窒化ガリウム(GaN)の物性メモ
GaNの物性についてさっくり書いています。
こちらのnoteの続きのような内容です。
一部、量子力学的なお話も書いています。
GaNの結晶構造
窒化ガリウム(Gallium nitride)は13族元素のガリウムと15族元素の窒素が、周期的に正四面構造で結合した化合物半導体です。海岸にある消波ブロック(テトラポット)が規則正しく並んだような形状をしています。
正四面構造の配置の仕方によって、閃亜鉛鉱型(zinc blend)とウルツ鉱型(wurtzite)という二つの結晶構造があります。閃亜鉛鉱型の結晶構造はダイアモンド構造と同一ですが、原子はGaとNが交互に配置します。ウルツ鉱型は六方晶系と言われる結晶構造を二つずらして並べたような形をしています。
ウルツ鉱型の方がエネルギー的に低い構造をしているので、自然界ではウルツ鉱型で存在しています。青色LEDなどに使用されるInGaNをはじめ、実験室や工場で成長させる際もウルツ鉱型ができます。
分極
GaNは全体として見ると中性ですが、原子レベルで構造を解析すると、GaとNの電気陰性度の違いから電子はN側に偏っています。それによって、外部から電磁波や電場を印加しなくても内部では自発分極が生じています。
デバイスとしてGaNを使う場合、一般的には異なる物質を接合して(ヘテロ接号)して用います。その結果、構造の違う結晶を接合したことで結晶内部に物理的な歪みが生じ、それらによっても分極ができます。この分極は圧電分極(ピエゾ分極)と呼ばれており、基盤上に結晶成長させたGaNでも発生します。
自発分極や圧電分極は、特に結晶のc軸という方向に発生します。通常はc軸は結晶成長させる方向なのでデバイスの特性に大きな影響を与えます。
LEDなどの光デバイスとして優秀なGaNですが、こうした分極は発光に不可欠な電子-正孔対の再結合を阻害するとされており、発光効率の低下の原因になります。
一方でパワー半導体といった電子デバイスとしては、内部の分極で生じた電荷
の偏りが半導体のキャリアとして機能するため、不純物をドープしなくとも高い電子密度が実現できます。
非線形光学結晶
GaNは非線形光学結晶の一つです。非線形光学結晶に強い電場を当てると、入射した波長よりも短い波長の光が放出されます。この性質は波長変換の素子に応用できます。
より詳細に説明すると、強電場が媒質に入射した時、非線形光学結晶内部で二次以上の分極成分が発生します。「二次以上」という意味は、分極をテイラー展開した際の二次以降の成分ということです。この成分が波長変換に使用されます。弱い電場では一次の成分、つまり線形な成分だけが支配的ですが、強い電場では二次以上の非線形項が無視できなくなるため、さまざまな効果が発生します。
雑記:材料開発のこれから
あらゆる工業の根底を支えている基盤が材料といえますが、材料開発には膨大な時間と手間がかかります。未知の材料に対しては従来の理論や手法が適応されないこともあり、求める用途に応じた材料を探索するためには実験・理論の両方から突き詰めていく必要があります。
もしもこの世の全ての元素とその化合物の物性を調べられれば、求める用途に応じた材料を発見することができます。しかし、現代科学でも考えうる材料全ての組み合わせに対して、探索空間を網羅することは不可能です。
それを受けて近年では、それまで科学者それぞれが持つノウハウに任されていた、材料探索における経験的、実験的な点を明らかにする流れができています。これまでに得られた経験的手法と膨大な物性データを統合して、統計処理と情報科学の力を借りることで効率的に材料を探索しようとする試みが広がっており「マテリアルズ・インフォマティクス」と呼ばれています。
組織によってその形態は異なりますが、実験/理論/計算のほかに新たに、データサイエンスを付与する試みのようです。