体験談A③

「さっきの男の人しょっちゅう夜にゴミ出ししてるんですよぉ」
そんな話をしながら彼女の部屋の中に入る。

「ふぅん、うるさくしたら怒られるかな」
「大丈夫だと思いますよ、もう何年も住んでますけどこの部屋角部屋ですし
今まで苦情とか来たことないんで」

確かに過去何度も彼女の家で騒いだことがあるが今まで苦情が来ていないのならば大丈夫なのだろう。

帰って早々彼女はシャワーを浴びたいというので家主に順番を譲った。

その間私は缶チューハイとおつまみを机に並べながらあたりを見回す。

特に例の男の後ろ姿は見えないし気配もない。
少し安心した私はふぅと息をつきながら腰を下ろした。
そういえばお化けが見たくてここに来たんだったけど結局なんもなさそうだなー
そう思いながら彼氏には見えていることからもう少し彼女と行動を共にしてみようと思った。

彼女がシャワーから出てくる音がする。
少し早いような気がした。

「早くな~い?」

彼女は青い顔をしている。
私はすぐさま彼女に駆け寄り事の次第を聞いた。

どうやら頭を洗うため目を閉じている時からなんとなく気配を感じていたというのだが、
シャンプーを流し目を開けた瞬間それは風呂場の窓の外に立っていたのだという。
通路に面しているため窓はすりガラスなのだが近頃よく見ているためシルエットで分かってしまったのだという。
でも彼女がここまで怖がっているのは他の理由があった。
今までより距離が近かったのだ。
窓を隔てても足音がわかるほどの距離でその男性はゆっくりと歩いて行ったという。
話だけ聞くと生きている人間の可能性もある為、
女しかいないこの状況では心細いと思いながらも私は静かに外の廊下へ面している玄関のドアへと向かった。
まずドアスコープを覗く。


誰もいない。

次にチェーンを閉めたままドアを少し開く。
そうすると風呂場に面した廊下側が半分だけ見えたが誰もいない。
足音もしないので一度ドアを閉めてゆっくりと静かにドアを開き反対側の廊下を覗いた。

誰もいない。


安心した私はバタンとドアを閉めてチェーンをかけた。

「誰もいなかったよ」
部屋の隅っこで震える彼女を安心させるようにそう告げると、
ほっとしたように縮上がった彼女の肩が少しだけ下がった気がした。

その晩少し汚いが私はシャワーを浴びずに酒を浴びるように飲んで寝た。

翌朝、
お互いシャワーを浴びて話し合った。
「彼氏君の話も聞いてみたいとこなんだけどさ、今日仕事なんだよね?」
昨夜の後ろ姿男パニックの際
男性に助けを求めたくなり彼氏君はどうかと提案したが翌朝仕事だと分かっているので呼べないとの事だったため断念したのだ。
「はい、それに彼氏は後ろ姿の男の人の事気にしたく無いみたいなので…」

「そっか、
じゃあその彼氏と行ったっていう海辺のレストランにランチしに行かない?」
そう提案すると彼女は少しだけ考えた後
「普通にランチだと思えれば楽しめそうなんですけどねぇ」
そう言って後ろ頭を掻きながら渋々車を出してくれた。

昨夜の体験がよっぽど怖かったらしい。

だが先輩の言うことには逆らわない主義なのだった。


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