告白 #05

アルバイト先では、しばらくは何事も無く時間が過ぎていった。僕は出来るだけ多くのことを考えようとせず、目の前にある仕事に集中して過ごすように努めた。スタッフやお客さんとの会話は務めて最小限に、仕事は注意を払ってしっかりとこなすよう意識した。

Mさんの様子にも気を取られることが無いよう、可能な限り冷静に振る舞った。話しかけられれば返事をするし必要なやり取りはもちろんするけれど、必要以上に話をすることは意識して控えたし一方で相手に冷たい印象を極力与えないようある程度の気持ちを込めて応対した。

そういう行為は気配りが苦手な僕にとってはとても疲弊するし出来ればやりたく無いけれど(だから独りでいることが多い)、Mさんを傷つけてしまったのは他ならぬ僕なので自分で何とかするしか無い。普段内側にばかりに向いている意識を、少なくともアルバイトの時にはそのほとんどを外側に向けるよう注意深く行動した。

夕方近くにちらほらと雪が降り始めたので、Aさんが「客足も途絶えたし今日は早く上がりましょう」と皆に声をかけた。受付用テントの戸締りをしていた僕に、「今日、事務所まで送ってくれる?」とMさんが声をかけた。一瞬心臓の音が外に聞こえるんじゃないかと思うくらいに大きくなったけれど、務めて冷静に「分かりました」と応えた。

冷えた車内にはまだ温まっていないディーゼルエンジンの雑な音が振動と共に広がって、僕の気持ちまでが随分と冷え込んだように感じた。加えてMさんは走り出してしばらく何も話さず助手席側の窓の方へ顔を向けているようだったので、さらに3℃ほど体感温度が下がったように思えた。吐く息さえ白いんじゃないかと錯覚したくらいだ。

「こないだはごめん」Mさんが唐突に謝罪する。「言い過ぎた」

寒さと緊張で強張った僕の身体と同じように強張ったMさんの言葉を聞いても、何か言わなければいけないと思う僕の口からは何の言葉も出てこない。

「いろいろあって、ちょっとナーバスになっていた」

「いや、悪いのは僕ですから。すいませんでした」彼女の譲歩した言葉を聞いて、僕はやっと言葉を絞り出す。

「ごめんなさい、許してくれる?」

「許すも何もありませんよ。悪いのは僕ですから」

「じゃあ仲直りっていことで良い?」

「もちろん、Mさんが良ければですが」

「ありがとう」彼女はほっとしたように言う。「お腹が減ったから、何か食べに行かない?」

その切り替えの早さに戸惑いつつ「お供します」と即答する。断る理由が見つけられない。

「よかった、何か食べたいものはある?」

「出来れば温かいものが良いですね」出来れば、というより懇願するようにリクエストしてみる。

「分かった、私が知っているお店へ行こう」

少し温まってきた車内で彼女からどんな料理がお薦めなのかを教えてもらいつつ、僕たちは温かい食事が待っているであろうお店へ向かった。

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