見出し画像

Von Frey試験法のあれこれ

In vivoでの痛みの研究においては痛覚や鎮痛剤の効果を評価するためにホットプレート、Von Frey、化学刺激法など様々な手法があります。今回はVon Frey試験法についてご紹介します。
Von Frey試験法とはMaximilian von Freyが考案した痛覚測定法で、げっ歯類にフィラメントを押し当てて、痛覚の検知を評価する試験です。
現在、太さの異なる複数のフィラメントを用いる簡易式試験と、電子式のVon frey試験法の二種があり、それぞれの試験手順は異なります。

●簡易式Von frey試験法

太さ、硬さの異なる複数のフィラメントを用いて痛覚閾値を探ります。
手順としては下記の3種がございます。


簡易式Von Freyによる試験の進め方 Deuis R. et. al. 2017

・”Up-down”法  (上記図A)
50 %の動物が刺激からの忌避反応を示す閾値LD50sを評価する方法です。
LD50sに近い値を推定し、該当するフィラメントで刺激を与えます。
忌避反応があったら細いフィラメントで、なかったら太いフィラメントで再テストする。
反応の有無に変化があったステップから最低4ステップ分の試験を行う。
最低でも6回分の反応が見られる。
LD50s (g)= 10^(X+kd)/10^4

X: 最後に諮ったフィラメントの値(対数値)
k: 反応があったパターンのt分布
d: フィラメント間の増分(対数値)

増分が等間隔でない市販のフィラメント(したがって、dには平均増分が使用される)、対数単位での圧力の不正確なラベリング、および最初のフィラメントが平均閾値に近い必要があることにより、実用性が制限されます。
デメリットは動物ごとに試験回数が異なるため、時間がかかって感度が上下することがあります。

・”Ascending stimulus”-刺激増加法 (上記図B)
細いフィラメントから複数回刺激し、フィラメントを太くして繰り返す。フィラメントごとに5-10回刺激し、20-40%の反応率があったところで痛覚を評価します。忌避反応が起きる刺激を余分に発生させなくて済むのがメリットです。

・”percent response”-反応確立評価法 (上記図C)
複数のフィラメントを用い、各フィラメントで一定回数(5-10回)刺激し、それぞれの圧力における反応を確率に変換します。こちらは各動物の試験回数が等しくなるメリットがありますが、時間がかかるうえ、閾値以上の刺激へ複数回刺激する可能性があります。

●Von Freyの共通事項

・試験前に動物を馴化させる必要があります。マウスだと最長15分、ラットだと1時間もしくはそれ以上かかります。動物が毛繕いしていると偽陰性が発生しがちです。個体内~個体間のばらつきを抑えるため、刺激箇所は正確かつ固定位置で行います。
・フィラメントは垂直かつスムーズに足裏へ刺し、刺さった後は水平に動かさないこと。閾値の手前で反応する可能性があります(touch on 反応)。
・実験回数が多いと動物は学習して、本来の閾値前に脚を引っ込める可能性があります。
・偽陰性やtouch on反応の判別は経験を要します。
・ほかの実験でも言えることですが、実験環境、品種、個体、系統などで数値が異なります。これらの事由によって文献値と離れることがよくあります。

●電子式Von Frey

電子式Von Freyは単一の、コシが強いフィラメントで測定します。一回の測定において、足を引っ込めた時点の圧力を記録・測定します。
一個体一ヶ所の測定回数は3-4回程度で、簡易式と比較して実験回数と時間は少なくなります。よって動物への負担が小さくなるほか、多数の個体へ実験するのに向いています。
馴化が必要なこと、偽陰性とtouch on反応の判別が必要になることは簡易式と変わりありません。それに加えて、電子式Von Freyの測定値は簡易式と比較して高くなる傾向にあります。例えば、C57BL/Lマウスの場合、LD50sの値は簡易式で0.6~1 gなのに対し、電子式機器の一つであるMouseMet (TopCat Metrology)で4 g程度、後述のDynamic Planter電子触覚測定装置(Ugo Basile)で6 g程度になります。これは作動する感覚受容器が異なることが考えられますが(e.g. 低閾値機械的受容vs. 高閾値機械的受容)、一般的には電子式でも機械的アロディニアの測定には有効とされています。
ちなみに無処置ラットの場合、上述のDynamic PlanterだとLewis系統で22-27g程度、Wistar系統で15-22g程度の閾値が報告されています。

以下、電子式Von Freyについて弊社の製品をご紹介します。

●BIOSEB Von Frey式電子痛覚装置



機器にカメラが内蔵されており、PCと接続することで画面越しに後肢と針を確認することができます。
圧力のかかり方はグラフ化されるため、フィラメントのスムーズさも確認できます。
圧力数値、グラフ、ビデオが記録されるため、刺激が適切にかかっているか確かめることができます。記録されたデータはExcelもしくはテキストファイルで抽出することが可能です。

●Ugo Basile 37550 Dynamic Plantar電子触覚測定装置

Ugo Basile 37550 Dynamic Plantar電子触覚測定装置

こちらはスイッチを押すことでフィラメントが自動的に上がるようになっております。
機器側でかかる圧力、最大圧力までの到達時間などを設定することができます。こちらもデータをcsv形式で出力できます。
機械で垂直かつ自動的に圧力が入るため、touch on反応による誤差は少なくなるのが特徴です。また、Holdステップで一定の圧力までかけて、反応するまでの時間を測定することも可能です。

●参考文献

Frontiers | Methods Used to Evaluate Pain Behaviors in Rodents
Chronic Constriction of the Sciatic Nerve and Pain Hypersensitivity Testing in Rats - PMC
Dynamic Planterによる実験動画あり。ただし手術の様子もあるので注意。

Differential effects of locally and systemically administered soluble glycoprotein 130 on pain and inflammation in experimental arthritis | Arthritis Research & Therapy | Full Text

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?