赤い女

最初の記憶は階段を見上げた景色だった。
幼少期の私は階段下の短い廊下が涼しくて好きだったからだ。
エアコンの無い我家では冬以外はその廊下が何より居心地の良い場所だった。

そしてもう一つ大事な理由がある。
問題になっているのは階段の上にあるスペース。
小さな窓があるそこは所謂踊り場とでも言おうか、何にせよその空間は異様だった。
窓の向こう側は隣接した隣の家の壁が25センチ程離れた場所に建っているはずなのだが。
どうしても私にはそのすりガラスの向こう側に赤い服を着たロングヘアの女性がいる様に見えるのだ。
見えるというよりも感じるという方が近い、
なんせ窓を直視することが出来ないからだ。
それは今でもそうで
もうあの家は取り壊されているのに時折思い出すあの窓を直視することが出来ない。
その家に住んでいた当時、階段を曲がって左には私の寝室があったので夜になると階段を上る必要があったのだが
幼いこともあってダダダダダダッと下を向いたまま階段を駆け上がるしかなかった。

そんな私を父は笑いものにしていた
だが父も階段を降りるのが異様に早かったように思う。

大人になって父にあの家について聞いたことがあった
あの女のことは言わなかった

父曰く借家として偉く安い値段で借りることが出来ていたそうなのだが
もともと持ち主が何人も変わっていたそうだ
あの女が関わっていたかどうかはわからない。

今になって思うことは
あの女はカッパを着ているように見えた気がする。
真っ赤なカッパ
そういえば母が怖がる私を心配して窓際に盛り塩をしたことがあったが何故かすぐになくなっていた事を思い出した。
あの盛り塩はどこに行ったのだろうか。


色々あって母と二人で暮らしていたことがある
最初の家とは全く関係のない場所だ
そこでもあの女を感じたことが何度かある。

もう十分大人になっていて昔の事をあまり思い出せなくなっていた頃なのに。
だが今度は部屋の中だった
すりガラスが格子状になった引き戸の向こう
台所から気配を感じていた。
どうやら私はすりガラスに弱いらしい。

幼少期、記憶があるより前にもすりガラスの玄関に飛びついてすべてのガラスを割ってしまったことがあるという。

全部あの赤い女のせいだと思い込んでしまうのが何よりも恐ろしい。

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