体験談A②

運よく今日は週末である為、元々身軽な私はほろ酔い気分で彼女の家へと向かった。
なんとなく肌寒くなってきた9月、時々泊ることのある彼女の家には私専用の毛布がある。
帰りしなコンビニで酒とつまみを買い最近の楽しかったことに触れてみた、
今から待っているのが誰もいない彼女の自宅ではなく例の男の後ろ姿を眺める夜になるかもしれないからだ。

彼女の話と言えばもっぱら仲の良い彼氏との痴話か酒での失敗談だった。
分かっていたことだが私含め碌な女ではない。

近所迷惑な甲高い笑い声を響かせながら古びたアパートの外階段をカンカンと音を立てながら上り
鍵を開ける彼女の背後で待機する。

すると隣の部屋からごみ袋を持った男性が出てきた
「こんばんは」
3人の声が重なる
「すみませんうるさくて」
そんなような謝辞を私と彼女が述べると
男性は
「いえいえ」
と少し気まずそうに眉毛をへの字にさせながら困り笑いを浮かべた。

そのままゴミを捨てに男性は通り過ぎて行った。
その後ろ姿を眺める私と彼女。
男性が階段を降り始めたところでハッとして彼女は部屋の扉を開け、私たちは家の中へと入っていった。










にやりと曲がった口元が戻らない。
今日も可愛かったなぁ
ゆがんだ口元から堪え切れず空気が漏れた。

僕が隣の部屋に住む彼女に好意を持ったのは4年前の事だった
大学を卒業したばかりの彼女が僕の隣の部屋に越してきて挨拶に来てくれた時の事だった。
一目ぼれとでもいうのだろうか
小柄で肩より少し短い髪がとてもよく似合う可愛らしい女の子
それが彼女だった。

僕のような冴えない40過ぎのおじさんにチャンスがあるだなんて思ってはいないけれど
だけど
どうしても彼女の幸せを近くで感じたい、そう思ってこのアパートに住み続けている。
幸い家賃も相場より安いため、彼女のことを思いふけっているうちに会社に行けない日が続いてしまい給料が安くなっても暮らしていけている。
同期の話では僕の給料は新人よりも安いらしい。

でもそんなことはどうでもいい
彼女が幸せでいてくれればそれで

今日もお友達を連れてきているみたいだし楽しく過ごすんだろうなぁ。
たまには僕もお酒でも飲んで一緒に騒いじゃおう
そう思いゴミ捨てがてらコンビニに向かうことにした。

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