見出し画像

動画で学ぶ「脳卒中患者の歩行分析」:観察〜仮説立案

今回のテーマは「脳卒中患者さんの歩行の評価」です。

歩行の基本的なことや、正常歩行に関しては以下の記事にもまとめています。

正常歩行について理解することは大事です。

でも正常歩行が分かったとしても、いざ患者・利用者さんを見ると…

…どこ見たら良いんだ?
…そもそも全ての相が正常歩行から外れてるんだけど

なんてことが多くあります。僕も今でももちろんあります。


研究に基づいた歩行の報告や本などでも歩行の本があります。

でも、

なかなか他人の歩行の評価やその見解を知る機会ってないですよね。


ってことで、そのきっかけ作りにツイートしてみました。


まずは歩行を評価してみよう!

そのきっかけは、下のツイート⬇️

皆様、一度動画を見て、「自分が担当になったとしたら」という視点で考えてみてください。

この下の記事を読んで分かったつもりになっても、実践できるようにはなりません。それはあくまで他人の意見ですからね。自分で一度考えることで、今の自分の歩行の評価の実力(どこを見て、そこからどんな仮説を導き出せるか?)を知ることができます。

ブログやツイートなどを読むだけ、セミナーに参加するだけ、講師の話を聞くだけ、では実践力が身につきませんよ。

一度、上の動画を見て、この方の歩行から
①どんな所が気になるか列挙する
②列挙した要素の関係性を考える
③どの要素が歩行能力の向上に有効か(優先度が高いか)を考える
④その要素の改善は、歩行以外のどんなADLに影響するのだろうか?
⑤現状の歩行ではどのようなリスクがあるだろうか?

これは一例ですが、そういったことを考えてみましょう。


上記のように歩行を見る際に、

「何のために歩行を観察するのか?」

という目的を明確にすることも大切です。


何を見るかを決めていないと、何も見れません。
歩行の関節運動や、筋活動を勉強すると(それはもちろん大事なことですよ)、次の日の臨床からそこばかりを見がちになったりします。

何を見るか?は自分の知っていることでしか思いつかないんです。だからこそ自分の知識の幅を拡げることが大事になりますし、またそれぞれの分野を深掘りしていくこと双方が求められますね。


ツイートに対して、多くの方がコメントを下さいました。

ご自身の考えと比較してみてください。各ツイートの下に、内容を箇条書きでまとめていきます。

・麻痺側の左立脚期(LR:左下肢がついて右下肢の振り出しまでの時間)が長い
・右手に力が入っている
→左下肢への荷重が怖い?

というご意見ですね!


では次⬇️

・左右どちらの荷重移動(重心移動)が拙劣
・麻痺側の左下肢の脱力が苦手(力入りすぎ)
・右下肢への荷重・支持ができれば、左下肢の振り出し時の骨盤挙上は少し抑えられるか?


さらに別のご意見、箇条書きしてくれているので、2つまとめて⬇️

・重心移動が苦手
・不安定性がある
・安定性限界が狭い
・分離運動が苦手
・麻痺側の荷重のかけ方が分からない

よくPTから聞くワードです😊もちろん上記のワードに対して、お答えくださったお二方は文字数の関係で簡略化した文章にしているためだと思いますが、じゃあどこを見て重心移動が苦手なのか?安定性限界が狭いのか?を詳しく聞いたら説明してくれるはずです。

以前職場で勤めていた新人〜若手時代に、先輩が「●●さん(ぼくの担当患者さん)は麻痺側の下肢が不安定だよね」「分離運動ができないよね」といったアドバイス?を頂いたりしました。
そこで無邪気なぼくは先輩に、

「どこを見て不安定だと思ったんですか?」
「そもそもどこが不安定性を生んでいるんでしょうか?」
「どんな分離運動ができたら望ましいのでしょうか?」

とか、目をキラキラしながら質問しました!

そこで多くの先輩の答えは、
・何となく
・見たら分かるだろ〜
・う〜ん

みたいな曖昧な答えばかり。もちろんマニアックな説明をしてくれる先輩もいました😊

姿勢制御の戦略…
BOS…
COM…
安定性限界…

なんか学校で聞いたことあったな。と調べると下記のような説明を目にするわけです⬇️

【姿勢と重心】
身体を支持するための基底面(base of support;BOS) は両足で囲まれた狭い範囲であり、安定した姿勢を確保するためには、空間における身体の重心 (center of mass;COM)からの垂線を、その狭い支持基底面内で管理する必要がある。
立位を制御する調節機構に何らかの機能的障害が生じた場合、身体を保持し、安定を保つために最も効率的な姿勢が、体性感覚、視覚、前庭系からの感覚入力に基づいて形成される。
空間に位置するCOMの管理は、身体の各体節の配列を変えてCOMの投射軸を支持基底面内に保つか、もしくは床面に対して作用させる力を調節することによって行われる。
(長谷 公隆「立位姿勢の制御」リハビリテーション医学 2006;43:542―553)

【安定性限界】
バランス能力とは「質量中心の投影点を、安定性限界とよばれる基底面の範囲内に保持する能力」と定義されている。
この安定性限界とは支持基底面内に位置し、姿勢を保てる生理的限界に相当する。一方、身体重心が支持基底面を逸脱することは、転倒もしくはステップを踏み出すことを意味するとされている。
(抜井 周子ら「足趾接地の有無が立位最前傾位での足圧中心位置に及ぼす影響」理学療法―臨床・研究・教育 23:21-24,2016.)

もちろん文章を読めば、言いたいことは理解できます。

でも、実際の所、患者さんを目の前にした時に身体重心とか安定性限界を直接観察することってできなくないでしょうか?

分離運動もそうですよね。ぎこちなさと滑らかさってはっきりとした境界線があるわけじゃないですし、いきなり0→100みたいに異常から、正常になるわけでもありません。ぎこちなさが限りなく減って、どこからが滑らか言えるか?というと曖昧です。観察者の印象による所が大きいわけです。

だから僕は分離運動が困難、とか共同運動パターンと表現するのはあまり好きではありません。もちろんカルテなど他職種の人が目にするものや、書類などで各スペースに制限があるものであれば文字数の関係上、上肢の屈曲パターンと書くことはありますが。

対患者さんや、セラピストに伝える場合には、
「腕を上げる(肩屈曲)時に、同時に肩がすくんで(肩甲骨挙上)、肘と指・手首を曲げる力が入りやすい」

と伝えます。人によって前腕の回内/回外は違ったり、指もどの指が曲がりやすいかも違います。肘の屈筋とともに、肘伸展も同時に収縮する方もいます。
対象の方のイメージが湧くように伝えることが大事だと思います。(実際には●筋がどうなっているか?まで表現できると良いかと思います)

他に頂いたご意見😊↓

動きから、筋の活動までを予測されています。筋活動の予測ができると、それらの筋の触診によってその予測が合っているか?を確認できます。腸腰筋は弱いのか?腰方形筋は硬いのか?また腸腰筋を使う課題を行った後には腰方形筋による代償が減るのか?までを効果判定することができます✨


荷重感覚、も実は曖昧なワードです…僕も若い頃多用してましたがw

荷重感覚については以下の記事を参考に↓


そして素晴らしいツイートが‼️

歩行の観察はもちろん、耐久性や安定性などの実用的な部分までを推測されていますね★

そして介入するなら、どんなことを意識して関わるか?までをつぶやいてくださっています。僕の説明いらないんじゃ?と思うくらい素晴らしい内容です。

普段から、自分が介入をするなら?という視点で観察ー思考されているPTさんだと思います(尊敬)!


小松の歩行の評価

装具なし・T字杖歩行ですね。

1. 歩行の全体像

歩行全体の印象
・歩行速度はかなりゆっくり
・左上肢は屈曲しっぱなし(肘・手首・手指)
・左上肢・体幹・左下肢が全体に一塊になっている

左立脚期
・左の立脚期が長い
・右脚はジャンプするように出す
・左の初期接地は足先が外側
・初期接地ではお尻が引けてその後骨盤を左に出す(右回旋)

左遊脚期
・左脚は骨盤・大腿・下腿が一塊
・左足部は内反尖足
・右下肢の伸展と体幹の右側屈を利用して左下肢を持ち上げる


いわゆる筋緊張、努力性が高い歩行と言えます。また左下肢への荷重はゆっくりと慎重な印象を受けます。左右の重心動揺はありますが、大きく急にふらつくことや、左下肢は硬くしており膝折れもみられないため、転倒リスクとして考慮すべきは、遊脚期での前足部のつまづきだと考えます。


2. 歩行周期に基づいた観察

歩行の目的は、「(目的地への)移動」です。
他記事にも書いてありますが、

いかに重心移動・筋活動を最小限にして、移動したい方向に進めるか?

がポイントになるわけです。

体が大きく上下左右に動くことなく(通常歩行での重心移動は上下とも数センチ)、体を前に進めるか?ってことですね。

観察する際には上半身の傾きや骨盤の動きを指標にすることが多いです。

この方はどうでしょうか?上下の重心移動は動画では分かりにくいですが、左右は、それぞれの立脚期の方に上半身・骨盤が視認できるほど大きく動いています。数センチ(左右移動幅は通常4.5cm程度)以上には動いているはずですよね。

そして前後(矢状面)の動きはどうでしょうか?
ずっと前に動き続けているわけではないですし、かなりゆっくりです。

では下の画像をみてみましょう!


ここから先は

6,983字 / 2画像
この記事のみ ¥ 1,000

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?