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『小説の題材探し』


カアカア。
烏が鳴いている。気がつくと、既に空は朱色に染まっていた。
「あと10分で図書室を閉めますよ~!」
と、司書の先生が奥まで聞こえるように声をかける。その声かけに図書室内に居た人たちは支度をし、帰り始めた。もうそんな時間か、と思いつつ、私―安倍川遥(あべがわはるか)も、支度を始める。その時、後ろからバシッと肩を叩かれた。じんじん痛む肩を手で押さえつつ、振り向く。そこには、私の幼なじみであり、親友の赤城凛(あかぎりん)が立っていた。
「凛……、痛いよ。凛はバレー部で腕が鍛えられてるんだから、力加減は考えないと。」
「ごめん、ごめん。でも、もう中3だし、私、引退してるよ?」
問題はそこではないのだが、と私はため息をつく。つきながら、持ち出していた図書室の本を元に戻そうと手にとった。すると、凛が何の本かと首を傾げて、題名を読み始める。
「“百年戦争~オルレアンの乙女·ジャンヌダルクにせまる~”って、遥、百年戦争なんて調べてたの?!」
「うん…。最近、百文字物語の題材に行き詰まってて、百と言えば、百年戦争かな…と。それで調べてたんだ」
「全然、百文字物語と関係ないし、それを読んでも、題材に行き詰まったままにならない?」
「うっ…言わないでよ、自分でちゃんと理解してるんだから」
そう言って、私は近くにある本棚にその本を直す。直しながら、話題転換をさりげなくやった。
「それより、早く帰んないと、司書の先生に怒られるよ?」
「確かに。じゃ、無駄話してないでさっさと帰っちゃおうか」
「無駄話って、凛が先に始めたんじゃない」
「あれぇ、そうだっけ?」
凛がわざと頭の上にはてなマークを浮かべる。肩をすくめて、私は凛を促した。
「とぼけてないで、帰るよ」
「はーい」


学校を出ると、空は朱色はさらに濃くなって、紅色になっていた。
「綺麗だね!」
凛がにっこりしながら、言うものだから、こちらもつられて、にっこりしまう。
「そうだね」
にっこりしていた凛だが、しばらくして、少し悲しげな表情になった。
「遥はさ、高校の志望校は、もう決めた?」
いきなりの問いに少し驚いたが、
「うん、決めた」
としっかり言った。
「やっぱ、進学校?」
「うん」
凛の顔はさらに寂しげになる。最終的にはうつ向いてしまった。
「そっかあ。じゃあ私たち、全然違う道になるんだね」
凛のその言葉で、凛が行こうとしている高校が分かった。おそらく、バレー部の強い高校だろう。でなければ、テストの順位がいつも同じの凛と私が道を違えることなんてないのだから。私はあえて、凛の志望校について触れず、励ました。
「でも、実際、そこに私が合格するかどうかなんて、分からないじゃない?もしかしたら、不合格になるかも」
「確かに、その可能性もあるよね」
凛が少し微笑む。だが、瞳の奥は少しも微笑んでなかった。
「凛…」
私は心配になって、凛の顔を覗き込む。その時、凛の瞳が見開いた。
「あっ、あそこ!カマキリっ!!」
「ふぇ?!」
いきなりの大声に変な声が出してしまった。その羞恥心は収まってないが、とりあえず、凛が指を指した方向を向く。そこには、木の幹に折れた枝で刺されたカマキリがぶら下がっていた。むろん、カマキリはすでに死んでいる。
「なんで、刺されてるの?自殺?」
さっきの静けさはどこへやら。むしろ、凛の瞳は、好奇心に駆られて、キラキラと輝いていた。
「いや、これは百舌鳥の仕業かも」
「百舌鳥…って、あの可愛い小鳥のこと?」
「うん。百舌鳥はこうやって、捕まえた虫なんかを壁とか木の幹とかに枝で刺す習性があるんだよ。確か、“百舌鳥のはやにえ”って言うんじゃなかったかな」
「へぇ~、初めて知った。あんな可愛い小鳥でも、こんな残酷なことができるんだね」
「私も最初知ったときは衝撃だったな」
あはは、と笑い合っていると、ふと、凛が真面目な顔になった。
「どうしたの、凛?」
さっきの話に戻るのかと思いながら、凛の顔色を伺う。が、心配は無用だったようだ。
「……ねぇ、遥、百舌鳥を題材にして、小説を書いてみたら?」
凛が言ったのは、1つの提案だった。
「えっ。それ、百文字におさまるかな……?」
「別に百文字物語に固執しなくても良くない?遥なら、短編小説くらい、余裕でしょ?」
私は首をぶんぶん横に振る。短編小説なんて、私には無理である。
「ええっ!私、短編小説書いたことないんだけど……」
「チャレンジすることって、大切だよ?ね、お願い。1回だけで良いからさ、書いてよ」
凛が、両手を合わせてくる。もう逃れることはできなかった。
「しょうがないなぁ、1回だけだからね」
「わーい!」
夕焼けの空を見た時のように凛はまた、にっこりと微笑んだ。
「少しは元気、出た?」
そっと聞くと、
「何のことやら。私はへこたれてなんてないよ」
と話をそらす。けれど、後から遅れて、
「ありがと」
そう凛が言う。私はへにゃ、と笑顔で
「どういたしまして」
と言った。


帰ってから、私は毎日持ち歩いているノートをカバンから取り出した。
「書き出しは、やっぱ、ここからだよね」
独り言を呟きながら、シャープペンを握る。
そして、ノートの上でシャープペンを走らせる。
“カアカア。烏が鳴いている。気づくと、”
書き始めると、言葉は溢れてくるばかりで、止まらなかった。


意外と短編小説の方が自分に向いているのかも、と思ったことは凛には内緒の秘密である。




(あとがき)

1ヶ月前くらいに、LINEのオープンチャットであげたモノです。お題で、“百”という単語が付くものを3つ使え、だったので、妙に百が出てきたかと……。ちなみに私が使用したのは、“百文字物語” “百年戦争” “百舌鳥” です。百文字物語書いてる主人公なんているのか……??という疑問については、流して頂けると、とても嬉しいです(。-人-。)💦 

最後に、読んでくださりありがとうございます!不定期、遅い、下手の3拍子が揃う私の小説ですが、また読んでいただければ幸いです。

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