#9 初めての一人旅@岐阜(8月エッセイ①)

ある日スマホで調べ物をしていると、恵那市というところで有名演技指導者のレッスンが受けられるという情報が目に飛び込んできた。若干、恵那市ってどこだっけという疑問を頂きつつも、まぁ都内のどこかだろうという謎の自信を胸に、私はそんな機会はない!と意気込みすぐに申し込んだ。数日後、演技レッスンの詳細が書かれたメールが届き、ドキドキで目を通すと、

開催場所:岐阜県恵那市 市民ホール

なつみちゃん24歳1か月、
はじめてのひとりたびの始まりである。

東京にいるくせに、市区町村を全く理解していない常識のなさを露呈させながらも、人生の目標の1つとして47都道府県制覇(日本全国に足を踏み入れる)を掲げる私は、知らず知らずのうちに確定していた一人旅に多少ビビりながらも、未開の地「岐阜」を獲得するいい機会だと、高速バスの座席を予約した。

演技レッスン自体は、ほぼ丸1日なのでせっかくならばと前乗りして観光することにした。とはいっても、当日出発する高速バスなので朝6時頃に新宿バスタを出て、12時過ぎに岐阜県恵那市につくので半日観光である。夏!大自然!を感じられる魅力的な場所は、たくさんあったが、どこも車で行くことを推進されている。
「車かぁ、、まぁいけなくはないけど」と多少心の中で誰かへの見栄を張ったが、実は免許を取得してから約2年でたった2回しか運転したことがない。つまり、私の運転免許証は、ただの身分を証明する固めのカードと化しているため、大人しく恵那からバスで行ける棚田を見に行くことにした。以前、原田マハさんの「生きるぼくら」を読んでから米作りに対して異常に尊敬の念と憧れを持っていたので、棚田もいつか見に行きたいと考えていた。

待ちまった出発当日、早朝のバスタ新宿で「いちばんすきな花」というドラマで精神安定パンと呼ばれていたチョコチップスティックパンを旅のお供に購入し、かなり胸は高鳴っていた。「だ~れにもな~いしょで~♪」という挿入歌を脳内にながしながらバスに乗り込む。乗車時間は、約6時間。本を読んだり映画を見たり、有意義に過ごすぞ~と意気込んでいたが、ラジオを聴きながら、窓の外を眺めてみると、ビルが立ち並ぶ都会から緑あふれる田舎へ変わりゆく風景に目と心を奪われてしまい、案外あっという間についてしまった。かっこよく言ったが、本当はちょっとだけ寝ちゃった。

恵那市についた。まずは、腹ごしらえということで地元のソールフード「五平餅」のお店に向かった。一目で目的の店と分かったが、未踏の地で1人でお店に入ることに緊張していたので、一回通りすぎてみた。意を決して入ると、まだお客さんの姿はなく、甘辛いタレのいい匂いをぷんぷんさせながら餅を焼くおじさんと優しい笑顔のおばさんが「どうぞ~」と迎えてくれた。なんか知らんけどめっちゃ一人旅の始まりっぽくてテンションが上がる。

民芸調の店内の壁には、素敵な絵葉書がたくさん飾られていた。2025年の年賀状は、絵葉書にしよーっと!とワクワクなアイデアお土産を手に入れたところで、優しいおばさんが注文を聞きにきてくれた。ぶっちゃけ、高速バスの旅の醍醐味である「サービスエリア」で、降りるたびに、桃のスムージー、栗大福、チーズかまぼこ、さらに旅のお供にと買ったチョコチップパンを全て平らげていたため、かなり胃のキャパが迫っていた。
ご当地ものを食べる前にお腹いっぱいという最大のミスを犯していた。

五平餅と新商品らしい五平餅のたれがかかったアイスを頼んだ。

私が注文を終えると、常連らしき3名(夫婦と奥さんの友達?)が店内へ入ってきた。慣れた感じで五平餅と新商品のアイスを人数分頼んでいた。
3名の注文を取り終え、一度調理場の方へ帰ったおばさんが、すぐに帰ってきた。
すると「ごめんなさい。もうアイス売り切れちゃてたのよ、、」「あー全然大丈夫!大丈夫!笑」という声が聞こえた。

私は、息を呑んだ。
アイスのラスト一個を頼んだのは、紛れもない横で一人旅に浸っている日焼け気味の女。私だ。
常連さんは、まだ気づいていないが、私が五平餅を平らげると、私の元へ「ラストアイス」が届けられることになっているのだ。すると、常連さんからして「あー、あれが最後だったんねー」となることは目に見えている。

これは究極の2択だ。
これは早いもの順なのでこっちに落ち度はないし、気を使う必要はない。この世は弱肉強食なんだ!!と開き直って堂々とアイスを食べるか、
なにわ男子の大橋くんのような優しさとコミュニケーション能力を発揮し、断られるだろうがそんなことはどうでもよくて、「え、ごめんなさい!みなさん食べてください!」とか「みなさんもよかったらどうですか?」って言ってスプーンを分けて食べる提案をするか。
どっちだ!どっちだ!!(ザワザワ、ザワザワ)と私の中のカイジが疼きだした。

悩んだ末、結局私は、「本に夢中でなーにも気づいてない女」になりきった。幸いにも私は、常連さんが入ってくる前から本を読んで餅が来るのを待っていたから別に不自然ではないし、さらに、その本の著者は、朝井リョウ。
そう、岐阜県出身だ。
勝った。
自分の地元の著名人の本を読んでいたら、もうオールオッケーだろうという謎の自信を胸に、アイスを完食した。

店を出るとき、おばさんが「アイス美味しかった?今日は暑いから気をつけてね」と言ってくれた。その時、ああ、やっぱ旅の醍醐味は、人との交流だよな、、と痛感した。もうアイスの一件で、脳内でカイジ劇場が行われたことなどすっかり忘れていた私は、全力で「美味しかったです!ありがとうございます!!また来ます!!」と返事をした。

店を出てから、私に大橋くんのようなコミュ力があれば、おばさんとも常連さんとももっといろんな話をして、素敵な思い出が作れたのではないかとハッとした。でも仕方ない。
私はまだ1人で深夜の高速バスに乗った時、座席を倒していいか後ろの人に聞くか、そのままの体制で眠りにつくかを天秤にかけると後者を選んでしまう程度のコミュ力しか持ち合わせていないのだ、、(しょげないでよベイベ〜🎵である)
自分を謎に肯定しながら棚田へ向かうのだった。

しかし、私は今回の岐阜の旅で、人との出会いに命を救われることになる。エッセイ②に続く。



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