冷凍庫の霜
ぼくの家には小さな冷凍庫がある。
この冷凍庫には、長期保存が可能な冷凍パッケージのおかず弁当が入っている。弁当は塩分が調整されていて、体に良いとのこと。最近は弁当のグレードも上がり、味付けも濃く、コンビニ弁当と大差ない味になってきている。
ぼくは、気まぐれな食事が多いので、こうゆう弁当を食べていかないと栄養配分などめちゃくちゃになり、体調も不調になっていくのだろう。さらに冷凍庫を開ければいつでも食べられる。近年の隠れたヒット商品ではないだろうか。
幼少の記憶に氷の塊を入れた冷蔵庫がおぼろげに浮かぶ。それに比べたら、今の冷凍食品や冷凍庫の性能には驚きである。戦後の経済高度成長や技術の進歩、生活水準の変化をまざまざと感じるぼくは、だいぶ年をとったらしい。
弁当を月に一度、二十個ほどをまとめ買いするのだが、冷凍食品なので、届いたら直ちに冷凍庫へ入れる。冷凍庫は三段の引き出しになっていて、毎回仕舞う時、不遇な局面に出会うのだ。冷凍庫の中に霜が育ち、引き出しを出すのを阻止する。背には届いたばかりの弁当を感じながら、引き出しを力任せにあけないように、ぼくは自分に言い聞かせる。「落ち着け、まだまだ時間はある。ゆっくりそっと開けるのがポイントだ。」
少しずつ霜を指で取りながら引き出しをこじ開ける。なんとか引っ張り出せたなら弁当を詰める。余裕をもって詰めるわけにはいかない。小さい冷凍庫の宿命である。引き出しがパンパンになるように詰めて冷凍庫に仕舞う時、再度の試練に見舞われる。縦に入れた弁当が霜に引っかかるのだ。ここでぼくは弁当に声をかける。「もう少しだ、耐えてくれ。」そうして引き出しは所定の位置まで収まっていく。
いつも同じことをやってはいられないと思案した。そして、霜取り用に用意したのが、ヘアドライヤーのように局所に温風を当てる小さいヒーターである。これで、弁当にすまんと声を掛けなくても済むようになればよいのだが。