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ヒトの赤ちゃんはどこがどう違う?

ヒトの赤ちゃんと他の哺乳類の赤ちゃんとの違いは何でしょうか?

解答を述べさせていただきますと、
サルなどの高等哺乳類の赤ちゃんは、巣を必要としない離巣性(生まれてすぐ目を開け、歩くことができる性質)であるのに対し、ヒトの赤ちゃんはネズミなどの下等哺乳類の赤ちゃんに近い就巣性(自力で生きていくことのできない状態で生まれる性質)です。

高等哺乳類の赤ちゃんとヒトの赤ちゃんの間には図1と図2に示すような大きな差があります。
高等哺乳類の赤ちゃんはシカやウマの赤ちゃんに見られるように、誕生直後に母親の表情を見て、“危ないの? 怖いことが起こるの?”、“群れのマナーなんだね”、“甘えてもよいのね”など、実体の意味するところを悟ることができます。
ここで、「母親の動作」は実体を表情として反映する役割を担っています。この役割をシンボル体と名付けます。
図1の通り高等哺乳類においては「主体(自分)」、「シンボル体」、「実体」の分離が誕生直後にしっかり確立されています。

図1 誕生直後の高等哺乳類の赤ちゃんの思想の流れ

これに対し、ヒトの赤ちゃんの場合は、図2を見ていただくと明らかなように、主体(自分)、シンボル体、実体の分離がなされていません。つまり自分自身と母親の区別すらできないのです。

図2 誕生直後の人の赤ちゃんの思想の流れ

この時点でヒトの赤ちゃんにおいては“時”の流れ、そして“近さ”“遠さ”の認識はなく、時間も空間もほとんど理解できていないでしょう。
ヒトの赤ちゃんの脳は、まわりの大人の協力により、“時”と“空”との理解を広げていき、“時”の流れとしての時間と“空”の広がりとしての空間の認識が可能になるのです。
宇宙の誕生時と同じような変化、つまり時間の拡がり、空間の拡がりが赤ちゃんの心の中に起こっていることが推測されます。
このことへの大人の理解と協力が必要です。
例えば、誕生直後のヒトの赤ちゃんの場合、他の高等哺乳類とは異なって、乳房を求めて自ら動くといったことは全く無理なことです。
赤ちゃんの口に乳房をもっていってあげないとだめなのです。

しかし赤ちゃんの脳は私たち大人の想像以上に活発に機能しています。
赤ちゃんの脳は能動的にまわりの状況を手探りで模索し、主体(自分)、シンボル体、実体を引き離す作業に励んでいます。
誕生後の1ヶ月、ほとんど目を閉じたような状況の中で、活発にまわりの状況を模索しています。

生後半年、赤ちゃんは視力に乏しく不鮮明なぼんやりした世界しか認識できません。目の前の状況をかすんだ状態でしか観察できない中で、生後0~3ヶ月の赤ちゃんの脳が追い求めているものは何でしょうか。

それは丸いものやヒトの顔に近い画像と言われています。

赤ちゃんは、顔画像への注視、あるいは自発的微笑(生後間もない赤ちゃんが意味もなく笑っているように観察される微笑)などを試みます。
このことへの反応つまり“丸い形”に心地良い変化があれば、脳はとても勇気づけられます。そしてこのことを励みにして周囲のヒトの顔の認識をより確かなものにしていくと推測されます。

この自発的微笑は胎生期の32~35週にピークがあるとされています。
私たち人間は誕生する前から社会参加の準備を始めているのです!

映画『ジョーズ』にも登場する巨大なホホジロザメは、胎生期において何十匹もの兄弟を共食いし、最後に生き残ったたった一匹の勝者が生まれてくると言われています。恐ろしいことですね。
サメは誕生以前に準備として捕食行動を行い、ヒトは誕生以前に準備として自発的微笑を行う。興味深い事実ですね。

赤ちゃんは大人からの働きかけを待つという受身の学習をしているのではなく、自らのもって生まれた行動、つまり自発的微笑などを試み、大人からの適切な反応、適切な回答を待っています。
適切な応答を得ることによって能動的行動の妥当性を知ることができ、大きな励みを得るでしょう。

赤ちゃんからの問いかけに対する回答は、携帯電話、スマートフォン、テレビ等々のメディア、あるいは他のことに気をとられている大人の顔、そして子守役として与えられているテレビ画面からは、何一つ返ってこないでしょう。

生まれた直後であっても、赤ちゃんに対して微笑みかけるという私たちのフィードバックが赤ちゃんの社会参加を後押しするのです。


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