車中泊、暑くて寝られなくなる/ボンネットを叩く音のこと
船が暗い海を走る。勝浦の港に帰ってきた。これから夕食をとって、寝床へと向かう。食べる店は事前に決めていない。港町で宿も多いので、どこかしら食堂があるだろうと高を括っていた。
しかし地図を見ると多くの店が「営業時間外」。「営業中」の店を頼りに行ってみても閉まっている。普段からこうなのかわからないが、地方の店で営業日や時間が曖昧だったりするのは珍しいことではない。仕方がないのでチェーンのファミレスや牛丼屋さんにしようと思ったが、それらもかなり離れたところにあるようだ。
あちこちに車を走らせて、中華料理屋さんを見つける。店先にはのれんが出ていて、営業中の看板。中国人、台湾人がやっているフランチャイズっぽい赤看板の店かと思ったが、違うらしい。客は自分ひとり。定食は昼間しかやっていないので、少し高くつくが単品メニューを頼む。高菜炒飯、野菜炒め、1300円くらい。
コンビニ駐車場で歯磨きなどを済ませ、今夜の宿に向かう。熊野那智大社の手前にある大門坂、のそのまた手前にある駐車場、をさらに越えたところにある温泉施設(無期限休業中)、の隣にある名もなき公園の無料駐車場。
道中、すっかり日が暮れているので周りの景色がわからない。なんとなく人家の少ない山道を進んでいることだけわかる。
駐車場は微妙に傾斜になっているので、少しでもたいらなところを探す。公衆トイレには大きな板が打ち付けられていて閉鎖中。昼間は開けているという感じでもない。自殺でもあったのだろうかと、怖い方向へ想像力が進む。少し不気味だ。
22時くらい。やることもないのでさっさと寝る。が、暑くてまったく眠れない。湿気があって汗も出てくる。厳しい残暑とはいえ10月の山奥の夜。出発前は寒くなるのではないかと思って、寝袋とウルトラライトダウンを用意していた。それらもこうなっては、シャカシャカとかさばる邪魔な荷物に成り下がってしまう。
何時くらいかは不明。ドッドッドッとボンネットの辺りを三度叩かれる音で飛び起きる。警察にしては気配がなさ過ぎる。徒歩巡回はありえない。変質者、動物、一瞬の間にさまざまな考えが巡る。カーテンを開けるのをためらう。
ドドッ、ドドドッと音が続く。雨だ。一粒目から大きい。薄い天井だから大きく聞こえるのかもしれない。そのまま降り出すのかと思ったら、そうでもない。蚊が入ってくるので窓を開けることもできず、エンジンをかけてエアコンで冷やすこともせず、何度も何度も寝返りをして夜明けを待った。
つづく