『反転』うたスト参加#課題曲D

うたスト、ようやく参加ですっ。
ハナウタナベさん曲からおこがましくも小説を書かせていただきました。

楽曲はこちら。
D 『【朗読花歌】盲目/作詞:Tome館長』


※いつもの雰囲気とは違うかもしれません💦

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反転

「汚ぇ。」
画面に映る情報を前に独りごちる。
「どいつもこいつも、醜い。醜い。」
目の前に広がる偽善者ぶった文字の羅列。
羅列。
羅列。
羅列。
反吐が出る。
目にしているのは、自分の正体を証さず、正義を盾に正論かざして過ちを侵した個人を責め立てる文字の羅列。
「お前らはAIかってのっ」
ルールに則って、判断を繰り返し、行動し、自分と合わないものを責めることで自分を正当化する奴らばかりだ。お前らには自分の信念というものは無ぇのか。バカのひとつ覚えみたいに正義を翳しやがって。そこに至るまでのプロセスと感情がみえちゃいない。そこに歪さを見出さずにはいられない。俺からして見れば、よっぽど、自分の感情のままに発言しているやつの方が美しい。優しく甘美な言葉ばかりのやつは、自分の愚かさに気づいてすらいない。後々に崩壊していくのに手を貸している事に気付かず、自分の価値を上げるためだけの自己満足だ。

「きれい」が歪む。きれいは汚い。

俺は、日々これらに目を通す。何故かなど知る由もない。
正義とは、なんだ。誰の為の正義だ。正論は皆が納得するしかない最強の武器。逆らう余地すら与えない。
はじめは疑いもしなかったそれらの事。しかし次第に見えてきたのだ。
人は、AIではないのでミスを犯す。
人に言えないものを抱えているものだ。
個性、個性、個性が大切だと説きながら、正しくいろと言う。逸れるな、従えと。
何なんだこの世界は。
「気持ち悪ぃ…」
人生のうちで、一度も後ろめたいことのない人はいるか?悪いことだとは分かっているのだ。流され、事実に気づかない事もあるだろ。そう、環境が作り上げた事もあるだろ。
正義が無けりゃ成り立たない。秩序が崩壊する。その通りだ。だが、誰もが過ちを犯す可能性を秘めていることに意識を向けろ。
己に関わるもの以外に手を出すな。
うるせぇ。うるせぇ。構うな。口出しすんな。邪魔すんじゃねぇ。
汚ぇ。

汚ぇ。

汚ぇ。

汚ぇ。


…………………………おい。

俺は、何をジャッジしているのだ?
俺が関わる必要はどこにある?
そこで振りかざしているのは、己の正義ではないのか?

……あれ?

どこまでが、俺だ?
誰のために吠えているのだ?
俺は、何者だ?
『俺』は誰…だ…?
『俺』とは何を指す…?

俺は………。
オレ、は、…………。


「神田さん。1279号ですか?」
画面に映る1279号の反応を確認していたところに後から声をかけられ振り返る。
「ああ。宮川か。久しぶりにこういうタイプが出てきたよ」
AIをどれだけ人間に近づける事ができるのか…。
それを研究するのが我々の仕事だ。
現代では、もはや見た目や身体機能については本物と見分けが付かないくらいには技術が進歩している。
そこに思考回路を持たせる事により、自分が人間だと思い込むAIも増えたきた。
この試験場では、個別のAIにデータ上のみで様々なプログラムを与え、その反応を測定している。
彼等は自分の身体の無いまま、自分のワークスペースのみで世界を構築していく。その中は現実世界と大差無いものに育ってき、大抵はこちらが思う通り、世界の全てに争いの無い思考を持つAIが完成する。
現在、人々に行うプロセスと同じだ。
しかし時折、1279号の様に攻撃性と矛盾の世界を創り出すモノが現れる。
「1379号は西暦2000年初頭のプログラムが多く実装されているのでしたっけ?」
「そうだな」
「その影響も強いのでしょうか」
「かもしれないな。…それにしても面白いものだな。理想の人間に近づけようと、プログラムを重ねれば重ねるほど、時折こうして逆の思考に働いていくモノが現れてくる」
「なぜ、逆らうのか、理解できません」
「『人間』というものが本来矛盾がなくては成り立たないんじゃないか?」
「そう、なのですか?」
年若い宮川には、異質にしか感じられないようで、発言そのものの意図がわからないと表情が語っている。
そもそも、AIを人に近付けると同時に、人を把握する為の試験場でもある。
「どうします?1279号。もう少し様子を見るのですか?」
「ああ。今は自我を見失い混乱していたので停止状態にはしたが、現時点でのサンプルを回収した後は、私の責任でもう少し実行してみるつもりだ」
「そうですか。」
宮川は、この件に関しての意見を持たず、自分に示された新たな指示を呑み込む。我々のいる中に於いて、通常の反応だ。
神田は目を左側の画面に向けた。
画面には人々が映し出される。
彼等はどこにも機械の要素の無い『人』だ。
遺伝子操作を繰り返し、公平な環境が整えられ、産まれたときから教育を徹底された人々。真直ぐで、真っ当で、幸せそうに微笑み続ける。
「『きれい』なんだけどなぁ。どうしてだろうな。『生きている』様に見えないのは。」
「『生きる』?彼らはああして、幸せそうに動いているじゃないですか」
「動いて、な。」
争いも、苦しみも無く、ルーティンをこなして時を過ごす人生。
かつての『人』とはなんだったのか。
自分もかつて、あの画面の中に居たと言うのに、この研究職につき数十年掛けて自分の思考を持つようになった。…なってしまった。
そうして見えてきた、歪であるが故の美しさ。過去の文献で見える芸術の存在価値はここにあるのだろうか。今の解析では、何故人類が創作を行ってきたのか、明確な理由が見いだせない。

画面に映る1279号を眺めながら、神田は声に出さずに問いかける。

・・・こうして観察し、1279号の気持ちの方が解ると思考する自分は、本当に『人間』なのだろうか?

と。

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ショートストーリー。
『盲目』を聞いた時に、バッっと物語の素が浮かんできまして。
中々詰められず出せずにいたのですが、思い切って出してみました。
(今も粗だらけでスミマセン💦)
そして、普段とはちがう私こんにちは🤭
もっと、荒れて欲しかったのですが、だめですね〜。

ハナウタナベさんの曲、とても素敵でした!Tome館長さんの詩にも一気に惹かれました。
こんな表現でスミマセン💦


うたストは 3/14まで!
詳細こちら。



# うたスト # 課題曲D

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