体温計
子どもの頃、体温計を割ったことがある。
電子体温計ではなく、目盛りで熱を測るタイプのガラスでできた体温計で、使う前だか使ったあとにだったか、振るようになっていて、それでなにかに当たって体温計が割れたのだ。
その途端、ふだん寡黙で怒鳴ることなどない父親が「触るなよ!」と鋭く声を飛ばしてきて、割れた体温計のなかから飛び散った銀色の玉をもの珍しく触ろうとしていたわたしはビクッとして手を引っ込めた……父親は続けざまに「口を触るな」「手を洗ってこい」と銀色の玉からわたしを遠ざけた……あれは水銀だったのだと今ならわかる。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?