ハッピーウェディング前ソングを聴いて主体性を恢復しよう

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ハッピーウェディング前ソングという曲を最近知った。ヤバイTシャツ屋さんというグループの曲で、ダンスがかわいかったりアウトロで転調したり女の子が一人で歌うところとか、ポップさの観点からもなかなかの名曲だと思うのだが、自分が一番心惹かれたのは歌詞の露悪さ、さらにはそこから伝わってきたメッセージである。というわけで少し文章を書いてみようと思う。

さて、この曲、1にも2にもダンスが人気だ。自分はそこはよくわからないがかわいいというのは分かる。正直それ以上の感想はあんまりない。

その次に見えてくるのが、意外にも楽曲への割と辛辣なコメントである。どうやら歌詞の内容に対して反感を抱く方々がおられるようだ。「いとこがこの曲を結婚式に使おうとしていたので全力で引き止めた」などという美談まがいのものまである。確かに「ノリで入籍してみたらええやん」や「多分2年以内に分かれる」という歌詞は、ハッピーウェディング前ソングという一見ポジティブなタイトルに対して中々挑戦的なパンチラインである。この曲が軽薄なメッセージをポップさというオブラートに包んで表層的に誤魔化した醜悪な曲だととらえられる理由もわかるし、それ自体を否定するわけではない。むしろ今回の文章はその立場に根付くものである。この曲はわざと露悪的に作られているのだ。

ここで明確にしておきたいのが、そういった方々がこの歌詞のどういった点に不快感を感じたのかということである。個人的憶測だが、それは上述の「ノリで入籍してみたらええやん」や「たぶん2年以内に分かれるけど」という歌詞に見られる、結婚という重大な局面に対するあまりにも無責任な姿勢にあるのではないだろうか。自分もそれについては当然ながら同意見で、結婚という二人の人生を左右する曲面にたいして慎重な姿勢はあってしかるべきだと思う。「ノリで入籍してみ」なんて言っちゃあかんよな。

だが、この曲におけるその言葉は、結婚する当人たちの意見じゃなくて勝手に第三者が喚いてる内容である。歌詞をよく見てほしい。この曲は一貫して第三者がカップルを暴力的に囃し立てる内容に終始し、カップル当人たちの意向は全く記述されていないのである。この曲における「入籍」に、カップル二人の意思は反映されていないのだ(少なくとも、カップルが考えに考えて入籍に至った、という過程はこの歌における第三者には全く見えていないだろう)。そう考えてみると、この曲で述べられている結婚観は我々のものと必ずしも合致する必要はないことが分かる。なんせ関係のない他者の意見なのだから。
しかしまあ、なんとおぞましい内容であろうか。「ウチが取り持ってあげる!」という部分に至っては第三者の純粋な善意が原動力となっている分、もはや恐怖まで覚える。

先程の「いとこがこの曲を結婚式に使おうとしていたので全力で引き止めた」という話がもし本当なら(流石に嘘だと信じたい)、その結婚するカップルの意向を無視して自身のこの曲に対する感想を押し付けたということであり、それはこの曲で歌われている「第三者が当人たちの意向を無視して無責任な言動を押し付ける」という構図そのままなのだ。そのカップルだって思うところがあってこの曲を選んだのではないかとどうしても思ってしまう。

では結局何が言いたいのか。この曲は何を伝えんとしているのか。それは第三者の無責任で軽薄な押し付けに屈せず、自分が、自分たちが主体性をもってやりたいことを貫けばよいのだということである。何を隠そうこの曲は第三者の無責任さ、軽薄さ、暴力性、理不尽さなどといった「外の世界から押し付けられる嫌なもの」をひっくるめた露悪的な歌なのである。だからこそ、対照的に当人であること、自分の意志を持つことの大切さが際立つのだ。自ら嫌われ者になり、反面教師たらんとするヤバイTシャツ屋さんの啓蒙的姿勢に心が打たれる。

現代社会は第三者の声が大きすぎる。生活のあらゆる面において常識や作法、ポリコレといった得体のしれない匿名の暴力が個人の意思決定を掌握しつつある。概してそういった暴力的規範を押し付けてくる存在は、主語を大きくしないと何も主張することの出来ない、主体性のない人たちの境界のない漠然とした集合体にすぎない(匿名性のSNSに群れているのは非常に理にかなっている)。そんなに第三者は偉くないし、押し付けてくる内容も無責任で薄っぺらだ。みんな自我という主体性をしっかり持って、そういう有象無象に立ち向かっていこう。自分はそういうメッセージをこの曲から受け取った。

だから、もしこの曲が結婚式場で流れたら逆にかっこいいと思う。ま、自分なら他の曲を流すけどな。知らんけど。


2022/07/17 追記
この前このバンドにゆかりのある富田林に行ってきて、この記事のことを思い出した。上で書いてることももっともだが、まったく別のベクトルからも改めて共感している。それは、結婚なんてのはノリじゃないと出来ないということである。はっはっは。

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