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日本三大秘湯 谷地温泉でぬる湯天国

日本三大秘湯のひとつ、青森県谷地温泉はぬる湯天国である。

ぬる湯を愛する人には天国だか、じっとしているのが苦手な人はダメかもしれない。とにかくじっくり、じっと湯につかるのだ。

谷地温泉の野良猫もリラックス これが理想

ぬる湯は副交感神経優位になるといわれていて、「疲労回復」、「リラックス効果」はもちろん「胃腸の働きと活性化」や「安眠」も期待できるとされる。そんなぬる湯がある谷地温泉に、昨年の夏に初めて一泊し、今回は二度目の来訪だ。前回の宿泊時、ここでぐっすり熟睡できたのに味をしめて今年も来た。私は中途覚醒してしまうタイプの不眠症、それに今年は胃の不調(機能性ディスペプシア)も加わって、温泉におすがりしたい気持ちだった。

予め予約しておいた送迎バスに乗って、青森駅前を午後1時半に出発。利用客は私一人で、午後2時半過ぎには谷地温泉に到着した。食事処「ぶなのしずく」が改修中で足場が組まれた外観がこちら。今年の紅葉シーズンを目標に営業再開予定だそうだ。

改修工事中の谷地温泉

チェックインを済ませて2階に上がる。古い木造家屋だから、スリッパに履き替えて、そおっと歩いても床はギシギシと鳴る。

廊下に共用の冷蔵庫が一台。洗面所は飲用できる湧き水をひいてあった。側に揃えてある水差しとガラスコップは自由に部屋で使える。設備や古さを気にしたら様々気になる点はあれども、ここは秘湯なのだ。宿の外も内も硫黄の匂いがしていて、温泉気分が盛り上がる。

奥には女性用トイレと洗面所
洗面所の湧き水は飲用できる コップや水差しも備えてある

トイレも共用だが、綺麗に掃除が行き届いたウォシュレット。もちろん男女別で場所も離れている。

簡易ベッドのある6畳ほどの部屋 テレビはあるがつけたことがない

午後3時過ぎに、早速一度目の湯浴みをする。狭い風呂に10人以上入っていて混雑していた。さすが夏休み。本来ならもっと登山客が多い夏山シーズン。宿の周辺は自然散策が楽しめるのだが、今年は八甲田に熊が出没して人的被害がでたため、熊注意の張り紙がそこかしこに貼られて自粛が求められていた。

説明書き 入浴の仕方

さて、谷地温泉には源泉が3種類あって、露天風呂はなく男女別の内湯のみだ。午後5時から8時半は男女入れ替え制をとっていて、女性も足元から湧出する源泉(男湯のぬる湯!これがおめあて)を楽しむことができる。男女それぞれの内湯には二つ湯船があり、上の湯(かみのゆ)と下の湯(しものゆ)に分かれている。

ぬる湯とは一般的に40℃未満(34~39℃)の温泉のことだ。ここ谷地温泉は全国にわずか30か所しかないといわれる足元湧出の温泉があり、源泉が湧き出す源泉の上に湯船がつくられている。そのため鮮度が抜群で、しかも源泉温度が低くても加温していないため、泉質が持っている効能をたっぷり得られる。

温泉分析表 単純硫黄温泉[硫化水素型]pH値4.71 遊離二酸化炭素121.3㎎ とある
廊下にかかる白黒写真 湯船にひしめく男女

湯の入り方を読むと、まず湯温38℃の下の湯に30分ほど入り身体を温めてから、42℃の熱い上の湯に5-10分ほど浸かってあがる。最後に36℃の上がり湯をかけておしまい。浸かる時間を徐々に長くし、これを一日4回、身体が疲れない程度に入ると、説明してあった。

館内見取り図
足元湧泉のある男湯 奥に進むと女湯
東館へ続く階段 瀬戸内寂聴先生が源氏物語を執筆した部屋「源氏の間」107号室がある

午後の湯浴みをおえて部屋に戻り、簡易ベッドで本を読んでゆるゆる過ごす。そうしているうちに陽も傾き夕食時となった。

残念ながら谷地温泉には自炊棟はないため、今回は食事つきの宿泊プラン。旅館の外には「いわな池」と呼ばれる生け簀があって、元気のよいいわなが尾ひれを振っている。そこで、とりたてのいわなの刺身や塩焼き、天ぷらがたのしめるプランにした。

いわな池 
飾り気のないシンプルなお膳 この後にいわなの天ぷらがきた 骨の素揚げも

夕食後にいよいよ「霊泉」と称される男性用内風呂(男女入れ替え制)に行く。ぬる湯(足元湧泉)は、入ってみるとやはり特別な湯に思われる。30分ばかり浸かっていただろうか。足元からかなりの頻度であぶくが湧き立ち、するすると肌を撫でていく。新鮮な湯とのふれあいがうれしい。湯船をはじめとする風呂の造りはおそらく青森ヒバ。かなり年期が入っていて一部は修理が必要だ。人手不足の昨今、田舎の辺境にかろうじて残っているこの温泉の存続を願わずにはいられなかった。

翌朝、食事時にスタッフに教えてもらった飲泉のことを記しておく。
たしかに女湯にも飲泉用の柄杓はあった。気が付かなかったが、男湯にもあるという。なんと、上の湯と下の湯の間の渡し板の下にあるらしい。これは常連さんでないと気が付かない。廊下にかかる古い白黒写真には、確かに渡し板を外した飲泉コーナーが映っているではないか。

二つの湯船の渡し板が一部はずされているのに注目 左側に柄杓も見える

この写真はいつ撮られたものなのか。男も女もひしめき合って湯に入る、なんともおおらかな時代だ。

ひとびとは過酷な労働で酷使した身体を治すために、農閑期ともなれば一斉に湯治に繰り出したと聞く。飲泉も言わば医薬品の代用として、切実な思いで行っていたことだろう。

あまり馴染みのない飲泉文化。温泉を飲むという直接的な行為だから、安易に考えてはならないとは想像がつく。一方でこれができる温泉地ということは、温泉がかなり新鮮だということの証と言えるのかもしれない。


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