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初めての明晰夢

『ご冗談でしょう、ファインマンさん』という本がある。この本は天才物理学者リチャード・P・ファインマンの人生を書いた内容で、天才のエピソードが好きな私にとってそれだけで興味を引く内容なのだが、買った理由はそこだけではない。
この本を買ったのは数年前になる、その頃の私は明晰夢、俗にいう幽体離脱や体外離脱というものについて調べるのにハマっていた。連日にわたって調べていると、どうやらこの本のなかで、ファインマンが明晰夢を試みるくだりがあるらしいというのを知り、買った次第なのである。上下巻に分かれており、上巻の『逃げの名人』という章に明晰夢に関するエピソードが書いてある。
ファインマンは覚醒してる状態から、眠りに落ちる瞬間の意識の流れに興味が出て、眠りに落ちるまでの自分の意識を観察するという検証をした結果、明晰夢を体験したから、夢の中で好き勝手したいと思って意識の観察をしていた俗っぽい私とは、まるで動機が違う。
今の私はもう、明晰夢に対する興味もなくなり夢日記なども付けなくなったが、その時期に一度だけはっきりとした明晰夢を体験したことがある。

当時、私はベッドにうつ伏せに寝ながら、意識を観察していた。そのままフッと意識が落ちて曖昧な感覚になったあたりで、私はうつぶせの状態から体を起こした。目は開いており周りの景色は先ほどまで寝ていた自室なのだが、そのときの独特な感覚から、これは現実ではなく夢だ、というのが分かった。私はワクワクしながらドアを開けて廊下に出ると、リビングからジュージューと焼き肉を焼くような音が聞こえる。私の立っている廊下とリビングの間には扉があり、それは閉まっていたので、リビングで何が起きているのかは扉を開けないと見えない。こんな時間に家族が焼き肉をしているわけはない、そう思っていったん私はリビングとは反対方向にある洗面所へ向かった。引き戸を開け洗面所に入ると、いつも手を洗うのに利用していた蛇口と鏡が目の前にある。鏡には自分の姿がはっきりと映っており、近づいて鏡に手を触れると、ペタリ、としたリアルな感触を感じたのを覚えている。私は夢の中で鏡の反射までしっかり描写されていることに興奮して、どのぐらい精度の高いものなのだろうと思い、夢の世界を試すように、鏡の前で前後に近づいたり離れたり、何度もジャンプしたりしてみた。
しかしそのあたりで急に目が覚めてしまい。ベッドの上で仰向けで自分が寝ていたことに気づく。
結局焼き肉のような音の正体はわからずじまいだったが、明らかに通常の夢とは感覚が桁違いにリアルなその世界で、家族と出会ったりしなくて良かったと思う。

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