「交渉人遠野麻衣子」発売に当たり、どこを改稿したのかという話

・私はホラー小説でデビューしたわけですが、どちらかと言えばキライなジャンルであります。だって怖いんだもの。
・その点、警察ミステリー小説は読者としても慣れ親しんだジャンルであり、書けそうな気がすると思って取り組んだわけですが、よく考えると出版社のサラリーマンの私に警察との接点はなく、「書けそう」と「書ける」はまったく違うのだなぁと天を仰いだものです。
・そして、私にはトリックを作り出す能力がなく、ミステリー小説は好きですが、それは読む側としての話で、書く側としては何もできない、そこから「交渉人遠野麻衣子」は始まったわけです。
・ですから、いわゆる「犯人当て」のミステリー小説としては、ハッキリ言って完成度低いです。ただ、構造的に(以下9文字伏せる)なので、何とかなったのですが。
・さて、諸事情あってこの度完全改稿の上で「交渉人・遠野麻衣子」が河出文庫から6月6日に発売されるわけですが、じゃあどこをどう書き直したんですか、がポイントになるかと思います。
・まず言えるのは、前回も書きましたが、時代背景を現代に変更したことで、そこは繰り返しになるので、これ以上は触れません。
・他に大きく直したのは、「視点」です。
・視点とは何かと言いますと、ここでは場面における話者を指します。
・小説のルールとして、1場面の話者は1人だけ、同じシーンで複数の視点はダメよ、というのがあります。基本ですね。
・しかし驚くべきことに、私はその基本がわかってませんでした。
・河出文庫版「交渉人遠野麻衣子」のために、十数年ぶりに読み返したところ、視点がメチャクチャで、よくこんな物が本として書店さんに並んだものだと震えてきますが、なぜ誰も注意してくれなかったのか。びっくりだぜ。
・作家が(例えば単行本の文庫化に際し)「私の文章があまりにも酷くて恥ずかしい。穴があったら入りたい、文章化を断ろうかと思った」みたいな後書きを読むたび、ウソつけ、と私は思っていました。それって言い訳みたいなものでしょう、と。
・ところが先人敬うべしで、ホントに過去の自分は下手だなぁ、稲川淳二さん的に言えば「ヘタだなー、ヘタだなー、嫌だなー、嫌だなー」と思わざるを得ないほど下手で、ゲラを全部焼いちゃおうかと思うぐらい絶望的に酷くて、そこを直すしかないとわかっていても、それって若かりし頃の自分と向き合うことなので、まあ恥ずかしいったらありゃしない。
・また、小説は前の文章を受けて、次の文章を書き、更にその後の文章に繋がるので、一つ直すと全部直さなきゃならないんですね。
・苦労話は自慢話なので、この辺でやめますけど、そーゆー作業を繰り返していたら、全体が変わってしまったわけです。
・今回「交渉人・遠野麻衣子」は単なる復刊ではなく、ほぼオリジナルの新作だと私が主張するのはそのためで、「昔読んだからもう読まない」とか言わずに、改めてお読みいただければと心から思っております。よろしくお願いします。なのでした。

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