花粉症と杉のこと
花粉症の薬をもらうために耳鼻科にいった。今までは対策らしいことをせず、マスクだけで過ごしてきた。なぜかと言われると答えに窮する。被害を被っていながら病院を面倒くさがる背後には、変化を恐れ嫌う心理があったように思う。
春の山野は草花芽吹き、少し押し付けがましい甘い匂いの風が吹く。しかし花粉症に苦しめられるようになってからは、くすんだ橙色になっていく杉への憂鬱が多分に交じる場所に変わってしまった。
自分にとっての身近な山のイメージは、所狭しと隙間なく植えられた杉、杉、杉に尽きる。戦後に植えられたであろう大量の杉に支配された山が、自分にとっての「普通の山」なのだ。
背が高く常緑樹の杉は、年間を通してほとんど変わらない山の景色を作った。景観としての四季を奪い、花粉を撒き散らし、山に終日暗い影を落としている杉。杉は現代の日本人に最も嫌われている木といっても過言ではないだろう。
しかし成長が早く長命、真っ直ぐ高く育つ杉の姿は生命力に満ちている。建材としての有用性も高く、古代から信仰の対象になっていたことは、杉が多くの神社で御神木になっていることからも分かる。飛鳥時代の歌人である柿本人麻呂は、杉を使ってこんな歌を詠んだ。
杉が昔から植林されていたことへの驚きと、現代ならネガティブに想起される「植林された杉」を幻想的に扱っている点が面白い。
どこまでが植林された杉で、どこからが原生林なのか。もともとの姿を想像することは難しいが、かすみたなびく杉の枝は、今も春の訪れを告げている。
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