に並んだ。
やっと、やっと自分の番が来た時、あの先生は言った。

「あなたは自分でできるでしょッ」

ピシャリと放った意外な言葉に私は思わず後退りし、結局細い剣を手に入れることは出来なかった。
初めての理不尽。なんでそんなこと言うんだろう。絶対忘れてやらないからな…と唯一嫌いな先生に認定された。



と、改めて、ここまでのシーンが走馬灯のように流れ、目の前にいる小さいお婆さんがあの先生ということがわかった。
まさかここまで記憶が残っているとは我ながら驚きだったが、この記憶は20数年も前のこと。
もはや懐かしさとわざわざ来てくれた嬉しさが勝ってしまい、

「うわー!〇〇先生!!(名前まで)覚えてますよ!!」と、盛り上がった。

店を紹介している番組を観て来たとのことだった。
あの先生はとても嬉しそうな顔をして帰って行った。
小さい背中に時の流れを感じて、ちょっと目頭が熱くなったが、本人はまさか別の意味で覚えられていたとは思わなかっただろう。

もしかしたらあの日の先生は、行列が予想より出来すぎてうんざりしていたのかもしれない。
行列のできる店で働いている自分の現状と重ねて考えてしまった。

その夜、チラシで細い剣を作ってみた。

なんかめでたい紅白の剣になった

私はもう細く巻ける人間になっていた。
でも、先生のほうがもっと細く巻けていた気がする。

やっぱりあの時、もう一度並んで巻いて貰えば良かったな。

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